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さそりの毒

何を食べたらいいのか全然分からない。

頭の中はいつもぼやけている。

冷たい空気を吸ってやっと窮屈な脳みそが緩む。

くっきりと先が見通せるわけでもないが、
何もかもが目の前を過ぎ去ってゆく。

今日も味もしない言葉をかじった。
足先にはサラサラとした感覚。風がそよ

体温がゆっくり移動する。



僕は砂漠の夜のサソリを思い浮かべる。

ローマから遥か南へ逃げた3匹のうち1匹。
2匹は道の途中で死んだ。

ある夜に人間たちに見つかり、
火に追い詰められたとき、
パニックを起こして3匹は自分自身を刺した。

簡単に動かなくなった。

でもその1匹は生き残った。
尾から出た毒では死ななかったし、
辛うじて火も彼を燃やし尽くさなかった。

彼は目覚めた時に見つけた2匹の死骸をみて理解する。

自分の毒じゃ死ねていなかったこと。
彼も同じ選択肢を選んだからあの時分かった。

あの時動けなくなったのは、
自分という存在の毒が正しいのだという思い込み。
それを自分に向けたショックで動けなくなっただけ。

そのあと、ただ火に燃やされたから死んだたんだ。

今までもそうやって、
やたらと詭弁を弄して生きてきた。

でも、きっとそこに彼の意思はまるで無い。
だから自分に針を向けた時、恐怖の発生源が分からなくて怯えた。


意思のない彼は完全な悪の象徴にはなりきれない。
愛の歓びを知ってしまったから。

だから、彼はずる賢く生き抜くしかないんだ。
自分と他に毒を浴びせ騙して。
ああ可哀想に。


冷えてきた体に心地良さを感じなくなって我に返る。

どんな話にも終わりがあると思って再び歩き出した。
悪の象徴として生きていくため、
愛を忘れる毒を探しに。

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