見出し画像

04 タンザニア、ココナッツ

AEEの2017年度の敷地はタンザニアでした。 まずタンザニアという国よく知りません。リサーチを兼ねたInfographicsの課題にてAEEは始まります。  プログラムが全員で40人程で、各々が1つのテーマを担当するので、課題が終わったときには約40種類の異なるテーマのポスターが並ぶこととなります。 テーマの区分は、Climate, Diseases, Demographic, Energy, Flora, Geographic, Healthcare, Historical Development, Infrastructure, Building Type, Trade, Tourism, Water...といった感じ。私の担当は、Tangaと呼ばれるタンザニアの港街のDemographics人口統計調査でした。人口数とか民族の種類といった統計量を調べるのですが、民族の種類までいくとオーガナイズされた情報がありません。古い紙の文献から新しい年代のPDFのデータをツギハギしながらグラフィックに落とし込むのに苦労し、ハズレくじを引いたかな~とか内心思っていました。 一方で他の留学生たちは、どうもこの手のグラフィック作業は学部で散々やってきたよ~という手慣れた様子で、特にUK勢はさすがピータークックの国というか手の凝った表現をしていて舌を巻かざるを得ませんでした。海外手ごわい。 

↑私制作のDemographicsのInfographics。

↑ちなみに2015年度の歴代のInfographicはこんな感じ。手ごわい。


実力の無さを嘆く暇はないぞと言わんばかりにAEEの目玉の「デバイス」制作が否応なく始まります。 さて、このデバイスというのは、ざっくりいえば選定敷地と対話するためのツールです。土台として、AEEでは、デザインプロセスは、Scientific Investigationと同様の体裁を取ります。従ってIMRAD形式、すなわち、Introduction&Background, Methodology and Methods & Results, Discussion&Conclusion という順番で記述され、この調査を始めるためのReseach Questionが何なのかということがキーとなってきます。先にInfographicsをやったおかげで、学生はタンザニアについて疑問や課題が見えているはずで、各々が興味を持った分野で問いを立てていくのです。ちなみに、このReseach QuestionはS.M.A.R.T (Specific, Measurable, Achievable , Realistic, Time constrained) であるべしと上手い教えかたをしてるなと感心した覚えがあります。私のプロジェクトのReseach Questionは、"How can coconuts fiber in Tanzania be upcycled in building use?" ...というのも、学部でパラメトリックに傾倒した反動で手触りのあるものがやりたいなと思っていたこととは少しありましたが、丁度タンザニアにはココナッツの実が多いという他の学生のfloraのリサーチから分かったということと、タンザニアの建設のマテリアルと構法が不十分であることから多くの人が疾患を抱えているというデータから発想しました。タンザニアの多くの建物が赤土壁かセメントモルタルを使った建物で他の選択肢はほぼなく、結果密な換気の悪い空間になりがちで調理時に発生するガスが溜まり中にいる人が呼吸器疾患になったり、逆に完全に閉じた空間でもない故にマラリアを媒介する蚊の侵入を許し子供が死亡する例、不衛生から下痢を起こす例があり、そして今あげた3つは、タンザニアでの人の死亡原因の2,3,4位であり(1位はHIV)、言い換えると不十分な建築環境のため人が病気になっている。ここで廃棄されるココナッツ線維を新たな建材の選択肢とすると、(ココナッツの)廃棄過剰と(建築資材の)供給不足のバランスをとりながら、繊維状のマテリアルで吸着と換気を行うような素材を提供して問題解決に繋がるのでは?という仮説を立てたのでした。
デバイスは、このResearch Questionを立てた際に起こるKnowledge Gapを解消するための装置として機能します。 どうすればそれを有効だと証明できる?どのようなデータを取れば良い?AEEで制作するデバイスとは、IMRADでいうMethodologyに位置するものでセンサーを使って数量化したり建築的プロトタイプを作ってみたりする具体的な解法はMethodです。無論、徹底して学期末はScientific Paperという前述の論文形式のドキュメントの提出が必須で優秀な者は実際にカンファレンスに掲載されます。私の場合、今回のデバイスは、ココナッツからできた試料の強度実験を行うためのポータブルデバイスをデザインする方向にしました。荷重センサーと距離センサー等をArudinoと組み合わせてフレームはMDFや鉄を適宜組み合わせていくだけで、本来ならば何百円万円をするだろう試験機を5万円もしない材料費で簡易に制作できます。同時にココナッツを試験体として成型するモールドを作って持っていくこととしました。(本当は吸着と断熱性を調べるテストも含みたかった)

 ↑最初はこんなスケッチではじまり、、、

アルミの鋳造したり、溶接したり削ったりして

MDFで骨格つくって、

センサーと一緒に組み合わせて完成。

デバイスによってココナッツ材のひずみと応力のカーブを得ることができています。

この辺はよかった。でも結論を先にいえば試験の結果は芳しくなく、成型したココナッツ材は、煉瓦のような圧縮材としても、ロープのような引張材としても強度的に不十分と分かりました。タンザニア現地で簡易に入手できるバインダー(接着剤)で繊維を結合させようとしたのが上手くいきませんでした。これならもっと熱圧縮等の違う方法で成型した方が頑丈に作れたかもしれない。

