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Wacken Open Air 2019 Review (Day ②)

8月2日、本戦2日目のこの日の撮影は昼過ぎにFASTER STAGEで始まったELUVEITIEよりスタート。雷雨で途中全ステージの演奏が中断する出来事もあり、大幅なスケジュール変更も起こった。そんなジェットコースターのような2日目のご様子をお届けしよう。


チンドン屋メタル BLAAS OF GLORY

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Wackenの会場内を1日中歩きながらパフォーマンスを行うというWalking Actsというものがある。彼らBlaas of Gloryもその1つ。
この日も各著名なメタルバンドの曲をブラスバンド風にアレンジしながら、小気味好い動きで見る人を楽しませていた。

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五感に響き渡る美しさ、 ELUVEITIE

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この日最初の撮影はメインステージでのEluveitieから。前日からの体調不良で昼過ぎまで全く使い物にならなかった自分自身が情けない。

何はともあれ、初めてのEluveitie。その評価はよく耳にするものの、実際に見るのは初めてである。

ステージに広がるスモークと美しい音色、最新アルバムよりタイトルトラックのAtegnatosからそのショーがスタートした。

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圧倒的なメンバーの人数の多さや、その特徴的な楽器に目がいく。どれも美しく繊細な音色だが、サビで一気に熱量を上げる力強い歌声や全ての音がしっかりとクリアにまとまっている様が、その1つ1つを全くか弱い音に聴こえさせない。

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次のKingは男性Vo.のChrigelの力強いシャウトがメイン、そしてその荒っぽさと精巧でスピード感のあるヴァイオリンのソロパートの組み合わせが素晴らしい。
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The Call of the MountainsではFabienneの美しい歌声が前面に押し出され、雰囲気もガラリと変わる。Chrigelはマンダリンを演奏し、必ず9名全員が演奏か歌を担っているという編成も面白い。

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その後DeathwalkerやAmbiramus等を最新作より披露。
ハーディガーディという楽器をこの日人生で初めて目にしたことや、民族楽器をここまで違和感なく美しくバンドに融合させる巧さに驚く。

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メンバーと楽器の多さが一切ごちゃごちゃして聴こえないその演奏/表現力にも脱帽の一言。彼らが人気のある理由が最初の曲の1フレーズ弱で理解できたような気さえする。
ステージでの立ち振る舞いも美しく、ずっと眺めていたい衝動にかられるショーだったが、後半突然の雷雨の予報によりRebirthを演奏し終えた段階で中断となってしまった。

ELUVEITIE Setlist
1. Ategnatos
2. King
3. The Call of the Mountains
4. Deathwalker
5. Worship
6. Artio
7. Ambiramus
8. Havoc
9. Breathe
10. Rebirth




バンドとしての力を見せつけた GLORYHAMMER

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Eluveitieと時を同じくして、LOUDER STAGEに登場したのがGLORYHAMMERだ。FASTER STAGEから一目彼らのショーを見ようと走ると、数秒前まで見ていた景色とはガラリと雰囲気が変わったものが目に飛び込む。


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"モッシュピットの中でメロイックサインではなく数多の剣が踊っている…"

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一体何があったんだ?次元の壁でも越えてきてしまったのだろうか…。
しかもVo.の手にある、あの巨大なハンマーを振る"効果音"は自身とオーディエンスの口から発していないか?
いや、きっと気のせいだ。ワームホールを通って我々は、彼らの手により次なる戦いの舞台へと誘われてしまったに違いない…。

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その茶目っ気たっぷりなパフォーマンスと、物語を語りながら進むショーが面白くてたまらない。Vo.の声も最新作からよりクリアに聴きやすくなっている印象。

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曲はこれまでの過去3作よりプレイ、最新アルバムでMVにもなったHootsforceでは盛り上がりも最高潮に。クラウドサーフも大量に発生。オーディエンスを引き込むトークもうまい。


しかしショーもいよいよ終盤に差し掛かったこの時、突然ステージを運営スタッフが横切り曲の途中でショーが急遽中断。なんでも雷雨の警報が出たためだという。
しかしここで素晴らしかったのが、彼らの咄嗟の対応である。
『本当に申し訳ないんだけど、すぐそこに雷雲が来ていてここでショーを中断しなくてはならなくなった。でも必ず俺たちはこの地にまた戻ってくるから…』とVo.のAngus McFife XⅢがすぐにフォローを入れたのだ。
『決戦の時はその時まで。皆己の中の闘志とハンマーのパワーを高めておいてくれ!そしてくれぐれも、雷雨から自身の身を守ってくれよ』
との言葉には思わず拍手を送った。

