「純粋経験」をテストするのは難しい

西田幾多郎は日本近代哲学における最重要人物の一人だ。日本で哲学を学習する上では避けて通れない一人である。

受験勉強的なキーワードは著書である『善の研究』と、その中で述べられている主客未分と純粋経験であろうか。(後は、「場の論理」と「絶対無」あたりを単語として知っておけば問題は解けるはず)

主客未分とは、主観と客観が一体となっている(=分かれていない)状態のことである。「我を忘れて絵を描く」という例で考えるとわかりやすいだろう。主観である我と、客観である「絵」は一体となっているということである。この経験が純粋経験と呼ばれるもので、「主客未分の純粋経験こそが真の実在である」というのが『善の研究』に書かれていると理解しておけば、高校の倫理の教科書の学習としては十分だろう。実際これでセンター試験(明日ですね)は解けてしまう。それどころか上記の理解もいらないかもしれない。

西田幾多郎の「純粋経験」の具体例として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
① コンサートに出かけたAさんは,長年憧れていた歌手の歌を今自分が生で聴いているのだと思い,改めて喜びをかみしめた。
② 数学の好きなBさんは,母親が用意してくれた夜食を食べることも忘れて,数学の問題を解くのに夢中になった。
③ 天才画家と呼ばれるCさんは,風景画の制作に没頭したが,それはあたかも風景の方が彼を突き動かして描かせているかのようだった。
④ 赤ん坊のDちゃんは,お腹が空いたのか甘えたかったのか分からないが,母親の胸に抱かれながら一心不乱に母乳を飲んでいた。
[2006年 センター試験本試より]

答えは①である。この選択肢だけが、主観(Aさん)と客観(長年憧れていた歌手)が分かれていて「主客未分」の状態になっていない。(個人的には④の表現から「主客未分」を読み取ることに若干の違和感を感じるのだが、「一心不乱」をヒントにしたり、正解選択肢と比較しても解答はできるだろう。)

でも、この問題ってただの国語クイズになってしまってないだろうか、と思う。問いかけが、
「西田幾多郎の「純粋経験」の具体例として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。」
じゃなくて、
「次の①〜④のうちから仲間外れを1つ選べ。」
でも同じように①と答えられちゃうんじゃないかな。

そうだとすると、ちょっと残念だなーと思う。「主客未分」という概念は特徴的な概念の一つで、主観と客観をバッチリ分けて考える西洋哲学に対をなす、日本哲学っぽさの重要なものだからだ。そんなとても大事な概念をきちんと理解しているか受験生に問おうとする立派な出題意図ととは裏腹に、それを知らなくても問題は解けてしまうというのはなんかなー、と感じてしまう。
出題の仕方が難しいんだというのはもちろん容易に推測できるのだけど…
センター試験の倫理の出題は、哲学の理解に多いに役立つと考えるので今後に期待したいです。

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