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「ええっ、それも布石だったの!?」本編と全く関係のない物語がつながる快感に酔いしれよう!『金剛寺さんは面倒臭い』

恋をすると世界が鮮やかに色づき、輝きが増したりするーーあの幸福に包まれた感覚って本当に得難い体験ですよね…!!

いや、正直に申し上げましょう。恥ずかしながら、わたし、個人的にはそういう感覚を忘れ去って久しいのです。でも、確かにすごく多幸感ある体験だった。っていうのも、ある漫画を読み、そんな感覚が脳髄の底から蘇って来たのを感じたのです。

その漫画とは、とよ田みのる先生の『金剛寺さんは面倒臭い』です!!

いきなり宣言される両思い展開ッ!!

主人公の金剛寺さんは実に面倒な人です。どれくらい面倒かと言うと、道で破水してしまった妊婦を助けてもこんな感じ。

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『金剛寺さんは面倒臭い』(とよ田みのる/小学館)1巻より引用

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『金剛寺さんは面倒臭い』(とよ田みのる/小学館)1巻より引用

こんな面倒臭い金剛寺さんの様子を見て、地獄からやってきた鬼である同級生の樺山くんは、なぜか一直線に恋に落ちます。(そう。この世界は地獄と穴でつながっている世界なのです)

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『金剛寺さんは面倒臭い』(とよ田みのる/小学館)1巻より引用

よくあるパターンなら、「この樺山くんの想いは、金剛寺さんのハートに届くのでしょうか!?」とこの先の展開を隠します。しかし……、

1巻の表紙がこれなのだッ!!

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『金剛寺さんは面倒臭い』(とよ田みのる/小学館)1巻より引用

公式による清々しいまでのネタバレッ!!

そう!この物語は、二人が両思いになってから、どんどん幸せになっていく作品なんです!!

緻密の極み…!そう、物語の世界はすべて、つながっているッ!!

私はテレビ番組の制作をしているのですが、その昔、とある特番で「南アフリカの喜望峰から『この人を直接知っていますか?』と笑福亭鶴瓶さんの写真を見せ続けたら、一体何人で鶴瓶さん本人につながるか?」というコーナーを作ったことがあります。

なんと、たった8人でつながりました!それがこの『金剛寺さんは面倒臭い』とどう関係しているのかと申しますと、金剛寺さん流に表現すると……、

だがこれはッ 本編とは大きく関わりの無い物語であるッ!!!

そう。この作品では、この「本編とは大きく関わりの無い物語」が沢山出てきます。でも、それらは全て、つながっているのです……!

「本編」である金剛寺さんと樺山くんの恋。それを取り巻く全ての事象、すべての登場人物、すべての「本編とは大きく関わりの無い物語」が、二人の恋の影響を受け、つられて幸せな方向に動いていくのです!

特に見事だなと思うのは、多くのキャラクターたちの存在。ほとんどすべてのキャラクターが、一種の「伏線」となって再登場するのです。

メインキャラだけならまだ分かるのですが、例えばたまたま通りかかった疲れたおじさんとか、元音楽家のおばあちゃんとか、たまたま近くを飛んでいたカモメやカゲロウまで、ありとあらゆるものが伏線としてつながっているんです。もちろん、先程引用したページに登場する妊婦さんも再登場!

そして再登場時には、みんな金剛寺さんと樺山くんのパワー・オブ・ラブに少なからず影響を受け、どんどん幸せになっていくーー。

すごくないですか!?まさに緻密の極み…!そんなの読んだら、私だって影響を受けて、ページをめくるだけでどんどん幸せになっちゃうじゃないですか!!

計算され尽くした漫画独自の表現の連発ッ!!

この作品の緻密さは、その仕掛けだらけのコマ展開でも思う存分楽しむことができます。

例えばーー、2巻の第7話では、「恐ろしい話は枠外が黒のページに。可愛い話が枠外が白のページに。白や黒だけを読んでも物語が成立する」という仕掛けが。

3巻の第14話の仕掛けは、「1ページを上下2つに分け、上段では“最高”のストーリー、下段では“最悪”のストーリーがずっと続き、時に上下が交差し、一つの目頭が熱くなるような物語に昇華する」というものでした。

また、4巻と5巻に登場するカラーページがまた凄い!こんなに魂を感動で貫かれるようなカラーの使い方、見たことありません!!物語につられて、私が存在する、もともとカラーなはずの実世界の、彩度と明度がググっと上がるような感覚を覚えました。好きすぎて泣きます…!

緻密なコマ設計も、すごすぎるカラーの使い方も、未読の方には絶っっ対に初見でびっくりして頂きたいのでコマは引用しないのですが、私の拙い表現でこの凄さが伝わりますでしょうか!?伝われ!!頼む!!

漫画読みで良かった…とまで思える稀有な作品

とにもかくにも、この『金剛寺さんは面倒くさい』は、ラブとジーニアスの結晶としか言いようがない凄い作品。漫画独自の手法を駆使しまくって描かれる珠玉のラブストーリーで、一緒に幸せを噛み締めませんか…!?

WRITTEN by 上原 梓
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