彼らのその素晴らしいフォローの入れ方に、バンドが引いた後も雨が降るまでオーディエンスはその場に残り、盛り上がりは収まるどころかサークルピットまで新たに発生していた。
このWackenの期間中、2度ほどこのような事態が起こり、運営スタッフが中断をマイクで説明する中、バンドメンバーが複雑な顔でそのまま退散する様子も何組か目にしていた。もちろん、そのバンドが悪いわけでもないし途中で中断なんて咄嗟に頭が追いつかないだろう。その中でこのGloryhammerの曲の止まり方は、正直特に見ていても「は?今の何それ?」と思ってもいいくらいの雑なものだったし、その上で彼らのとったファン想いのこの行動には、バンドとしての経験や底力を感じさせるものだった。

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GLORYHAMMER Setlist
1. The Siege of Dunkeld (In Hoots We Trust)
2. Gloryhammer
3. Angus McFife
4. The Land of Unicorns
5. Questlords of Inverness, Ride to the Galactic Fortress!
6. Legend of the Astral Hammer
7. The Hollywood Hootsman
8. Goblin King of the Darkstorm Galaxy
9. Hootsforce
10. Masters of the Galaxy


全ての演目スケジュールが中断になり、テントで雷と雨を凌ぎながら続報を待つ。ようやく再開されたのは雨の止んだ一時間半後。
メインステージでのCRADLE OF FILTHは一旦キャンセルされ続報を待たねばならず、そのまま次のBLACK STONE CHERRYが FASTER STAGEでスタート。テントステージはメインよりも再開が早く、全スケジュールの移動を確認している間に実はNASTYが終了。NASTYの前のバンドはキャンセル扱いとなってしまったらしい。
休止していた時間に本来出演する予定だったバンドは一旦キャンセルがほとんどで、ここからは実際その場に行って確認するか、運営からの告知、バンドからの発表を待ちながら行動することになった。


移動を控えていたため撮影をすることは叶わなかったが、WACKINGER STAGEに出ていたWARKINGSのショーがとても巧く、瞬く間に沢山の人がステージに集まりだしたのは印象的だった。



Matt Kichi Heafy アコースティックSHOW

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今回WackenにはTRIVIUMのVo.Matt Kichi Heafyがフィールド外にあるFull Metal Gaming Villageにスペシャルゲストとして参加。
ファンは彼と対戦型のゲームを楽しむことができ、期間中発表された彼のアコースティックショーへと足を運んでいた。

この日の演目はThe Heart from Your HateDying In Your ArmsIn Wavesの3曲。このセレクトはなかなか嬉しい。メインのエリアでもショーが行われる中、彼のアコースティックを一目見ようと多くのファンがエリアに訪れていた。

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不動の人気を誇る WITHIN TEMPTATION

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BODY COUNT feat. ICE-TANTHRAXで先ほどの雷雨トラブルですっかりクールダウンしていた観客のテンションも再びMAXになり、HARDER STAGEにWITHIN TEMPTATIONが登場。

序盤は2018年リリースのRESISTからRaise Your BannerThe Reckoningをプレイ。比較的スローな印象のスタートだが、じっくり聴き入ってしまうそのパフォーマンスと風格。Sharonの呼びかけ、歌声に合わせ一斉に観客の手が高く上がる光景も圧巻で、彼らのヨーロッパでの人気を存分に見せつけられた。人気曲、In the Middle of the NightFasterも披露し、熱いファンの歓声とともに余韻を残しながら全12曲のショーは幕を閉じた。

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Within Temptation Setlist
1. Raise Your Banner
2. The Reckoning
3. Stand My Ground
4. In the Middle of the Night
5. The Heart of Everything
6. Ice Queen
7. Faster
8. Supernova
9. Paradise (What About Us?)
10. What Have You Done
11. Mad World
12. Mother Earth



暗黒のミュージカル CRADLE OF FILTH

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本来はメインステージに出演予定だったCradle of Filthは、雷雨の影響により一旦キャンセルが発表されたものの、その後テントステージで時間を大幅にずらしてのショーとなった。まずは多忙なツアースケジュールの中、ステージが小さくなってもショーをやると決意してくれたメンバーと運営に感謝したい。

現在1998年にリリースしたCruelty And The Beastのアニバーサリーツアー中の彼ら、セットリストもそのアルバムからの選曲が多く、Once Upon AtrocityをSEに入場してからのThirteen Autumns and Widowの流れが、まるでゴシックなホラーミュージカルを観ているかのよう。そこに重なるKey.のLindsayのコーラスが、美しいながらも一層恐怖を駆り立てるかのように怪しく響く。

