はじまらない食事

滞在先の部屋をでて、廊下をしばらく歩いていくと、そこにはカメが二匹いる。水槽のなかで、そのながい首をのばしている。近づいてのぞいてみると、一匹と目があってしまった。しばらく、お互い見あっていた。

仕方がないのでそのカメに名前をつけることにした。「君の名前はメルで、そっちの奥にいるのはレパルスだ。」納得したように首をのばしているので、その名前は気に入ってもらえたのだろう。そしてその後も、メルはあいかわらずこちらをじっと見つづけている。あんまり、見られているもんだから、ついついじっと見てしまう。

メルの手足はよくうごく。すいすいと泳いで、大きくはない水槽のなかをいったりきたりしている。それにくらべて、レパルスのほうは、ほとんどうごいたりしない。近くをのぞいてみても、まったく僕におかまいなしで、遠くをみつめている。その目はいったいこの街の、どこを見つめているのだろう。レパルスに問いかける。返事はない。そして顔を甲羅のなかにかくしてしまった。そのなかにはいったいなにがあるのだろうか。

メルは食事がすきみたいだ。食事の時間になると、われさきにとよくうごいて食べていく。一方でレパルスはまったく、食事の時間になっても食事だということにきづいていないようで、遠くをみつめている。食事のむこうにある景色を、ただながめているだけだ。しばらくすると、食事の時間だということを思い出したようで、水面にあがって食事をとりはじめた。とりはじめたのはいいものの、それをメルが横から邪魔をしはじめた。レパルスはうまく食事にありつけない。かわいそうなレパルス。

♤甲羅ってとても固そうだ

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山室毅聡

Journal de Paris

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