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【展示会レビュー】殺人鬼と向き合う奇特で濃密な1時間(「シリアルキラー展2020」を観て)

0.緒言

「シリアルキラー展2020」を観に行った。

2017年、2019年にそれぞれ1日ずつ観に行っているので、今年で3回目になる。

ヴァニラ画廊で行われているシリアルキラー展はおおかた面子が決まっていることがだんだん理解できてきたものの、3回目なのにもかかわらず未だに「1時間では100%鑑賞しきれない」内容の濃さに翻弄され続けている。

このnoteでは、シリアルキラー展2020、およびこれまでのシリアルキラー展を振り返って、シリアルキラー展の見どころや主要な猟奇殺人者について簡単に紹介していくつもりである。


1.「シリアルキラー三大巨頭」の不気味な存在感


年々規模・展示数が多くなっているジョン・ウェイン・ゲイシーや、毎年のようにひっそりとした場所で強烈な存在感を示しているエドワード・ゲイン。この「二大巨頭」ともいうべき2人は、シリアルキラーとしての血生臭いキャッチーさとでもいうものを確かに持っている。

非常に不気味でありながらもどこか彼らなりに一貫したロジックのような、信じがたい異教徒の儀式をみているような「絵」や「手紙」といった「遺品」の数々を目の当たりにすると、何とも名状し難い精神状態に「持っていかれる」感覚に囚われる。

特にエドワード・ゲインは明確に判明している殺害者数こそ少ないものの(本当は何人殺しているかわからない)、遺体を墓から掘り起こしては弄び、時には人肉を食していたとされるその異常性からシリアルキラー界隈に残したインパクトは絶大なものである。

殺害した女性の首を斬り、尖った梁に足関節を貫かせ、逆さ吊りの状態で部屋に飾っていたり、これまで掘り返した無数の遺体から回収した人皮で作った日用品や衣服、頭蓋骨で作った杯などを身の回りで平然と使用していたという常軌を逸した猟奇性は、他の追随を許さない大きな衝撃を与えた。

それにもかかわらず、いや、だからこそと言うべきか。結局、エド・ゲインは精神異常を理由に刑の執行を免れることとなった。

シリアルキラー展では、毎回のようにエド・ゲインの「遺品」が展示されている。

特に、厳格かつ妄執的な教育を行ったエドの実母の影響を色濃く感じさせる署名入りの「聖書」は、何回見ても圧倒的な恐怖を纏い、怖気を震う絶対的な存在感をもって鎮座している。その他、エドの経営していた農場の一部も展示されており、生々しい現場の空気感を今に伝えている。

今回の「シリアルキラー展2020」では、ヘンリー・リー・ルーカスという第3の男が着実に展示スペースでの強烈な存在感をもちながらもさらなる色を添えていた。なので、彼を加えて「三大巨頭」といってもいいのではないかと思った。

ヘンリー・リー・ルーカスも非常に凶悪性のあるシリアルキラーだが、エドと同じように厳格な母親からの影響が計り知れない。そしてジョン・ウェイン・ゲイシーもまた、父親から酷い虐待を受けながら育った。

こうした家庭環境の異常性がシリアルキラーを生むことは少なからずある。


2.シリアルキラー・グルーピーを巡る奇妙な三角関係

毎年のように展示されているジェラルド・シェイファー、ソンドラ・ロンドン、ダニエル・ローリングらの奇妙な三角関係も見どころだ。

ロックバンドやヴィジュアル系バンド、アイドルグループなど、芸能や音楽の世界では当たり前のように存在する「グルーピー」いわゆる「追っかけ」だが、スポットライトを浴びることの少ない華やかならざる趣味の世界にも、そうした過激なファンは存在する。

にわかには信じられない話だが、「追っかけ」というのはシリアルキラーの界隈にも存在するらしいのだ。(シリアルキラー・グルーピーというらしい)獄中にいるシリアルキラーに対してアプローチをかけ、時には結婚もするというなかなか狂気じみた人達である。

ジェラルド・シェイファーと共に『KILLER FICTION』という書物を出版した(今回のシリアルキラー展2020はこの本の実物も展示してある)女性記者のソンドラ・ロンドンは、まさにこのシリアルキラー・グルーピー(プリズン・グルーピーともいわれる)であった。この女性、一旦はジェラルド・シェイファーと婚約をしたものの一方的に破棄し、獄中にいる別のシリアルキラー、ダニエル・ローリングと婚約してしまったのだ。(結局フロリダ当局に受け入れられずこの婚約も破談となった)

エグみを感じつつもシリアルキラーならではの独特な美学と狂気をおぼえる「奇妙な三角関係」。殺人鬼というワードが絡んでいることで薄ら寒さを感じるが、彼らはそうした行動を「普通の人間が普通に行うように平然と行っている」という点がもっともぞっとするのではないだろうか。