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Dani Filthの絹を裂くかのような高音のデスヴォイスも他のバンドとは明らかに一線を画すもので、ついつい見入ってしまう。曲はそのままCruelty And The Beastの流れに沿いCruelty Brought Thee OrchidsBeneath the Howling Starsと続く。
Daniの声に巧く合わさるメロディアスなギターとキーボード、またそれを演奏しながら対照的な動きをする2人のギタリストと、ステージの上が常に休むことなく展開され、どこを見ようかと迷ってしまうほど見所でいっぱいだ。

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単純に演奏の技術自体もものすごく高く、そこにこの彼ら独自の世界観。メインステージに出演するほどの実力とキャリア、その人気にも納得である。

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Cradle of Filth setlist
1. Thirteen Autumns and a Widow
2. Cruelty Brought Thee Orchids
3. Beneath the Howling Stars
4. Malice Through the Looking Glass
5. Heartbreak and Seance
6. Summer Dying Fast
7. Nymphetamine (Fix)
8. Saffron's Curse
9. Her Ghost in the Fog



テクニカル技巧派の帝王 MESHUGGAH

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カメラを持った当時、まさか彼らのショーを撮影することになるとは誰が想像しただろうか。スウェーデンのテクニカル重鎮、Djentの始祖と言われているMeshuggah。実際に目の当たりにすると、そのショーは瞬きする時間も惜しいほどに脳の処理能力の限界を超えたような展開が詰まっていた。

静かにゆっくりとメンバーが入場し、名盤ObZenよりPravusからのスタート。曲が始まり、静かに両手を広げたJensの表情が次第に険しく歪み、それを狙ったかのようにカメラマンが彼の真下へと集まったのには少し笑った。

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ステージいっぱいに広がるアーティスティックなバックドロップとタペストリー、そして持ち込みであろう照明機材の点数の多さ(噂には聞いていたが、本当にキャビネットが1つもなく、本来キャビネットやヘッドが置いてあるであろうその位置に、照明機材がびっしりと並んでいるという異様な光景が広がっていた)、それを見るだけでも目が回りそうなのだが、とにかく演奏が凄過ぎて一体何をしているのかわからない…というのが正直な感想だ。

Born in DissonanceThe Hurt That Finds You Firstと続く中で、あまりの変拍子構成にフォトグラファーが曲の終わりを見失い、間違えて退場するという出来事も(実際は曲の休符部分だった)。

もちろんメンバーの演奏はしっかりと見えているのだが、そのテクニカルな個々の演奏が合わさり"曲"としてこちらにぶつかってくるものが、軽く脳の処理能力を超えているような印象。速さはもちろんのこと、そこに変拍子や変調フレーズをここまで盛り込んでくるのか。音源で聴くよりも、何倍も凄い衝撃的なものを目の当たりにしている気分である。

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まだ日の明るいうちからの演奏開始だったため、よく話題になるステージライティングが良く見えたのは後半になってから。

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演奏がとても激しく切り替わり、精巧なマシーンのような音を生み出すメンバーの動きはとても緩やか。全員が仮に静止したままだったとしても、違和感なく演奏に釘付けになってしまうだろう。

間違いなく他のどのバンドとも違う異質な存在。これはおそらく真似をしたくてもできないであろうという、かけ離れたクオリティの高さを目の当たりにした。

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Meshuggah Setlist
1. Pravus
2. Born in Dissonance
3. The Hurt That Finds You First
4. Rational Gaze
5. Future Breed Machine
6. Stengah
7. Straws Pulled at Random
8. Clockworks
9. Violent Sleep of Reason
10. Lethargica
11. Bleed
12. Demiurge


Meshuggah終盤から、テントステージで行われるThy Art Is Murderのショーのために移動。メインステージで演奏中のDemons & WizardsがBLIND GURDUANのValhallaをまさかのこのタイミングでプレイ。運がいいというかなんというか…。Valhallaの大合唱を背に受けながら、この日最後の撮影へと急いだ。


正真正銘の化け物だった THY ART IS MURDER

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オーストラリアのデスコア王、THY ART IS MURDERは今回が初のWacken Open Air出演となる。まさかのSlayerの真裏という非常に厳しいタイムテーブルだったが、大切な友人の初出場の場面、しかもCJの育休明け復帰一発目。これを見ないでどうする!と私は彼らの元へ。
しかし、若干不安視していた客入りに関しては、そのショーが始まる前に杞憂だったとすぐにわかった…テントには入場規制になりそうなほど、溢れんばかりの観客が押し寄せていたのだ。

