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[再録 : REVIEW] Fit For An Autopsy Atlanta Show

Sumerian Records所属のAfter The Burialをヘッドライナーに、EMMURE、Fit For A King、Fit For An Autopsy、Invent, Animateの豪華布陣の並ぶ"THE CARRY THE FLAME TOUR"が2月後半から約一ヶ月に渡って行われた。今回私はそのセミファイナル公演、ジョージア州アトランタでのショーに参加。3月中旬に最新作"The Great Collapse"をリリースしたばかりのニュージャージー出身のデスコアバンド、Fit For An Autopsyとコンタクトを取ることに成功し、今回のアトランタでの公演を撮影させてもらえる事となった。


2014年には結成初期からバンドと共に歩んできたヴォーカリストが脱退、新たに2015年からヴォーカリストJoeが迎えられた。また今回のツアーの前にベーシストのShaneが脱退、新ベーシストとしてPeterが加入し新たなラインナップでツアーがスタートした。アルバムリリース前に公開されたMVはどれも素晴らしく、また一貫して彼らの持つ重苦しいテーマが生々しく描かれた作品でもあった。最新作の完成度も同じく素晴らしいものだったことや今回が初めて観る彼らのショーという事もあり、緊張と期待に胸を膨らませダウンタウンの中を会場へと向かった。

彼らの出番はこのツアーの全公演で2番目、マイクチェック中にシャレのきいた言葉を発するGt.のPatrickに、今か今かと待ちきれないファンで前方が埋め尽くされたフロアからは怒号に近い歓声が沸き起こる。そしてステージの照明すらほぼ真っ暗に落とされた闇の中、Fit For An Autopsyのショーがスタートした。


1曲目は静寂の中不安を掻き立てるかのように静かに鳴り響いてくるギターの音から始まる、"Absolute Hope Absolute Hell"。2015年に発売したアルバムのタイトルソングでもある、彼らの近年の代表曲だ。曲の中盤では既にフロア中央にモッシュピットが発生、薄暗い中に時折赤いライトが点くだけの照明の演出も相まって、まさに会場内は地獄絵図のよう。間髪入れずにJoeが『次の曲は…』とコールしSaltwoundがスタート。
パワフルな音が印象的なJoseanのたたみかけるようなドラミングに、一気に彼らの曲に惹き込まれてしまう。もう一人のギタリストであるTimのプレイも丁寧で、しっかりと曲の中でそれぞれの音をまとめ上げている。


その風貌から、貫禄もバッチリだ。曲の終了と同時に爆発するような歓声がステージへと向けられた。


『調子はどうだ?良さそうだな皆、俺達はFit For An Autopsy。俺達はつい最近、最新作The Great Collapseをリリースしたけど、聴いてくれたヤツどれくらいいるんだ!?…いいね、最高だ。今から演るのはその最新アルバムの中からシングル曲だ…次の曲はHeads Will Hang』
Joeの言葉と、待ちに待った新曲に会場中のファンが沸いた。ダウン気味のテンポと疾走感のあるAメロのバランスが最高で、観ているこっちの血液が興奮でふつふつと煮えたぎりそうな気さえしてくる。サビではフロアの人々が一斉に手を挙げシンガロング。


