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フランス憲法と経済学

雑誌『法学の学際研究(Revue interdisciplinaire d'études juridiques)』 2017/1 (Volume 78) の「憲法と経済学(Constitution et sciences économiques)」特集を読みます。「法と経済学」「法の経済分析」をフランス憲法で考えたらどうなるか、といった感じです。

1. Alexandre Viala "Rapport introductif. Enjeux et difficultés épistémologiques"
企画趣旨みたいなもの。19世紀的な〈国家と社会の分離〉は〈憲法と経済の分離〉でもあった。もはや憲法の経済的中立性というドグマは成り立たないが、さて経済学は憲法について何が言えるか。

2. Alain Marciano "Constitution, économie et efficacité"
〈法と経済学〉の主要な対象は民事法だったが、1970年代以降、ポズナーらは憲法も包括的に論じ、コモンロー法系の経済的効率性を説いた。しかし近年の研究によれば実証的な根拠があるとはいえない。

3. Régis Lanneau "L’analyse économique du droit constitutionnel"
集合的意思決定の効率性という観点から憲法上の権限配分を考えるもの。補完性原理の説明など。公共選択理論から制度論系の公法学まで、アメリカの話をフランスに持ってきたらこんな分析できるよという話。

意思決定権限を垂直的に、つまり中央-地方関係で割り振るにはどうすればよいか、という話はとても面白くて、いろいろと応用がききそう。日本の研究だと、田中宏樹『政府間競争の経済分析:地方自治体の戦略的相互依存の検証』(勁草書房、2013年)など。

4. Jonathan Garcia "Les théories économiques et le pouvoir constituant"
かつての社会主義国と違って経済的イデオロギーが憲法レベルの問題になることは少ないが(経済政策の是非は法律レベル)、その見かけ上の中立性は要するにリベラリズムの勝利だよねという話。

5. Sophie Harnay "L’analyse économique du juge constitutionnel"
裁判官の判断の経済分析。下級審だとキャリアアップのインセンティヴが強いが、米連邦最高裁や仏憲法院になるともう上がないのでわかりにくい。司法部門の予算獲得という選好は多少あるかも、など。

6. Francesco Martucci "Théorie économique et constitutionnalisme de l’Union"
EU経済法の歴史。①域内市場確立と②単一通貨制の立憲的統制による競争条件の保障という理念。かつてのオルドリベラリズムは影を潜め、シカゴ学派的な経済理論が中心になったと。

ということで読了。全体的に、フランスで憲法と経済といわれてもそんなに語れることがないんだが……という困惑が伝わってくる(なのでどちらかといえばその « 分離 » の意味が議論されている)。あとオルドリベラリズムとは何だったのか?という問いがなんとなくの背景として共有されてそう。

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