タンザニアについてからそもそもココナッツ廃材と繊維をどこで手に入れればいいのか、どこに産業があるのかが分からなかったので、これを探すのに時間を使ってしまった感がありました。 デンマークで準備している段階でGoogle検索してもどこで実際にCoconut Industryやってるのか分からず(どこどこの町の周辺でくらいの情報しかない)タンザニア現地に行って最初にやったことは、 Google翻訳を片手にどこにココナッツが集積しているのかを現地の人にヒアリングして回るということで1週間くらいかかりました。1か月の滞在のうち、最初の1週間はAEEのグループ全員で移動(旅行?)、そこから2週間とちょっとで実験等を終え、最後の1週間で提出物を仕上げるという日程で、ココナッツを探すだけで1週間くらいかかってかなりタイトでした。今思えばいろいろ時間が足りない中やりくりする1st Semester。

↑横の2人が見せてくれたケータイの写真にココナッツの山みたいなのが見えた瞬間に希望が見えました。

↑たどり着いた時の達成感。

ココナッツの殻の山を前にして、ココナッツは本当にあったんだ、、、とか思いながら近くの従業員の人達に早速声をかけたら、スワヒリ語。交渉に苦戦していたところ、若い兄ちゃんが英語で話しかけてきて自分がCEOだといって話を聞いてくれました。その後なんだかんだ打ち解け、ごはん一緒に食べたり工場を案内してもらったりしました。

工場外観

内観。ココナッツを加工する機械と粉砕後の繊維と粉末が山積み。

↑手前右の彼が社長

Pangani Coconut Fiber Industryという会社は、近隣の村から出てくるココナツの捨て殻を、自社の所有するトラックで集めて回って、敷地内の広場に貯めて、徐々に粉砕しながら、ココナッツの殻から取れる繊維でマットレスや建材として使用するロープ等に再加工して、タンザニア国内のリゾート地であるザンジバルに輸出したり、またココナッツの殻を粉砕した時に繊維の後に残る粉末状は堆肥として利用できるので、Arushaといったタンザニア北部の村々に農家に降るというビジネスモデルを立てていました。

↑ココナッツの殻からこういうマットができる。

ここの工場や中の機械はなんでも中国人のオーナーによって提供されたものだそうで、こんな小さなの町にすら中国資本は届いているのか恐れいったのですが、現在使っている粉砕機等は電気代がとても高く、従業員に払っている給料の出費と合わせるとギリギリ収入とバランスするかという状況で、近々インド製のココナッツ粉砕機の方が性能が良いから買い替える予定なんだとか。そんな会社を運営する彼は23歳で大学をもう一度行ってITを学びなおしたいといういってて凄いなと思った後、ココナッツの殻を5kg分けていただいたおかげで、なんとかAEEの実験を行うことができたのです。

↑提出物の動画です。

AEEで感じたのは、これも当たり前のことなんですが、建築はその場所の気候に従いデザインされるということです。ある建物の形や配置、素材はデザイナーの意識の及ばない規模での前提条件、その場所に当たり前にある気候、気温、湿度、風、地質的な性質等に支配されているということです。でもそんな与件の中でもアイデアや技術は伝搬可能かもしれない。また、資源のサイクルを多層的なものだとすると、新たな物の循環を既存の循環に沿えるだけで生活の質を向上できるかもしれない。伝統の循環の中に外部の循環系を取り入れるような考えをレクチャーではCultural Exchangeと評していたのですが、局所環境の建築の手法の交換可能性のようなもの、今回でいえば、UK的なハイテックな思想体系をタンザニアと交流させることで開ける可能性もあるのかもしれない。色々反省はありましたが、建築のグローバルな展開を感じさせるプログラムでした。

が、そうこうしていると、AEEプログラムの1年はあっという間に過ぎようとし、しかし5月半ばの私の中では不完全燃焼感がありました。それは、デンマーク、タンザニアという両極端な環境に連続して中長期滞在したことで起こったのですが、つまり、私たちがSustainabilityといっている概念ってけっこうズレてないか?という所です。日本にいるとき、持続可能性のイメージはニアイコールで省エネ家電ってイメージで、デンマークに来ると比較的フィジカルなモノの議論をしているイメージで、タンザニアの場合、命と直結するインフラの話に結び付く(水、電気の安定供給)。持続可能性っていったいなんなんだ。。。答えはあるのか分からない(笑)抽象的な問いがぽつと生まれて、せめてこれの答えのようなモノを出して本帰国したいと思うようになりました。デンマークはSustainability意識高いと聞くし、もう少し深堀できないかと考え、デンマークでのインターンを決めたのでした。

ところでタンザニアで他のAEEの学生達がどんなテーマで活動していたかといいますと、

↑タンザニアの情報網事情を改善するために電波の中継点&ブースターを作るとすれば、、、という着眼点で風船につけたラズパイで電波ひろってかつインタラクティブなデバイスを作ってみた人。

↑安全に飲める水が少ないので、簡単に濾過できるようなデバイスを作った人。

↑アフリカのトイレ事情を改善するために実際に1/1でトイレを建設しちゃったグループ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?