彼らに似合わないポップなSEが流れひとしきり笑いや歓声、拍手が起こった。その後、地を這うような静かな音とともにメンバーがゆっくりとステージへ。メンバーが位置についた次の瞬間、爆発するような音とともにスタートしたDeath Squad Anthemに合わせ、Vo.CJがステージ中央へと現れた。

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野獣のような咆哮、耳をつんざく断末魔のような叫び声、カリスマ性に溢れたその姿。やはり最後のピースと言うべきか、CJがいないとThy Art Is Murderは始まらない、のっけからそう思ってしまう。静かに、表情もほとんど動かすことのない楽器隊と彼との、その静と動のギャップがまた、そのステージの空気をまるで触れられない場所のように包み込んでいる。

『Make America Hate Again!!』CJがそう叫び、2曲目は同じく最新アルバムからMake America Hate Againをプレイ。待ってました!どう演奏するのかと気になっていた1曲でもある。ファンなら想像はつくかもしれないが、数年前にMake Deathcore Great Againというマーチを騒動の際にリリースしていた彼ら。こんな形でアルバムにまで持ってくるとは思いもしなかった。
曲自体はデスメタル調のリフを含みながら非常にテンポよく、拳を振り上げて一緒にノリたくなるような曲である。

The Purest Strain of HateHoly War等のオールドな人気曲もここでプレイ。会場内はこの時点でもはや暴動のようになっており、序盤からファンのテンションはトップギア入りっぱなしのような状態。正直、こんなに人間が次々クラウドサーフで流れてくるショーを見たのは人生初である。
ショーの前におそらくベテランであろうセキュリティスタッフが担架を運び込み、若いセキュリティスタッフに『覚悟しとけよ』と言っていたのを思い出した。

Dear DesolationSlaves Beyond Deathでは今回もツアーに帯同しているJesseのドラムがかっちりとハマり、より曲にメリハリをつけてクリアに聴こえる。

ここでCJが静かにステージで語り出す。

『実は俺たち、今までWackenでプレイしたことがなかったんだ。全てのバンドにとって、ここに立つことは本当に特別なことなんだ。今日というこの素晴らしい日を忘れないためにも、俺の最高なタトゥーアーティストのダチをシドニーから連れてきた。今から俺らはここでタトゥーを彫る、Wackenのロゴを"今"ここでだ』

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……いやお前なにやってんの!!(笑)
メンバーも笑いを隠せてない上に、ギターテックは携帯のライトでタトゥーを彫りやすいようにCJの足を照らしてる。この一連の流れに対して大歓声が上がるThy Art Is Murderのファン、マジでイカれてます(褒め言葉)。しかもここから曲はアルバムHoly WarからCoffin DraggerLight Bearerの二本立て。ファン大歓喜どころか狂喜、クラウドサーフももはや回転寿司のように人が流れてくる始末で、関係者入り口のセキュリティは口を開けたままそれを見つめている。

隣にいたThy Art Is Murderのツアーマネージャーに『今日も最高に狂ってるねCJ!笑』と声をかけると『もはや通常運転だよ!笑 あいつはいつでも予測不可能さ!』との返しが。オーバーな表現ではなく、2人して腹抱えて爆笑。

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『手を上げろ!そのまま俺に続け!』の流れから会場全体を巻き込んだ手拍子とともにスタートしたPuppet Masterからの、最後は最新アルバムのタイトルトラックでもあるHuman Targetで、大絶叫と轟音の中、狂いに狂った彼ら初のWacken Open Airが終了した。

ヨーロッパでの彼らの人気が異常を期している様を、この目でしっかりと見てきたと同時に、このバンドが日本で一緒にツアーをしたという1年前の出来事がはるか遠い昔の出来事のように感じた。
間違いなく、デスコアバンドとしては今世界で一番と言っても過言ではない、Thy Art Is Murderはそんな道を爆走しているように思う。


この日が最後のWackenとなったSlayerもその後遠くから眺めることに。最後のトムアラヤの挨拶は比較的シンプルで、それが感極まっていたからなのか、世界各国から多くの人が集まったフェスティバル故に言葉少なになったのかはわからない。
撮影や中継についても、直前に様々な規制が追加され、裏側は大変だったという話も耳にした。あの夜、Wacken Open Airのその地にいた人間だけが、四天王の最後のショーの1つをその身でしっかりと受け止めることができたのだろう。

こうして、いろんな意味で荒れに荒れた2日目が終了。
いよいよ残すところあと1日、最終日はどうなるのかが楽しみである。



本戦2日目、出会った最高なメタルヘッズ

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