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将棋で人を殺せるか?答えはYes! 極めて異質で強烈な将棋×喧嘩のバトルロワイヤルを刮目せよ『ハチワンダイバー』

【レビュアー/松山洋

将棋で人が殺せると思いますか?

ええ、あの盤と駒を使ってやるゲームの将棋のことです。

殺せるんですよ。将棋で。人を。

なんなら核ミサイルだって撃つんです。本当に物理的に撃つんですよ、核ミサイルを、将棋で。

いきなり何言ってるかわからないかもしれませんが、これ『ハチワンダイバー』という将棋漫画の話です。

実は将棋をテーマにした漫画作品というのは意外と少なくありません。

『月下の棋士』
『しおんの王』
『3月のライオン』
『りゅうおうのおしごと!』
『それでも歩は寄せてくる』
『将棋めし』
『リボーンの棋士』
『永世乙女の戦い方』
『或るアホウの一生』
『盤上の詰みと罰』
『ひらけ駒!』
『聖 -天才・羽生が恐れた男-』
『将棋の渡辺くん』
『紅葉の棋節』
『将棋指す獣』
『龍と苺』
『紅井さんは今日も詰んでる。』
『燃えろ!一歩』
『5五の龍』
『ふたりの太星』
『ものの歩』

ざっと並べただけでもこれだけの将棋漫画が存在します。

しかし、数ある将棋漫画の中でも極めて異質で強烈な存在感を打ち出したのが『ハチワンダイバー』なのです。

プロ棋士になることを諦めていた青年がふとした(メイドコスプレ美女棋士との)出会いから、世界征服を企む悪の組織「鬼将会」と将棋で闘うという物語なのですが。

「将棋で世界征服」って、出来ると思いますか?

たぶん、出来ます。少なくとも本作を読めば「あ、やるな、これ、世界征服出来るな」と思ってしまいます。それくらいのパワーと説得力というかハイテンションを超えた熱があるのです。

将棋を指すことで腕や内臓を失うことだってありますし、命を落としますし、核ミサイルだって(物理的に)飛んできます。

それが『ハチワンダイバー』です。

「自分で自分の愛する人間だけは…他の人間はいい 自分の愛する人間だけは最低限、絶対守るのがおまえのささやかな世界・・・・・・・ 平和だ その“威力”がなくてどうする 度を越した人間とは最後は肉弾戦だ 戦う時は闘うんだよ 奇声をあげながら 原始人のようにな」

これは『ハチワンダイバー』という作品の中で私が最も好きなキャラクターが主人公に発したセリフです。(『ハチワンダイバー』8巻より引用)

将棋を指すときに言ったセリフではありません。目の前の暴力に立ち向かうように主人公を諭す時のセリフです。そうなんです、本作は何もずっと将棋を指しているだけの漫画では無いのです。

結構な頻度で闘っています。肉弾戦です。ケンカです。というかほぼ殺し合いです。(殺し屋も出てきます)

将棋バトルの合間にケンカバトルをやっているような作品です。

だから、めっちゃ気軽に読めてサクサク進みます。ページに対するコマやセリフフォントが大きいという作風もあってか、単行本全35巻があっという間に読み終わります。テンション的には体感で15巻くらいの感覚です。

私自身、将棋のルールは知ってますしやったこともありますが、そんなに詳しいわけではありません。『穴熊』とかいう戦法の意味もわかりません。しかし、そんなことは一切関係なく何の前準備も必要なくただ『ハチワンダイバー』という作品のテンションに身をゆだねればいいのです。

本作を読み終わると「将棋がやりたくなる!」なんてことはきっと無いです。ただ胸が熱くなって不思議な充足感とハイテンションな気持ちだけがもらえます。

まだまだ落ち着かない世の中ですが、下を向きたくなるような気持ちになったら迷わず『ハチワンダイバー』を読みましょう!