3.女性シリアルキラーから醸し出される独特な異常性

今回のシリアルキラー展2020は、展示内容自体は昨年を踏襲しつつ、より幅広く様々なシリアルキラーを抑えている印象だった。特に前回から明確に存在感を示してきた「女性シリアルキラー」のコーナーは注目に値する。

アメリカで銀行強盗を繰り返しながら逃避行を続け、反逆のスターとされて世間から持ち上げられたシリアルキラー・カップル「ボニー&クライド」も去年よりレギュラー入り?したように、徐々にシリアルキラー展にも女性のシリアルキラーの作品・遺品が増えている。

性的欲求や快楽の発露を求めて、支配欲を満たすように人々を蹂躙し続ける男性シリアルキラーとはまた違った動機で凶悪犯罪を繰り返す「女性シリアルキラー」たち。

夫と一緒に凶行に手を染める女性、ヒステリックで虚言癖に満ちた破滅的な女性、愛する者の為に犯罪にのめりこんでいく女性。

女性シリアルキラーは、自らの欲求に忠実な男性シリアルキラーとは違って、愛する男性や同性の為に殺人を繰り返す傾向にある。そして、遺産や保険金などの金銭的利益を求めて凶行に走る傾向にあり、福岡大学人文学部教授の大上渉氏は展示パンフレット内でこうした動機のタイプを「黒い未亡人型」と書いている。

シリアルキラーの多くが男性だ。男性シリアルキラーは、彼らなりのロジックに忠実に、同じような犯罪を作業的に繰り返していく傾向にある。それに比べて女性シリアルキラーは、比較的被害者数が少ないにもかかわらず、浮き沈みの激しい気性に比例するような非常にドラマチックな内容を秘めていることが多い。

『シリアルキラー・ドロシアの料理本』のサイン入り書籍の展示や、キャロル・バンディによる自画像など、女性シリアルキラーが自ら残した「作品」を通して、女性シリアルキラーならではの恐ろしさ、悲しさ、人間ドラマ、といったものが垣間見える展示となっている。


4.惜しむらくは1時間ごとの入れ替え制 初見で全て観ることは不可能

シリアルキラーの残した「絵」・「手紙」・「書籍」といった紙媒体から、「指紋」・「歯型」・「髪の毛」、そして「殺人が行われたマンションの破片」に至るまで。

ヴァニラ画廊が主催する「シリアルキラー展2020」では、そうした普段見ることが不可能な、曰くつきの珍しい品々を存分に見ることができる・・・といいたいところだが、新型ウィルスの猛威の影響により、今年のシリアルキラー展は「1時間ごとの入れ替え制」となってしまっている。

その為、じっくり全ての展示に向き合えるとはとても言えない。作品数としては大きな美術館に到底及ぶべくもないほど少ないし、キャプションもそこまで多くはない。しかし、はっきり言っておこう。

それでも、1時間では到底足りないと。

僕のように3回も観に行っていると、ある程度展示品は被ってくるので、なんとかぎりぎり、90%くらいは制覇できた。しかし既にみたことのある展示であっても、全力で精神を傾けて向き合わないと「持っていかれそうになる」内容であるからして、今回も100%全て見尽くせたとは到底言えない結果となった。

まして初めての人は到底一度の観覧ではすべての展示を見ることはできないのではないだろうか。実際、自分も初めて行った2017年の時は半分くらいしか見れなかったし、今回初めて訪れたと思われる女性たちも、2つあるフロアの内、1つを見回るだけで精いっぱいだったようだ。

女性たちが別フロアに行ってすぐ、時間制限でスタッフさんから出ていくように言われていたのでまず間違いないだろう。

作品数的にはすぐに見て回れる広さでありながら、一度その人間ドラマや殺戮の詳細な様子をかみ砕きながら見ていくと、一度では到底見て回れないほどの深奥から抜け出せなくなる。シリアルキラー展とは、そういう展示である。


5.「シリアルキラーの残滓」と静かに向き合う「濃密な1時間」を、ぜひ体験しよう

シリアルキラー展に興味のある人は、最低でも2回以上は通うことになることを覚悟して来館頂きたい。

今回自分はこのようにnoteにまとめたものの、見どころの10%も説明できていない気がする。

それくらい、シリアルキラーの残したもの、「シリアルキラーの残滓」とも呼べるものに向き合うということは、深く濃密で捉えどころの見当たらない、「衝撃的な体験」なのである。

自らの精神や善悪の価値観、「まともとは何か」・・・そうした多様なテーマに改めて向き合い心の深奥を爪繰られるような奇特な体験は、どんなテーマパークも及ばないインパクトを与えてくれるだろう。

ぜひ、この「奇特で濃密な1時間」をあなたも体験してみてほしい。

それではまた来世。

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【シリアルキラー展2020】展示概要

会場:ヴァニラ画廊(〒104-0061 東京都中央区銀座八丁目10番7号 東成ビル地下2F)

会期:2020年10月29日(木)-2020年12月6日(日)

会期中無休 12:00 - 19:30

入場料:2,000円(※事前にチケットの予約必須)

※予約は公式サイトから行えます↓↓↓

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