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本を送る

 フランスのいわゆる Darcos 法(これ自体は2年前に制定)のいろいろ細かいところが議会を通ったようで、10月からフランスでは35ユーロ(約5000円)以下の本の配送料を3ユーロ以上とすることになった。

日本語で読める記事だと、少し古いがこちらなど。

 フランスでは現在、無料配送はダメということになっているが、アマゾンはそこで送料1セントというナメたことをしていたので、抜け道を防いだことになる。これは既存書店組合からの突き上げによるアマゾン潰しで、資本主義に反する暴挙である。といってもまあ、フランスでは文化方面に限らず、こういうことは珍しくない。ただ、これが書籍をめぐる文化を守るための思い切った政策といえるかというと、Darcos議員は「バランスの取れた競争」だと歓喜しているものの、実際のところいろいろ微妙ではあるようだ。まあ、競争って安くするためのものだろう、高くしてどうする、とつっこまれている。

 まず、(1) 送料が3ユーロだと安すぎで、大型本だとフランス国内では配送料が5~10ユーロかかる。差がちょっと縮まった程度。

 また、(2) いうてアマゾンを使う人は使うので、そうすると同じ本の値段に実質的に違いが出てくる。これは再販価格(フランスでもそういう制度がある)の維持を実質的に骨抜きにしかねず、文化の平等な享受という観点からするとちょっとどうなのという感じ。つまり、近所に本屋がなくてアマゾンを使わざるをえない人にはつらいですね。都会の人は不便に、地方の人はもっと不便になる。誰が得するのという。

 そして悩ましいのが、(3) 欧州委員会が文句をつけている件で、 フランスは本の輸出大国でもある。EU内の他の国でフランスの本を買うにもこれが適用されて、はっきり値上げになるわけだが、これはフランスの出版社の優越的地位(?)の濫用ではないか、といったことなどが厳しく批判されている。フランス国内ではアマゾンに対抗して書店文化を守るとかいっても、ヨーロッパ全体で見たらフランスがきれいごとを言いつつ無茶な値上げをしてきた、ということになるわけですね。

 日本でも同様の動きが報じられている。

 こういう記事を有料にするのはどうなの?という感じもするのだが。

 日本語の本を海外で買う人はそんなに多くないので、(3) の論点はあまり問題にならないか。日本だと (2) の問題が大きそうで、(大型)書店のない地域の文化をアマゾンが実質的に支えているところはあり、そこの切り捨てにならないかとか。あとまあ、アマゾンでたくさん本を買う人は書店でもたくさん買うわけで、競争の前提が妥当なのかどうか。

 朝日新聞は他にもいくつかの記事を載せている。どうもこういう政治的なことを気にするよりは、文化の地域格差をどうするかということに絞ったほうが政治的にも得策だと思うのだけど、まあどうなんですかね。

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