情熱の哲学 ウナムーノの「生」の戦い」

・内藤廣が引用するスペイン人哲学者オルテガの前の世代に当たりスペインの近代思想の展開に大きな影響を与えた哲学者を追うことで、スペイン自体の哲学の現れ方を理解し、スペインという国とその考え方が内藤廣にどのように影響を与えたかを考察するために読んだ。

 要約と感想

・(近代の理性は)完全な真理を、除去法によって極端なものを排除し中庸の中に求める。しかし、ウナムーノは、極端なもの同士の相互の働きによって対立しながら存在するという矛盾が生のリズムを生み出し、魂の中に活気を生み出すと著者は主張している。この対立することから生まれる葛藤の力をウナムーノ哲学で重要な意味を持つ感情(情熱)とし、これがスペイン人の中の本質であるとウナムーノは考えたと著者は主張している。                    現在は、19世紀的侵略が発生しているが同時にウナムーノの生きていた19世紀後半とは国家に対する個人の姿勢は変化している。それは、国防(=合理性の追求)という観点からは国として対応が必要であることと同時に、国民国家という物語への帰属意識の低下である。この状況でのウナムーノの価値は、個人の感情から普遍に向かうという点にある。個人の感情が国民国家の持つ普遍的価値につながるのではなく、個人の感情が国民国家ではない集団(国土という縛りのない集団)の中で共有される普遍的価値が生まれやすいのではないか。そして他者の感情に働きかけるのは、理性でなく矛盾を含んだ葛藤ではないか。その矛盾を孕んだ生の追求が、自らの死後にもあり続ける普遍性へとつながる。これが、永遠の生を求めるプロテスタンティズムとの違いになるのでがないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?