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過去のレコ評(2019-4)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「NO SLEEP TILL TOKYO」Miyavi

世界市場を主眼に作られたアルバムだ。奇を衒わない楽曲構築。世界の中での”TOKYO”というエキゾティズム。アクロバティックなギターテクニックの披露。これら3つは、簡単に言えば「わかりやすさ」だ。世界的なポップスの潮流に耳覚えがあり、かつ初めて彼を知る人が、すんなりと興味を持ち楽しめる音楽。それを親切な形で提示している。素直な楽曲構築が一番表れているのはコード進行。今の主流が、難しいコードではなくリズムと音像で楽しませるものである以上、和声の発明は不要だ。彼の場合は、得意の16ビート感が持つファンクネスを前面に打ち出すのが得策だという方針には、とても納得できるものがある。ただ、音像を豊かにする際のセオリーであるシンセの使い方には、やはりギタリストとしての矜持があるのだろう。そこには頼らないのが彼のスタイル。そのかわり、巧みなアーム使いでギミックを生み出している。トレードマークであるエレアコのスラップ奏法の魅力は、ライブ会場で会場の空気を揺らすのが一番伝わる。これらの曲がライブで輝くのが想像出来る。

「Boys」My hair is Bad

ドラムスとベースとギター、そして歌。100年前の人々が、彼ら=マイヘアの音を聴いたらどう思うだろう。最初は五月蝿いと思うだろう。そしてそれに慣れれば「よくぞこの3つの楽器でこれだけ派手な音像を成立させられるな」と感心するに違いない。そんなことを想像した。それくらい完成された楽器構成を、現代のミックス技術でここまでの音像に構築するのは簡単ではない。全部を出そうとすれば、結局全体像が損なわれてしまう。そのためにミックス段階で犠牲にしているのは何か。ひとつはベースのアタックにある上の方の周波数。この部分は、キックのアタックとギターのために場所を空けて譲っている。あとはボーカルの高周波数部分。この部分については、シンバル類とギターのために場所を空けている。歌詞の魅力については、6曲目の名曲「ホームタウン」の「ジャスコで撮ったプリクラ持ってくんなよ」に至る過程を聞いてもらえれば分かる。そして1曲目3分20秒のギターコードのねじれや、2曲目サビ前の突然の16分音符のキメに、歌詞だけではない彼ら魅力がある。

「天気の子」RADWIMPS

映画で歌もののポップスを使うというのは、かつては禁じ手だった。1960年代後半のアメリカンニューシネマにおいて、ポップスをそのまま劇中に流すという手法が市民権を得ることとなった。オーケストレーションによる壮大な世界観は無くなるが、登場人物の心情をそのまま伝えることが出来る。歌詞があることは、もちろんその理由のひとつだ。だが音として捉えれば、登場人物を代弁する「歌声」の存在が大きい。このサントラには5曲の歌ものが含まれる。RAD名義だから男声だと思ったら然にあらず。曲により女性ボーカルを用いるという大胆さ。これが今回の大きな発明だと言えるのではないか。そして、その英断を強いるほどに脚本が音楽に踏み入っているのだろう。インスト曲に関して言えば、ピアノの音が瑞々しいのは相変わらずだが、オルガンや木管の使い方が多彩になった印象がある。また25曲目「バイクチェイス」は、あくまでバンドスタイルの延長でありながら、歌メロの和声に捉われない遊びをしている。これらの挑戦が、次のアルバムに活きてくるのが楽しみだ。

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