KIRA Takayuki

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吉良貴之@法哲学  ウェブサイト:http://jj57010.web.fc2.com  ツイッター:https://twitter.com/tkira26

最近の記事

2010年以降の一般法理学/法概念論の重要著作

あれがないじゃないか!と思った人は自分で勝手に読もうな。 単独の著作Shapiro, S. (2011). Legality. HUP. → 法の計画理論。 Marmor, A. (2011). Philosophy of Law. Princeton UP. → 森村進監訳『現代法哲学入門』(勁草書房、2023年) Gardner, J. (2012). Law as a Leap of Faith: Essays on Law in General. OUP. →

    • 札幌高裁・同性婚判決(2024.3.14)

      札幌高裁判決(札幌高判令和6年3月14日)についてのメモ。 判決文はこちらから:[PDF] https://www.call4.jp/file/pdf/202403/04097ed5db19a01e5f19d1c99857d8be.pdf ① 判決の特徴  本判決によると、憲法24条1項は「人と人との間の婚姻の自由を定めたものであって、同性間の婚姻についても、同程度に保障する趣旨(19頁、強調付加、以下同様)」であり、2項とともに立法裁量に対する統制規範であると解され、

      • 総特集=監視をめぐる法と倫理

        Ball, K., Haggerty, K., & Lyon, D. (Eds.). (2012). Routledge Handbook of Surveillance Studies. Routledge. は、やや古くなったが、このあたりの問題群を一望するのに便利だと思う。 ほか、いろいろ。こういう分野はあまり古いのは使いにくいので、基本的にはだいたいここ数年ぐらいのもの。タイトルと目次を見ただけのものもあるので、学術的にあやしいものもまじっていると思う。 「監視資

        • 東浩紀『訂正可能性の哲学』

          つい昨日に発売された、東浩紀『訂正可能性の哲学』(ゲンロン、2023年8月)と『観光客の哲学 増補版』(ゲンロン、2023年6月)を読んだ。 私はこの著者のよい読者ではない。『訂正可能性の哲学』もよい本だと思えなかった。ルソー、プラトン、ポパー、ウィトゲンシュタイン、アーレント……といった有名な哲学者の代表作をいきなり読んで(つまり近年の研究などはほとんど参照せず)、過度に単純化しながら連想ゲームで「ゆるいつながり」を作っていく。確かに読みやすいし、なるほどこういうふうに読

        2010年以降の一般法理学/法概念論の重要著作

          ガブリエル・ブレア『射精責任』メモ

           Gabrielle Blair. 2022. Ejaculate Responsibly: A Whole New Way to Think About Abortion. Workman Publishing Company. という本の翻訳が『射精責任』と題されて、太田出版から2023年7月21日に発売されるとのことである。  インパクトのあるタイトルと、いくぶんセンセーショナルな宣伝もあってか、発売前から話題の書となっているようである。ただ、私としてはあまり期待が加

          ガブリエル・ブレア『射精責任』メモ

          科学的助言と認識的不正義

          科学技術の哲学と歴史の国際連合 (IUHPST) が2年に1回出している、科学技術の哲学と歴史・論文賞を、ケンブリッジの院生の Ahmad Elabbar 氏の 「アセスメントのキュレーター的見方と科学的助言の倫理:意思決定の自律から分配的認識的正義へ(The curatorial view of assessment and the ethics of scientific advice: Beyond decisional autonomy towards distrib

          科学的助言と認識的不正義

          本を送る

           フランスのいわゆる Darcos 法(これ自体は2年前に制定)のいろいろ細かいところが議会を通ったようで、10月からフランスでは35ユーロ(約5000円)以下の本の配送料を3ユーロ以上とすることになった。 日本語で読める記事だと、少し古いがこちらなど。  フランスでは現在、無料配送はダメということになっているが、アマゾンはそこで送料1セントというナメたことをしていたので、抜け道を防いだことになる。これは既存書店組合からの突き上げによるアマゾン潰しで、資本主義に反する暴挙

          ゴッホとトマトスープ

          これ関係はもう報道すんな!と不愉快に思ってらっしゃる方も多そうですが、例の、名画にスープをかけたりする抗議活動について、しっかりした分析がそこそこ出てきた。 「ゴッホを汚すのが気候によいのか?」L’Obs, 10/29, 2022. なんらかの社会的な抗議活動の目的で美術品を攻撃するのは昔からあるやり方で、いや芸術作品を傷つけてどうするんだ、悪い企業とかを直接批判したらどうなのか、という反発が当然出てくる。しかし、実際に悪い企業に対して行動してもかえって普通だと思われて報

          ゴッホとトマトスープ

          現代イタリア法哲学と恐怖新聞

          1. イタリア法哲学の存在感 Torben Spaak & Patricia Mindus, eds., 𝙏𝙝𝙚 𝘾𝙖𝙢𝙗𝙧𝙞𝙙𝙜𝙚 𝘾𝙤𝙢𝙥𝙖𝙣𝙞𝙤𝙣 𝙩𝙤 𝙇𝙚𝙜𝙖𝙡 𝙋𝙤𝙨𝙞𝙩𝙞𝙫𝙞𝙨𝙢, CUP, 2021 という、法実証主義の辞書みたいな論文集はいろんな国の法実証主義の議論状況をまとめていて有益なんですが、そのなかにイタリアのもある。現代イタリア法哲学というのは法実証主義/リーガルリアリズム系統の議論ではジェノヴァ学派とかボローニャ学派とかずっと存在感があって、最

