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「このままでいいの? 障害者の性教育」 <TK×乙武洋匡対談レポート【1】>

複雑心奇形という先天性の心疾患で平均寿命は15歳と言われているTKことミウラタケヒロ。TKは2020年2月16日にその一つの節目となる15歳の誕生日を迎える。そこで、これまでのヒストリーと現在の活動、そして未来への一歩をお伝えする『TKマガジン』を絶賛制作中だ。現在は、クラウドファンディングでその制作資金を募っている。
noteでは書籍コンテンツの一部「TKが大きな影響を受けた方々との対談」を紹介し、多くの方へお届けしていきたい。第二弾は、TKが小学生の頃から憧れの存在だったという乙武洋匡さん! ぜひご覧ください!

TKが受けてきた特別支援学校での性教育

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TK:僕が小学校1年生の頃からずっと乙武さんはスターでした。そんな乙武さんと会えるとは想像もしていなかったのですが、2018年に吉藤オリィさんが実施された「分身ロボットカフェ」に取材にいらしていて、その時に少しお話をさせていただく機会があり、有頂天になりました。
 実は、その半年ほど前に、僕が乙武さんにダメ元で「こういう活動をしています」というDMを送っていたのですが、初めてお話した時にそのことを覚えてくださっていたんです。本当に驚きました。

乙武:うん、印象に残っていたよ。その時点では、細かな病状とかまで理解はしていなかったけれどね。

TK:その後も、乙武さんの義足歩行の「OTOTAKE PROJECT」で歩行練習を見学させていただいた時にお話しをました。「兵庫県から来たの?」と声をかけてくださって、「出身まで覚えていてくれるの!?」と実は感動していたんです。
 今日はじっくりお話できる機会をいただけて嬉しいです。ありがとうございます。乙武さんとお話したいことは、ズバリ「障害者の性」についてです。柔らかく言うと「エロい話」です。

全員:(笑)

TK:僕は小学4年生くらいから、そのことに関してすごく悩んでいました。僕が通っていた特別支援学校はできて間もない学校だったからか、性教育について全然教えてもらえなかったんです。
 いろいろな障害がある子がいたので、中には理解が難しい人がいるということもわかりますが、その人たちだって人間なので同じ悩みがあるだろうし、どんな子どもも性について教わる権利があると思うんです。「わからないだろう」と勝手に決めつけられて、教科書もなかったし、授業をして教えてもらうこともなかった。
 乙武さんは、特別支援学校の教育についてはご存知ですか?

乙武:自分自身のことを言うと、僕は今度の4月で44歳になるので、小学校に入ったのは今から37年前。当時は、コミュニケーションがとれて、知能的に問題がなかったとしても、障害があるならば養護学校に通うという時代でした。だけど、僕の両親が「この子はコミュニケーションをとることができて、人と話すのが好きだから、養護学校(現・特別支援学校)で知的障害のある子たちと会話が噛み合わないよりは、通常学級の中で友達とのおしゃべりが楽しめる環境がいいのではないか」と考えてくれて、小中高大といわゆる普通教育を受けてきた。
 だから、正直、これだけ重度の障害があるにも関わらず、特別支援学校の事情というのはそこまで詳しくは知らないんです。
 ただ、2005年と2006年の2年間、東京都新宿区の教育委員会で非常勤職員をしていたので、新宿区立の小学校、中学校、養護学校を訪問させていただき、そこで養護学校に初めて足を踏み入れました。その頃から教育について勉強をして、特別支援学校の仕組みや実情を知るようになったという感じです。特別支援学校との関わりはそのくらいなので、タケヒロの方が僕よりも先輩というような感じかな。
 だから、特別支援学校でどのような性教育が行われているのか、または、なされていないのかということについても、ニュースで知っている程度。教科書さえ配られないというのは結構衝撃的な話だったな。

TK:そうなんです。僕の時は、ほぼ性教育はなされていないという状況でした。

乙武:性教育に限らず、通常学級で行われていることをそのまま特別支援学校で行おうとするから「できない」「すべきでない」という判断になってしまうと思うんですよね。
 一人ひとりの子どもの特性に合わせて、「この大事なことを伝えるにはどういう手法があるのだろう」と考えれば、それが性教育であれ、他の教科であれ、やりようはあるのかなというのが僕の基本的な考え方。だから、「きっと理解できないだろう」という決めつけによって性教育が行われていないのだとしたら、それは問題があると思う。

