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XXXTENTACION『?』

 リル・ピープが去年の末にオーバードーズで亡くなった。リル・ウージー・ヴァートやXXXTENTACIONたちと共に盛り上がりをみせるグランジやオルタナロックの精神を取り入れた陰鬱で、荒々しく、行き場のない怒りを歌詞やサウンド、ラップで表現したエモ、グランジ・ラップシーン。90年代を席巻したグランジ、オルタナロックブームのように彼が死んだことで、終わりを迎えてしまうのだろうか?
 そんな疑問符に答えるかのようにXXXTENTACIONは、セカンド・アルバム『?』を発表した。ゲストにはジョーイ・バッドアス、トラヴィス・バーカー、Matt Ox、PnB・ロックらが参加している。前作『17』と同様配信のみのリリースとなった今作も18曲というボリュームで37分という短さという共通点に加え、始まりにはアルバムの概要や紹介する彼の語りで幕を開ける仕掛け。その1曲目には“多様性を示し、オープンな気持ちを示すことがこのアルバムの目的”であると説明し、今作もオルタナティブサウンドに富んだものであることを教えてくれた。その通り、グランジ・ラップを踏襲しながらも幅広いジャンルを横断したDIY的な、俗にいう「フランク・オーシャン以降」を象徴したようなボーダーレスな内容になっている。アコースティック~エレクトロニックサウンドにUSインディロックやソウル、R&Bの要素を取り入れながら時に気だるげに時にエモーショナルにラップをし、結果的にポップに着地するその芸当はもはや彼だけの専売特許も当然。幾度とない逮捕や薬物依存、ドレイクやミーゴスとの確執など何かとお騒がせなプライベートにそぐわないほどに音楽性はウィットに富んだもので、聡明であるといっていいだろう。
 リル・ピープが亡くなったときに『仲良くなかったけど、ピープがとても早く逝ってしまったのを見ると心が痛む、ピープは長生きする価値があった、安らかに眠れ』と語っていたXXXTENTACION。そんな彼の新作は、歌詞を見ればわかるように失恋について歌った曲がほとんどで、相変わらず自殺や鬱を中心となっているが、彼の死については触れられていない。
 どうやらこの死をもって、完全にラップ界のカート・コバーンとなったリル・ピープだが、XXXTENTACIONはその時代にたとえるならスマッシング・パンプキンズだろう。その意思を継承しつつ、歩みを止めることなく突き進む。ともすればエモ、グランジ・ラップシーンは終わるのではなく、ひとつの歴史となるのだろう。

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