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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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ビデオゲームのメタフィクション論

割引あり

おっと、どうせ前の
セーブデータに逃げれば
いいって思ってるでしょ?

お気の毒ですが
きみのセーブデータは
消えちゃいました。

Undertaleより

「メタフィクション」や「第四の壁の破壊」という言葉を聞いたことがあるだろうか。フィクションの登場人物が、我々観客に話しかけてきたりするアレである。

その作品がフィクションであることを浮き彫りにし、フィクションと現実の境界を際立たせることもあれば、逆にフィクションと現実の境界を曖昧にして独特の没入感を生み出すこともある。

好き嫌いが分かれる手法だと思われるが、僕は大好きだ。そしてゲーム業界を志望する学生の中にも、この手のものを作りたいという子が一定数いる。
そこで、この記事では「メタフィクション」や「第四の壁の破壊」について自分なりにまとめてみようと思う。

※既存の理論の参照や取り扱う事例の解釈には曖昧な部分もあるかと思われますが、「メタフィクション」や「第四の壁の破壊」が表す概念の実用的な整理を目指しているので、気になる点があればご指摘ください。


1.導入

この記事の背景

  • 専門学校でゲーム業界志望の学生と話していると「第四の壁の破壊」や「メタフィクション」をやりたいという学生が少なからずいる。

  • しかし、それらの言葉が指す内容や範囲が曖昧ではっきりしないので実のある議論にたどり着くまで時間がかかる。

  • ちなみに僕自身も「第四の壁の破壊」や「メタフィクション」は大好物だ。

この記事の目的

  • この記事では、ゲームにおける「第四の壁の破壊」や「メタフィクション」という概念を整理すること目指す。

  • ぼんやりとそういうことがやりたいと思っているゲーム業界志望の学生に、事例とあわせて具体的な方向性を指し示すことが出来たら嬉しい。

2.前提とすること

第四の壁とは

  • 第四の壁とは、演劇において舞台と観客席を分かつ壁のことである。

  • 舞台の背景と両脇を一、二、三と数えて、観客席との間を第四の壁と見做している。

  • フィクションである演劇の世界と観客のいる現実世界の境界を表す概念である。

第四の壁の破壊

  • 西洋演劇において「第四の壁を破る」という言葉は、登場人物達が観客に見られていることを「自覚した」ときに用いられる。

  • 最もよく見られる事例は、登場人物が観客に対して話しかけることが挙げられる。

  • 第四の壁を破るキャラクーといえばマーベルのデッド・プールが有名。

    • 「マーベル VS. カプコン」のデッド・プールは、ライフゲージや必殺技ゲージを武器にして攻撃(文字通りの意味で)したりと、やりたい放題で最高なので、ぜひともプレイしてもらいたい。

必殺技ゲージで攻撃するデップー

メタフィクションとは

  • 自己言及的なフィクション。つまりフィクションについて言及するフィクションのこと。

  • 「それがフィクションである」ということを自己言及的に描くことで、フィクションと現実の関係を意識させる。

  • よくある事例として、登場人物が自分がフィクションの登場人物であることを自覚しているようなことを言うメタ発言がある。

3.第四の壁はどこにあるのか?

疑問

  • ここで1つの疑問を提示したい。

  • 演劇における第四の壁は舞台と客席の間にあり、映画の場合はスクリーンが第四の壁と言える。

  • ではゲームにおける第四の壁はどこにあるのだろうか?ゲーム画面を映し出すモニターやディスプレイがそれにあたるのだろうか?

第四の壁は既に破られている?

