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2024ベルリン観劇記録(13) Im Menschen muss alles herrlich sein

2月23日Maxim Gorki Theater マキシムゴーリキーテアターにてサシャ・マリアンナ・ザルツマンの小説を元にした新作、Im Menschen muss alles herrlich sein。

作 Sascha Marianna Salzmann
演出 Sebastian Nübring
舞台美術/衣装 Evi Bauer
音楽 Jackie Poloni
照明デザイン Christian Gierden
ドラマトゥルギー Valerie Göhring
出演 Yanina Cerón, Lea Draeger, Anastasia Gubareva, ÇİĞDEM Teke

 サシャ・マリアンナ・ザルツマンの小説『Im Menschen muss alles herrlich sein』は、政治体制の崩壊、激変する社会状況と、それらが友人同士である二人の女性レナとタチアナの人生に与えた影響を描いている。二人は90年代にウクライナを離れ、イェーナにたどり着いた。そして娘のエディータとニーナは、それぞれのやり方で母親たちの知られざる遺産に近づき、ソ連崩壊とその後の影響に向き合う。……

https://www.gorki.de/de/im-menschen-muss-alles-herrlich-sein
写真ではわかりにくいが
舞台面は八百屋になっている




 「女性三世代を中心に物語る」作品はよく目にする。例えば拙訳『母語』『未婚の女』、關智子訳『アナトミー・オブ・ア・スーサイド』もそうで、ドイツ語演劇圏のみならず英語や他の地域の演劇でも頻繁に扱われるテーマである。戦後を転換点として世代間の差が明確にあり、世界で共通して女系親族の間では「語られ易い」のかもしれない。戦後、戦中の出来事をトラウマと共に口を閉ざしてきた祖父からの男性三世代について掘り下げた作品は、先日観たシャウビューネ23/24新作の『The Silence』や、来月ベルリナー・アンサンブルで観る予定の23/24新作『Sterben Lieben Kämpfen』などがある。日本でも世界でも、男性が心の傷を認めて語ることが忌避されてきた。
 『Im Menschen muss alles herrlich sein』はウクライナからの避難民の女性たちの話だ。移民第二世代の若者たちは、インターネットで検索し、ニュースを読み、祖母が生きたソ連時代のロシアによるウクライナ人への仕打ちや、ソ連崩壊時の出来事を知る。ANATEVKA(屋根の上のヴァイオリン弾き)の最後と同じようなことが、今も続いているということだ。ウクライナは地理的に極めて不利なのだと想像する。大陸に住む人たちの戦争や避難、難民の大移動に対する不安や恐怖の感覚を、わたしは本質的に共有できない。今回の作品内で母親世代が「ウクライナ東部からポーランド経由で27時間かけて自動車でベルリンへ来た」と語るのだが、それを多少うらやましいと感じてしまった。島国に住むわたしは、いざという時に国外へ逃げることができないからだ。(航空機や船舶での避難は富裕層に限られるだろう)
 作品のテーマは重要であるが、演出が効果的とはいえず、退屈して集中力が切れてしまった。
 余談だが、劇場構造が好みでないためゴーリキーテアターではあまり観劇をしない。特に一階席は傾斜も並びも不親切な作りで、前列の人の頭に遮られて舞台の大部分が隠れてしまう。英語字幕が常にあるのは利点だが、であればドイツ語字幕の方がわたしには嬉しい。

ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!