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オタクくんはもっとオタク権力を持った自覚を持った方がいいかもしれない話

タイトルが物騒ですが、きっかけは自民党総裁選での一幕でした。

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総裁選候補の一人、高市早苗さんについてツイッターで検索しようとすると、こんなワードが出てきます。

というのも、高市早苗さん…2007年時点では残虐なコミックやゲームに対して法規制を目指してた時期もあるのです。
しかし、2021年の総裁選では「アニメやゲームは成長分野だから戦略的支援を進めていきたい」とむしろ応援する姿勢に変わってます。

これだけでも大きな進歩なのですが…もうちょっと踏み込んだことが起きているので、紹介したい。

もし高市早苗さんが勝つと、マンガ議連と腐女子議員が総理を作ったことになる?

それどころか、今回高市早苗さんを支える選対委員長に就任した古屋圭司議員がいます。(逆に言うと、高市さんが総理になったらこの人に足を向けて寝られないぐらいの一番の支援者が、古屋圭司さんということになります

なんでこの人が重要かというとこの人はMANGA議連の会長なんです。

MANGA議連とはクリエイターや出版社の人達にヒアリングしながらアニメ・マンガ・ゲームをもり立てていく議員さんの集まり。
戦略や制度見直しを考えたり支援するだけじゃなくて、最近だとマンガ議連が京アニの放火事件に集まった寄付金に優遇措置をするよう菅総理に提案したことも…。

このように、アニメ・マンガ・ゲームは政治家達の間でも保護や支援の対象となってきているだけでなく、政治家の中でも
「安易な規制をされては、オタク産業の関係者と一緒にがんばってきた俺達が困るんだよ!」
「アニメ・マンガ・ゲームを取り入れたら人気が出るんですか!?だったら、閉会式でマリオ着るし、秋葉原に演説に行くわ」
みたいな話が、けっこう出てきてるわけです。

その中でも、今回すごいのはですね…高市早苗さんの推薦人には「MANGA議連」の幹部議員3人と、腐女子議員が一人いるんです。

MANGA議連の議員さんとしては、会長の古屋圭司議員、副会長の西村康稔議員、幹事長の馳浩さんがいます。
そして、推薦人名簿を見ているともうひとり面白い人が居ます。それが、腐女子議員の小野寺紀美さんです。

推薦人名簿20人のうち4人はオタク文化に縁が深い議員さんなんですね。

保守とか派閥とか色々キーワードはあるかと思いますが…オタク文化と縁が深い議員が高市早苗さんの脇を固めているというのも面白いキーワードになります。

それに、高市さん自身もヘビメタファンでドラマーという『別のオタク』。
音楽自体がゲームの題材として大きな勢力を持ってる(ドラムマニアというドラムの音ゲーまである)ので、理解を示す・本人がオタクになるポテンシャルは高い。

ネット世論の前評判とは逆に、
「オタクにとって最もやりやすい政権」
になりうる布陣で進んでるので、そのまんまオタクに優しい政権ができてほしいところ。

そして、オタクもオタクで【昔とは比べ物にならないほどオタクは(政治的に)強くなってる】ということをわかってほしい。

かつては松文館裁判などで、吊るされていたオタク

最初からオタクが強者だったかと言うと、昔はむしろ逆です。
特に、80年代〜00年代前半にかけて、マスコミにオタク叩きをされたり、犯罪者がオタクだと大好きなゲームやマンガが悪いように叩かれてました

しかも、マスコミが悪いどころか、政治犯的な扱いを受けたこともあります。

有名なのは、松文館裁判
成人向けのマンガ作品が好きな人達からすれば、クジラックス事件と並んで苦々しい思い出です。(クジラックス事件は最近の話でご存知な方も多いと思うので、下記のリンクを参照)


昔の事件だから、Wikipediaを引用しながら説明していきましょう。

2002年8月、平沢勝栄衆議院議員(自由民主党)の元に、支援者の男性から「高校生の息子が成人向け漫画を読んでいる、なんとかして欲しい」といった内容の投書が届いた。警察OBである平沢は、その手紙に自身の添え状を付けて警察庁に転送した。

平沢勝栄議員は、今もバリバリの現役政治家ですが…元々は警視庁のキャリア官僚でした。
しかも、警察官の中でも二番目に階級が高い警視監相当の、県警の本部長までやった人物です。
そんな力のあるOBが成人向け作品が目の敵にして添え状を送ってきたため、警視庁はどうにか成人向け作品を叩こうと躍起になります。

政治家がオタク文化を吊し上げた歴史的な事件にも関わらず、あくまでも添え状を送っただけ(で、後は裁判や警視庁側の問題という建前)なので、平沢勝栄氏のウィキペディアには、松文館裁判のことは載ってません。

