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ザ・ウィークエンド『My Dear Melancholy,』

 3月30日に配信でサプライズ・リリースとなった6曲入りEP『My Dear Melancholy,』が早くもフィジカルでのリリースを果たした(国内盤は5月18日予定)。第60回グラミー賞で最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を獲得した2016年の『Starboy』もまだ記憶に新しいが、今作も出来栄えは最高で、ウィークエンドがポップスターたる所以がここにはある。そして、深化を極めた楽曲の数々に震えが止まらない。
 昨年末に破局が報じられたセレーナ・ゴメスの影響もあってか、お決まりのドラッグやセックス溺れる陰なリリックが頻出し、未練たらたらで、歌詞だけ見ればもはや救いようがない。そして、サウンド面もかなりドープといっていいだろう。トリップ・ホップに特化したダウナーなサウンドワークを主として、アンビエントサイケを掛け合わせたオルタナR&B。音のスケール感も狭まり、かなりスローなピッチで、ローテンションナンバーが立ち並ぶ。ジャケやタイトルからもうかがえる通り、これまで以上にダークな佇まいである。過去作も多数のプロデュースを務めたフランク・デュークスや前作からの続投サーキット、ダフト・パンクのギ=マニュエル・ド・オメン=クリスト、ケンドリックやビヨンセらを手掛けるマイク・ウィル・メイド・イット、そしてベースミュージック界のトップ・スター、スクリレックスもなど強力すぎる布陣にもはや笑えてくる。
 ただ、それだけではなく、行き場のない焦燥感や悲壮感を上手く昇華し、芸術作品として成立させるのはウィークエンドのセクシーヴォイス。まるで黒く深い夜空に浮かぶ星たちのように煌めくアレンジや工夫がいくつも存在している。
 歌詞やサウンド面と同様、この究極のメランコリックさを演出するヴォーカル、コーラスのエフェクト。これまでにもエフェクトと駆使した楽曲を発表しているが今作は持ち前のハイトーンヴォイスとの対比やヘヴィなサウンドとの調和が秀逸。各曲のコーラスや「Wasted Times」での一節“I ain't got no business catchin' feelings”をディレイの効いたヴォーカルで聴くと、どこかユーモラスで、コミカルに響いていたりする。
 「ルーツに立ち返った」とはウィークエンド本人の弁。過去最高にメランコリックな作品といっても過言ではない内容に身震いを覚えたのは決して陰なパワーからだけではない。一貫して、恥ずかしいくらいに己の闇をリリックによって丸裸にし、それを際だたせるための徹底したサウンド、ヴォーカルのアレンジを施したのにも関わらず、これを“美しい”と思わせる彼のそこしれないセンスに私は恐怖を感じたのだ。

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