  • ゲームでは現実世界のプレイヤーが、画面の中のキャラクターを(そしてフィクションの登場人物を)操作して遊ぶ。

  • またゲームからのフィードバックも、ビジュアルやサウンド、コントローラーの振動などによって現実世界に反映される。

  • そういう意味では、ゲームはゲームという形式である時点で第四の壁を破っていると思われる。

ゲームと現実の間の壁

  • しかし、プレイヤーがゲームキャラクターを操作して、その結果がプレイヤーにフィードバックされることは、ゲームの当たり前の形式であり周知の事実である。

  • したがって、上述のやりとりはゲームという形式の中に収まっており、ゲームと現実の間の壁を超えたとは言い難い気がする。

  • そう考えると、ゲームにおける当たり前の形式の内側と外側を分かつ境界こそが、ゲームと現実の間の壁であり、第四の壁がある場所と言えそうである。

  • あるいは第五の壁と言っても良いかもしれない。

4.分類と事例

分類してみる

  • ここからはゲームにおける「メタフィクション」や「第四の壁の破壊」の手法を、事例を交えながら分類していく。

  • まず第四の壁がゲームと現実を分かつ境界であることに着目すると、ゲームから現実へ働きかけるパターン、現実からゲームへ働きかけるパターン、どちらとも言えないがゲームと現実の繋がりを示唆するパターン、の3つに大別できる。

  • さらにメタフィクションの自己言及という性質に着目して、その他の(第四の壁を越えたり壊したりしているとは言い難いが)自己言及的であるパターン、を加えた4つのパターンに分類する。

ゲームから現実へ働きかけるパターン

  • ゲーム側から現実世界の方へと働きかけることで、ゲームが第四の壁を越えて来たように感じるパターン。

  • ゲームとプレイヤーの関係性は基本的に、プレイヤーがゲームを操作するという一方的なものである。この関係が破壊されるショッキングさや居心地の悪さがこのパターンの主な特徴である。

  • ゲームの登場人物が現実世界のプレイヤーに話しかけてくる例

    • 「ブレイブリーセカンド」では、ラスボスがプレイヤーに話しかけてくる。前作の「ブレイブリーデフォルト」でもゲーム世界と現実世界の繋がりを示唆する演出(後述)があり、その発展形としてラスボスがプレイヤーに直接話しかけてくる(図1)。

    • 「Undertale」では、とあるルートのエンディングでこれまで自分が操作してきたキャラクターがプレイヤーに話しかけてくる。その内容も相まって大変ショッキングであるとともに、ゲームやRPGの暴力性を露わにしてプレイヤーに突きつける自己言及的な機能も果たしている(図2)。

図1.ラスボスが話しかけてくる
図2.Gルートのエンディング
  • 意外な方法で現実に干渉して来る例

    • 「CALLING~黒き着信~」では、キャラクターでは無くプレイヤーを狙う存在として赤い女が登場する。赤い女はWiiの伝言板機能(このゲームとは関係ないWii自体の機能)を使って、手紙を送りつけてくる。とても怖い(図3)。

    • 「Doki Doki Literature Slub!(ドキドキ文芸部)」では、ゲームの登場人物によってセーブデータが破壊されたり、ストーリーを改変されたりする(図4)。

図3.赤い女からの手紙
図4.セーブデータの破壊

現実からゲームへ働きかけるパターン

  • 現実世界の方からゲームへと働きかけることで、自分が第四の壁を越えたように感じるパターン。

  • といっても漫画やアニメと違って、プレイヤーがゲームを操作するのは当たり前のことなので、通常のゲームとは違った特殊な操作が必要になる。自分がゲームの世界に直接介入しているような没入感の高さが特徴。

  • 他のゲームとは異なる特殊な操作の例

    • 「ピカチュウげんきでちゅう」では、マイクに話しかけることでピカチュウとお話しできる。ピカチュウもそれにこたえてくれるので、本当にピカチュウとコミュニケーションしているような体験ができる(図5)。

