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私に惚れた中国人



ある冬の日、InstagramにDMが来た。

「あなたの商品を買いたい。お店はどこにありますか?」

韓国人の男性からのLINEだった。
私は宿と雑貨店を経営しているのだが私のお店は山奥にあって
日本人でも車がないと辿り着けない。

「すみません、通販はしていなくて、海外の方が来るには車が必要です」

「タクシーで行きたいと思います」

「タクシーで来ると大変な金額になりますよ。お勧めしません」

「お金の心配はいりませんよ(笑)あなたのお店に行ってみたいんです」

やけに食い下がってくる。お店に来たいと言ってくれるのは嬉しい。
もうどうせなら我が宿のお客さんとしても泊まってもらえないだろうか。
ちょっと下心をいだきながらも質問に丁寧に答える。

「あなたのお店の商品はあなたが作っているのですか?」
「なんでそんな山奥でお店をしているのですか?」
「山の暮らしに興味があります、日本が好きです」

いつもは連絡にルーズな私だが、さすがにお客候補には丁寧に返信をする。
お金はあると言うし、売り上げになるかもしれない。
下心が出ないように、うまく宿泊へ誘導する方法を考えよう。

「あなたの話は面白いです。もっと知りたい。

 良かったらLINEを教えてくれませんか?」

大丈夫だろうか、と一瞬思いもしたが商売魂が譲らなかった。
減るものでもないしいいか、とLINEを教えた。
彼のアイコンは、若い韓国人男性が載っていて顔はよく見えない。
当時、韓国人に対して興味もなかった私は一つ一つの投稿に目を通すこともなく
とりあえず宿泊に誘導したいばかりに毎日来るLINEに返信をした。

すると徐々に、彼に対して違和感を感じ始めた。
自分は金持ちだと強調し、FXや株についても詳しいと言うくせに
韓国の企業についてはあまり知らない様子だ。
韓国語には「雑貨屋」という単語があるのに関わらず
翻訳したであろう日本語では「食料品店」と表示される。
違和感を覚えつつも1週間ほど連絡を取ってみたら
やたらとFXやビットコインについて話したがる。

私は金を増やすことには興味があるが
今はお前の金を引っ張りたいのだ。
つべこべ言わずに早く私の客になれ。
なんて、下心を隠しながら話を聞くだけ聞く。

徐々に好きだとか、会いたいだとか言ってくるようになった。
ドキっとしなくもないが、会いたいなら店に来いという邪な心が勝る私。
乗り気でない私に、彼はあの手この手でFXを勧めようとするが
私は私で、この男を客としては引っ張れそうにないなと感じ始め
丁重に丁重さを重ね、彼の提案を跳ね返した。
「私は輸入業だから倍以上が当たり前の世界で生きている。
 10%の利益に興味はない。他の人を誘ってください。」

彼は怒り出した。

「私の趣味を否定された。君と、共有したかっただけなのに」


彼からの連絡はこれを最後に途絶えた。
名前は「李 星陽」と名乗っていた。
一日中連絡を取り続けた彼が日々の中からいなくなり
昔はなんとも思わなかった連絡のない日々を寂しく感じた。

それでも私は彼の正体にはなんとなく気づいていた。
彼は、国際ロマンス詐欺師だ。
それも韓国人ではなく、おそらく中国人だろう。
彼のいない日々に戻ろう、大人になって珍しくできた友人は恋しいが
搾取をされることはさすがに勘弁である。私が搾取するならまだしも。


3日経った頃、またInstagramに違う韓国人から連絡が来た。


「あなたはとても美人です。お仕事は何をしているのですか?」

もう分かっている、これも国際ロマンス詐欺師だ。
分かっていながらも、日々の寂しさを埋めたい私はまたLINEを教えた。
今度はどうやって遊んでやろう。性欲でも刺激してやろうか。
こうして私は国際ロマンス詐欺師をからかって遊ぶ楽しさに目覚めていった。

今度は1ヶ月間、連絡が続いた。1ヶ月の間にたくさんの話をした。
彼は韓国人設定なのに、私が中国を好きだと言うと喜んだ。
「日本人は中国人のことが嫌いなのだと思っていた」と言う。
相手が中国人であることに気づいている私は、中国を褒めてやったりする。
彼らはマニュアル上、性的な話をしないように言われいるみたいだったが
男の本性が出てしまうのか、たまにそれらしいことに触れて来たりする。
それを拒否せず上回って表現してやれば、喜んでいるのが手に取るように分かった。
どこの国のどんな職業でも、男はやっぱり男なのである。なんと可愛らしいことか。

そしてやり取りをしていると分かってくるのだが、裏にいるのは同じ中国人だ。
1ヶ月が経った頃、またお金の話を持ち出してきた。
同じように断ると、今度は暴言を吐いて消えていった。

だけど分かっていた。また仮面を変えて戻ってくるのだろう。


1週間経たないくらいで、最初の「李 星陽」からメッセージが来た。

「あなたはやっぱり私の妻になるべきだ。」
「あなたとセックスがしたい。」

お前には性的な話はしていないのに、いきなりどうしたんだ。
役を混同してしまっているポンコツさに愛おしさすら感じる。
もう詐欺師の仮面と戦うのは飽きた。
どうせなら国際ロマンス詐欺師ご本人の話を聞いてみたい。

「あなたが国際ロマンス詐欺師であることをよく知っています。
 そのアイコンの写真の人が誰なのかも、私は知っている。
 私に用事があるなら、あなた自身として関わりなさい。
 私からお金を騙し取るのは無理ともう分かったでしょう?

 さあ、まだ私に用事がある?」


こうして、私に中国人国際ロマンス詐欺師のお友達ができた。








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