新加入したベーシストのPeterもしっかりとこの雰囲気にハマっており、Patrickと並んで演奏する姿には仲の良さも感じられる。大柄なメンバーの多いFit For An Autopsyだが、その演奏スタイルはシャープかつ攻撃的で完成度がとても高く、別の意味でステージが狭く感じてしまうほどだ。
ここで曲終わりにPatrickが今日会場へ足を運んでくれたファンへ感謝の気持ちを述べ、大きな拍手が彼らへと向けられる。
『よし、最新アルバムThe Great Collapseからもう1曲別のを演るぞ。全力で暴れてくれ。曲名はIron Moon…サークルを拡げろ!』
Joeの合図でフロアのモッシュピットは更に巨大になり、途絶えることなくファンも暴れまわる。中盤のPatrickのギターソロがまた見事。
『もう少しだけ曲をやってもいいかい?今夜は本当に最高だ、そしてこの先も最高なバンドが皆の前に出てくるよ。この曲は俺の凄く好きな曲で、Thy Art Is Murderとのスプリットアルバムに収録されている曲だ。思うままに皆も一緒に叫んでくれ、ピットの奴らわかってるだろ?デカく、そうだもっとデカくまわれ』
ラストは2016年にリリースされたスプリット作品よりFlatlining。開始早々テンポの良いドラムとギターのリズムにピット内は更に激しくなり、Joeの煽りに合わせ全員が一斉に手を挙げ叫ぶ。流れるようなギターリフから、これまでの彼らの作品と比べると珍しい、よりメロディアスなサビへ。ただ暴れるだけでなく、フロア全体がこのラストへ向けしっかりとまとまっていく光景がまた圧巻だった。

約30分ほどの短いステージ、しかし良い意味で多くのファンの心に間違いなく爪痕を残したであろう素晴らしい時間だった。そして叫ぶような歓声と拍手の中、この日のFit For An Autopsyのステージは幕を閉じた。

【Set List】
・Absolute Hope Absolute Hell
・Saltwound
・Heads Will Hang
・Iron Moon
・Flatlining

Fit For An Autopsyはまさに精鋭部隊という言葉がぴったり、それぞれ素晴らしいキャリアのある実力者が揃ったバンドである。

またこのバンドのギタリストであるWill Putneyは名プロデューサーとしてもメタルコア/デスコア界隈で著名な人物。かくいう私自身も、実は彼の手がけてきた作品の大ファンであり、同じく彼が所属している事で知ったFit For An Autopsyは大好きなバンドの1つ。現在はツアーには帯同せず、制作とマネジメント方面で全面的に関わっているようだが、彼の代わりに参加しているTimもまた素晴らしいギタリスト。そしてその創成期からWillと共に活躍していたPatrickも最高のギタリストである。その作風や風格のあるヴィジュアルも相まって、私の中では手の届かない重鎮の一角としてのイメージが強かった。今回勇気を振り絞って送った取材の依頼に快く対応してくれたWill、そして出発前から当日帰路に着くまで心優しく対応してくれたPatrickには感謝してもしきれないほど。いつも思うことだが、国も言語も文化も年齢も違う誰かとこうして出逢い、心を通わせてくれる音楽とはなんと素晴らしいものなのだろうか。まさかこうやってFit For An Autopsyに関わることができる日が来るなんて、私自身想像もしていなかった。

『日本の文化が大好きなんだ。旅行では訪れたことがあるんだけど、今度はショーをしに行きたいね』
そう笑顔で語ってくれたPatrickの言葉に、私も心からそう願わずにはいられなかった。


最新作、The Great Collapseは楽曲はもちろんのこと、そのテーマやジャケットの細部に至るまでしっかりと目を向けてほしい傑作だと思っている。昨今、CDの売れない時代だという言葉をよく耳にするが、新しいアルバムやEPの発売を指折り数え楽しみにし、ようやく自身の手に取った時のあの喜びは他の何ものにも代え難い。確かにダウンロードやストリームサービスは便利だしエコなのかもしれないが、僅かな重さと厚みの中にその何倍もの大切なモノが沢山詰め込まれている。この作品を手にする事ができたことを私は幸せに思っている。是非多くの日本の人達にも聴いてほしい。

結成からもうすぐ10年目を迎えるFit For An Autopsy、こんな実力のあるバンドが前座として帯同しているこのツアーの規模にも驚いたが、日本の市場ではまだ彼らの名前や曲は息を潜めていると感じる。帰り際に また絶対会いに行くからね、という約束もした。次はアメリカの地かヨーロッパか。そしていつか彼らの願う日本でのショーが叶うことを願いつつ、今後もずっと応援していきたい…とそう心から思った素晴らしい夜だった。

私、Marinaの今後の取材や活動費、または各バンドのサポート費用に充てさせていただきます。よろしくお願いいたします!