    • 二ノ国 漆黒の魔導士では、マジックマスターという本がソフトに同梱されている。この本に載っている紋章をタッチペンで描くことで、様々な力を発揮する(図6)。

図5.マイクで話しかける
図6.本に書かれた紋章を入力する

ゲーム世界と現実世界の繋がりを示すパターン

  • 上述の2パターンには分類しにくいが、ゲーム世界と現実世界の繋がりを示すことで第四の壁を曖昧にするパターン。

  • ゲーム世界と現実世界を地続きのように感じさせたり、逆に自己言及的にフィクションであることを際立たせたりするのが特徴。

  • 現実世界の人物をゲーム世界に登場させる例

    • 「MOTHER2」ではラスボス戦で、いのるというコマンド使用して誰かに助けを求める。様々な関係者がそのいのりに応えて主人公たちに力を与え、最後にプレイヤー(ゲームの途中でプレイヤーの名前を入力する機会がある)がいのりに応える(図7)。

図7.プレイヤーがいのりに応える
  • ゲームの登場人物を現実世界に存在するかのように扱う例

    • 「アイドルマスター SideM」では、お仕事コラボキャンペーンとして、ゲームに登場するアイドル達が実在の企業とコラボしてポスターに載ったりアンバサダーを務めたりした(図8)。

図8.お仕事コラボ
  • 2つの世界が繋がっていることを描写する例

    • 「ブレイブリーデフォルト」では、ゲーム内で神の世界の存在が示唆されるが、ラスボス戦で神界がゲーム画面が映し出され、そこに3DSのインカメラで撮影された映像が表示される(図9)。

図9.背景の裂け目のところに自分の顔が映る

その他の自己言及的であるパターン

  • 第四の壁を越えたり壊したりしているとは言い難いが、ゲームや特定のジャンルについて自己言及的な手法。

  • 違和感による笑いを生み出したり、逆に目を逸らしていた何かをいきなり突きつけられるようなショックや居心地の悪さを生み出すのが特徴。

  • 登場人物の言動が自己言及的な例

    • 「Undertale」では一部の登場人物が、プレイヤーの存在や、リセット、セーブ&ロードといったゲーム的な行為の存在を知っているような言動をとる。これによってゲーム的な行為の暴力性を浮き彫りにするとともに、ゲーム世界の実在感が増しているように感じる(図10)。

図10.セーブデータについて言及される
  • 世界設定が自己言及的なパターン

    • 「.hack」シリーズでは、架空のネットワークゲームの世界と、それをプレイするプレイヤー達が存在する現実世界の両方が描かれる。主人公が「ゲームをしている」という点で自己言及的であり、プレイヤーと主人公が同じ立場になるため、感情移入しやすくなる効果があるように感じる(図11)。

図11.ネットゲームのメール機能でやりとりするような演出
  • ゲームシステムが自己言及的なパターン

    • 「moon」はアンチRPGをテーマとしており、ゲーム全体がかなり自己言及的な内容でゲームやRPGのお約束を揶揄し、ゲームと現実の関係をプレイヤーに問いかける。最後はゲームをやめることによってトゥルーエンドを迎える(図12)。

図12.コンティニュー?

5.まとめ

記事の要約

  • 「第四の壁の破壊」とはゲームと現実の境界を破壊すること。

  • 「メタフィクション」とは自己言及的なフィクションのこと。

  • 「第四の壁の破壊」と「メタフィクション」の手法は以下の4つに分類できる。

    • ゲームから現実へ働きかけるパターン

    • 現実からゲームへ働きかけるパターン

    • ゲーム世界と現実世界の繋がりを示すパターン

    • その他の自己言及的であるパターン

言いたいこと

  • 「第四の壁の破壊」と「メタフィクション」を一緒くたに考えがちだが(実際に重複する部分も多いが)、第四の壁を破壊しないタイプのメタフィクションもある。

  • 「第四の壁の破壊」についても色々な手法があり、それぞれの手法で効果が全然違う。これらの手法は没入感を高めたり、フィクションの実在感を高めたりするイメージが強いが、逆にフィクション性を強調することもあるということは特に意識する必要がある。

参考資料



以上。最後まで読んでいただいてありがとうございました。
ここから先はおまけの有料部分となります。

この記事の内容をもとに流行予想と、例えばこんなゲームが面白そうだという話をチョロっと書かせていただいものだ。文字数を見ればわかる通り、あくまでおまけなので、投げ銭の気持ちでご購入いただければと。

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