          現代イタリア法哲学と恐怖新聞

          Cultural Typhoon 2022

          [English follows Japanese.] 先週末はカルチュラル・スタディーズの学会であるカルチュラル・タイフーンに出ていました。 カルチュラル・タイフーンは興味は持っていたんですが、なんとなく日程が合わなかったりして今回が初めてでした。フェミニズム特集ということでテーマ的にもちょうどよかったです。どれも興味深い発表でしたが、カルチュラル・スタディーズならではの、理論だけではなく具体的な作品=文化的表象を用いて語ることの強みを感じました。学会の雰囲気としても、

          Cultural Typhoon 2022

          砂漠の赤信号

          Noam Gur (2012) "Actions, Attitudes, and the Obligation to Obey the Law," 𝘛𝘩𝘦 𝘑𝘰𝘶𝘳𝘯𝘢𝘭 𝘰𝘧 𝘗𝘰𝘭𝘪𝘵𝘪𝘤𝘢𝘭 𝘗𝘩𝘪𝘭𝘰𝘴𝘰𝘱𝘩𝘺 21(3) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jopp.12000 遵法義務論について、誰もいない砂漠の赤信号でどうかと問うもの。ヘッダーの画像はこちらから。 遵法義務というのはそのまま「法に

          砂漠の赤信号

          2022.8.2「企業法務とテクノロジー」シンポジウム

           というシンポジウムを聞いてきました。内容が面白かったのと、なんだか高そうなノートをもらったこともあり、感想を書いておこうかと思います。全体のテーマはいわゆるリーガルテックで、AIを使って契約書作成のアシストをするような技術が知られていますね。今回主催のリーガルフォース株式会社はそれの第一人者であるようです。そういうところになぜ出ているんだといわれてもあれですが、まあ、しばらくやっているナッジとか「法と科学技術」研究の一環のつもりです。あと先日、応用哲学会で「リーガルテックは

          2022.8.2「企業法務とテクノロジー」シンポジウム

          シャンタル・アケルマン映画祭@名古屋シネマテーク(2022年7月)

          名古屋シネマテークでのシャンタル・アケルマン映画祭での5本、完走しました。アケルマンはベルギー出身の孤高の映画監督ですが、誰?という方はまず、卒業制作の短編「街をぶっとばせ」を観てください。12分でセリフなしです。なかなかに不穏な雰囲気です。 細部の微細な動きを長回しでとことん撮り切るあたり、ロブ=グリエなどとはまた違ったヌーヴォー・ロマン映画という感じ。海に行くにはまだ遠い、ベルギーのクレプスキュール=薄明の台所こそ真のアクションの場ということです。どれも実験的な作品で、

          シャンタル・アケルマン映画祭@名古屋シネマテーク(2022年7月)

          ジュリア・デュクルノー監督「チタン」(仏、2021年)

          デュクルノー監督「チタン」は昨年のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞作だが、とびっきりの傑作でもないものの、パルム・ドールの水準としてはまあまあという感じ。最近のカンヌは妙に社会派ぶったものが続いていたので、今回のようにまるっきりのめちゃくちゃな映画が選ばれるのもよいだろう。レオス・カラックス監督「アネット」はよせばいいのにミュージカルの真似事みたいなことをしたが、そんなのははっきり吹っ飛ばした。一点、「チタン」が濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」よりもつまらない映画だったら後

          ジュリア・デュクルノー監督「チタン」(仏、2021年)

          フランス憲法と経済学

          雑誌『法学の学際研究(Revue interdisciplinaire d'études juridiques)』 2017/1 (Volume 78) の「憲法と経済学(Constitution et sciences économiques)」特集を読みます。「法と経済学」「法の経済分析」をフランス憲法で考えたらどうなるか、といった感じです。 1. Alexandre Viala "Rapport introductif. Enjeux et difficultés é

          フランス憲法と経済学

          カーネマン、シボニー、サンスティーン『NOISE』(村井章子訳、早川書房、2021年12月予定)

          という翻訳書が出ます(版元ドットコムの情報)。原著が出たのは今年の5月なので、翻訳が出るのもむちゃくちゃ早いですね。この翻訳、上下巻で合計620ページぐらいあるんですが、原著も450ページの大著なので、それをこんなスピードで訳すのはすごい。私には無理です。  本書は、専門家たちの意思決定で生じるばらつきのことを「ノイズ」と呼んで、豊富な具体例とともに分析しています。法律家、科学者、医者、エンジニア、その他いろいろのプロフェッショナルが、同じ問題について判断するにもかかわらず

          カーネマン、シボニー、サンスティーン『NOISE』(村井章子訳、早川書房、2021年12月予定)