そのため、裁判では色々と無理のある理論が飛び交います。

成年誌「姫盗人」のうち、「蜜室」だけが取り上げられて起訴された理由として、検察側は裁判の中で「絵が上手すぎるから」と説明した。
なお、一審の判決で中谷雄二郎裁判長は「市場に出回っている多くの成人向け雑誌は、摘発していないだけで本来違法である」と明言しており、その上で「40%の網掛け修正は小さすぎるため違法」と述べている
この漫画では生殖器を作画した部分には、範囲の40%に当たる面積を黒く隠蔽する「網掛け」が自主規制として行われており、これは成人向け漫画のなかで一般的な水準、ないしは厳しい方だった。これらの事から考えて、「蜜室」が他の作品と比べてことさらに違法性があったわけではなく、見せしめとして摘発されたと考えられる。(引用はここまで。詳細を読みたい人は松文館裁判のWikipediaを参照)

ちなみに、裁判の場で暴言を吐いた中谷雄二郎という人は、未だに弁護士としては現役だそうです。酷い話だよ…。

…とまぁ、こんな感じで、かつてはマスコミだけでなく、政治家も裁判所もオタクは見せしめにして、吊し上げる対象でした。

マスコミの方は深夜アニメ・アニメ映画のヒット、電車男のドラマ化などで00年代後半から緩やかにオタクバッシングが減ってきました。(オタク叩きをすれば炎上するし、テレビ局はアニメの恩恵受けまくってたからね)

しかし、政界はまだ時間がかかりました。
高市早苗さんが、ゲームやマンガの規制に積極的だったのも、07年なので、まだ政界でのオタクの地位が低く、オタクがマイノリティだと言われてた頃の話です。

少なくとも2010年ぐらいまでは、政界でのオタク文化の地位は低かったようで、東京都知事は会見でこんなことを言ってます。

児童ポルノや子どもへの強姦などを描いた漫画の蔓延や保護者が幼い子どもを性的写真集の被写体として売り渡す行為を非難し、児童ポルノの根絶とこれらの図書類の蔓延の防止に向けて都が対策に取り組むべきだ」(東京都青少年の健全な育成に関する条例より引用)

ちなみに、この発言をした石原慎太郎さんは自身の小説にめちゃくちゃハレンチなシチュエーションを書いた「太陽の季節」という作品があったりするので…オタクの政治家不信はこの時にピークを迎えたし、今でも政治家を疑ってる政治家はすごく多いです。

この条例の政治家の態度は、オタクを舐めきった態度なんですが…同時に、「非実在青少年」というアニメ・マンガ・ゲームを指す言葉を消すことに成功し、政治的な攻撃をはねのけることに成功したターニングポイントになってます。

2013年までは自民系が規制側で、リベラルや民主が規制反対だった

そもそも、
「児童ポルノに見えるマンガを規制するのがどうしてまずいか?」
については色々あります。

…わかりやすいのは【松文館裁判みたいに、業界内の規制を守っていても、裁判官や警察・検察の解釈次第で吊るし上げられる事例ができる危険があるから】です。

実際、宮台真司さんは当時の反対運動で
実在青少年に比して、非実在青少年に関わる視覚表現は年齢判断の恣意性が極度に高まるため、非実在青少年を登場させる表現についての表現規制は極めて危険なものだと言わねばならない
と、言ってます。

オタクバッシングと松文館裁判で苦い思いをして、政治家・警察不信になったオタク・作家・出版社としては「恣意性」が上がる法律なんか断固反対になるわけです。

ちなみに、宮台真司さんを含めて、この時反対運動に味方してくれたのは、リベラルとか左翼とか言われてる政治家や学者の方がたくさんいます。

このときだけだなく、(05年に元法務大臣の森山眞弓らが議論を始めたことで)08年にもマンガ・アニメ・コンピューターを利用して作られた「(実在しないが)外見上児童」なら児童ポルノとして規制しようという話は、自民党・公明党案からでて、民主党や結いの党が反対して廃案に追い込んでいる。

表現規制系のことは、自民党の中でも(警察)官僚出身、法務省と関わりが深い議員が規制の議論やきっかけになる事件に関わることが多くて、児ポ法や条例では民主党系の人達が反対してくれていた。

自民党全体がガチガチの表現規制派というわけではなかったが、(警察)官僚出身の議員や法務省系にはわかってもらえない「虐げられてきたオタク」の社会への不信感を代弁してくれたのはリベラルな知識人や民主党だったりする。