TK:すごくわかりやすい。さすがだなぁ。性教育について教えてもらったのは、「全裸で外に出ない」ということ。あとは性器について、男女に分けて教えてもらった程度です。

乙武:「全裸で外に出ない」というのは、社会のルールの話であって性教育ではないよね。

TK:そうなんです。でも、それをうちの学校は性教育としていたんです。たしかに注意をしなければ、外で洋服を脱いでしまう子もいるかもしれませんが、乙武さんがおっしゃる通り、個別の対応をしていけばいいですよね。

命や尊厳に関わる性の学びを

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乙武:もうちょっと状況を教えてほしいんだけれど、タケヒロが学んでいた学校には知的障害の子もいたの?

TK:います。内部障害の子も、発達障害の子も、知的障害の子も、いろいろなタイプの子がいました。

乙武:なるほど。障害者の性の話は、知的障害の男性が人前で性器を出してマスターベーションをはじめてしまったり、見知らぬ女性に抱きついてしまったりという事象が起こり、問い直されているよね。そうした問題を回避するためには、その子の持っている特性に応じて、ある程度は「〜はやってはいけません」という指導の仕方も必要かもしれない。
 だた、タケヒロが通っていた特別支援学校には、いろいろな特性を持った子どもがいるわけで。発達障害の子であれ、内部障害の子であれ、知的には通常学級の子たちと変わらない子もいるのであれば、性教育だってきちんとされてしかるべきだと思う。
 もっと言うと、「通常学級で行われている性教育があれでいいの?」という問題もあるんだけれどね。

TK:そうそうそう。障害者だけじゃなくて、健常者も性教育が不十分で悩む人はたくさんいると思います。

乙武:冒頭でタケヒロが、場をやわらげるために「エロい話です」と言ってくれたけれど、性教育の話ってエロという側面がありつつも、命や尊厳に関わる話だと思っていて。そういう面からしっかり捉えることが大事だと思う。
 例えば、以前は東京都の学校の性教育の中で、「避妊」「中絶」といった言葉を使うと議員さんからクレームが入って、クレームを受けた教育委員会から学校へ「そういった言葉はなるべく使わずに指導をするように」といったお達しが出たことがあった。
 いや、待って。性教育の話をするのに、避妊や妊娠や中絶といったワードを出さずに、一体何を教えるんだろうって思うんだよね。もうちょっとみんなが声をあげて、違和感について伝えていかなくてはいけないよね。

なぜ十分な性教育がなされないのか?

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TK:どうしてそんなことになってしまうんでしょうね。

乙武:これは性教育に限ったことではないけれど、あまりにも我々が政治離れをしてしまっているのが一つの要因かもしれない。僕ら一人ひとりの感覚とかけ離れた感覚を持っている人が政治をするようになってしまった。僕らからすれば、あまりに前時代的な感覚の人ばかりが物事を決める決定権を握っていて、結果的に実情からかけ離れたルールができ上がってしまうことがある。
 今の学校現場で行われている性教育も、そうした前時代的な価値観の持ち主の意向によって決められてしまっているんだよね。もっと広く議論されて、「このあたりが落としどころかもね」というポイントが見つかってくるといいなと思います。

TK:そうですね。まだ、どんな教育がいいのかという議論をすることも浸透していないですよね。中学部に入ったら変わってほしいなと期待していたのですが、そんなことはありませんでした。うちの学校がどうではなく、社会が変わっていかなければ変わらないのかなと思いました。

乙武:タケヒロ的には、教えてもらえなかった立場として、「もっとこういう授業をしてほしかった」とか「こういう知識を伝えてほしかった」という要望はあるの?

TK:率直にいうと、イラストなどでもいいのかもしれませんが、模型などを使って実演をするというところまで見せてほしかったです。それくらいしてくれれば、みんなの頭に入るのかなと思いました。特に、全車椅子ユーザーなどは性交渉のイメージを持てない。それを学ぶ場もない。結構孤独ですよね。

乙武:なるほどね。他の教科に関してはインターネットで独学で学べるようになってきているけれど、性教育に関してネット検索しようと思えば、すぐに「エロ」にたどり着いてしまうもんね。

TK:そうなんです…。事実を知る機会を子どもたちは欲していると思っています。(つづく)


◆乙武さんとTKとの対談ノーカットバージョンは『TKマガジン』にて◆
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