そのため、アラフォー以上のオタクの中には、リベラルな人もかなり多い。表現規制のみならず、若い頃にロスジェネになったことで、自民党政権に見捨てられた意識があって、左寄り…という人もかなり含まれてる。

自民党には官僚的な勢力もいるが、国防・国益に利用できると気づいたら本気を出す保守系議員もいる

今でも、自民党の政権や法務省関係には
「恣意的に、性的な問題を取り締まれるようにしたい」
という人はけっこういるみたいで、昨日もまた物騒な議論を始めていた。

これもさぁ…同意したという証明をどうするの?
また、女性はすごく賛成しているみたいだけど、将来的に首締める危険があるのわかってる?
今でこそ児ポ法もアニメ・マンガは規制されてないけど、この法律でアニメ・マンガも「不同意はダメ」とか言い出したら、エロ漫画だけでなく、全年齢の少女マンガの中で痛手を受ける作品山ほどあるけどわかってる?

いやね、法務省と警察庁は基本的に「国民全員に対して、何かあった時に逮捕してさばいて問題解決できるようにしたい」「怪しいやつはできるだけ拘束したい」というヤベェやつらだから期待なんかしてないよ?
実際、そういう姿勢がオタクと、リベラルから嫌われてるんやと思うで?


一方で、自民党の中にも
「マンガはちゃんとした産業になってきてるじゃん!」
「でも、ちゃんと盛り立てていかないと中国に地位を追われるから支援しなきゃ」
みたいに思ってる人もけっこう出てきてるんです。

というのも、自民党の中(特に保守系議員)には
「日本が世界一または本当の意味で独立した存在になりたい」
「一時的に世界一になっても、欧米のルール改正や、中国の規模と低コストに押しつぶされるのは良くない」
と考えてるような議員もいる
のです。

彼らは、日本が世界一になれる分野や、もう世界一で支援し続ければ世界一をキープできる分野を探しているし、世界一になれる分野か、国防・国益のために必要なことなら支援してくれる勢力でもあります。

象徴的なのは、安倍前首相が、リオオリンピックの閉会式で見せた安倍マリオなんでしょう。

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「オタク宰相といえば、麻生太郎でしょ!?」
という意見もわかるのですが…特にオタクな噂を聞かない安倍晋三さんがやることが、節目なのかな…とも思います。

本人がオタクじゃなくても、オタク文化に理解があることを示したり、SNSの発信力を大事にすることの重要性が増していきます
事実、今回の総裁選は、みんなSNSでの発信合戦になっていているほどです。

実際、高市早苗さんもかつての規制派から、支援派に鞍替えしたわけですが…それはそれでオタク的にはありがたいし、オタクの影響力が及びやすい政権ができたら色んな可能性を感じさせてくれるので、期待はしてます。

ですが、この記事にあるように、オタク達は過去のバッシングや風当たりが強い時に受けた厳しすぎる法改正案や、裁判、警察からの配慮を求める流れで、公権力への信用を失い、自信を持てなくなったそうも居ます。

欲を言えば、(アダルトコンテンツがモザイクを付けないといけない理由になってる法律である)刑法175条の見直しまで頑張ってほしいが、おそらくそれ以前の問題だと思います。

保守系議員・高市氏が
「世界一になれる・なった分野だから制度作りやインフラ面でのサポートをいっぱいやってくんだ」
と言っても、官僚・警察庁・法務省をしっかり抑え込んでもらわないと、日本がアニメ/マンガ/ゲームで世界一をキープするのは難しいです。

直接規制しなくても、解釈次第でどうにでもなる状態にされたら業界が萎縮します。
デジタルコンテンツとしてマンガ・ゲーム世界に広がって行く時も、世界でも例のないモザイクを日本だけ付けないといけないことは同人作品の普及に影を落とします。
他国なら無修正で発売できるとなれば、当然国益は損ねますし、海外の代理店が手を加えた海賊版/グローバル版が…みたいな話にもなりかねません。

誰が総理になってもこの辺のことをしっかりやってほしい。
でも、特にマンガやオタクにゆかりの深い議員が多い高市陣営は、そこをちゃんと理解してないと片手落ち・二律背反になりかねません。

オタク文化が世界一を維持することは私にとっても最高です。
しかし、そのために過去の歴史、現状のいびつな規制とも向き合っていただかないと困ります

オタクが権力を持つ時代になった今だからこそ
「もしかしたら、今言い出せば要望や思いを聞いてもらえるかもしれない」
ということで、書かせてもらいました。

高市さんどころか、議員さんの目には止まらないでしょう。
しかし、ぼく以外に「今のオタクは権力があるから、意見が通るかもしれない」と色んなアイデア・思いを記事にする人が増えてくれたら…そんな気持ちで書きました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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