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「コミュニティナース×キャンプ」をコンサルテーション

 僕ら一般社団法人プラスケアでは、社会的処方や市民活動に関するコンサルテーション事業を行っています。

 料金は1万円/1時間なのですが、これを高いと思うか、安いと思うか・・・。

 今回コンサルテーションを行ったクライアントさんには、
「こんなに安く、1時間も話ができるなんて!」
という感想を頂きました。
 そこで、クライアントさんの許可をいただき、どういったコンサルテーションを行ったかについて、その一部をご紹介します。

コミュニティナース×キャンプ=唯一の価値

 今回、僕らにコンサルテーションをご依頼いただいたのは愛知県でキャンプ場を経営する西田悠一郎さん。

 しかし、西田さんはもともと看護師資格を持ち、保健師として行政で働いていた方。その後、「コミュニティナース」の考え方と出会い、地域での活動を行っていく中で「野遊びを通じて心や体の健康を守りたい」と考え、さらに「天候や体調などの課題について工夫しながら適応して、課題そのものも自分で管理して楽しむキャンプって最高に健康的だ!」と気づいたとのこと。

 そして、自らが子どものころに過ごした愛知県豊田市の御内地区のご近所さんに相談したところ、
「ここは65歳以上が60%。若い世代が入ってくれたらなあ」
「ゆうくんが帰ってきてくれるならうちの場所を使ってもいいよ」
 との声を頂き、川のそばにあった材木置き場を使わせてもらえることに。そして、2022年10月にコミュニティナースとしてキャンプ場を開設するに至った、とのこと。
 コミュニティナース×キャンプは、日本で初の試みであり、まずはその点を大きく押し出していけることは「先行者利益」を得られる価値があります。

コミュニティナースとは、職業や資格ではなく実践のあり方であり、「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得たコンセプトです。地域の人の暮らしの身近な存在として「毎日の嬉しいや楽しい」「心と体の健康と安心」をまちの人と一緒につくっていきます。

Green/Blue Social Prescribing

 そういった経緯でキャンプ場を経営することになった西田さんですが、ある出会いをきっかけに、取り組みの方針について再考することになりました。
 その方は、うつ病で前職を退職していた方だったのですが、キャンプ場の造成時にボランティアに夫婦で来てくれていました。最初は表情も乏しく来る日の間隔も空いていましたが、次第に口数が増え、近所の方とのコミュニケーションもするようになり、服薬なしででも1日作業できるようになっていったのだそうです。
「本人曰く、自然の中で体を動かしたりキャンプ場がどんどん形になっていく感じが良かったと話しています。この回復プロセスを持続可能な形で社会実装できないかと考えていたところで、西先生のYouTubeを見た次第です」
 と、西田さん。

 社会的処方の考え方の中に、Green/Blue Social Prescribing(GSP/BSP)というものがあります。あえて日本語に訳すなら「森と水辺の社会的処方」でしょうか。
 これは、コロナ禍において室内におけるサロンやサークル活動が制限された中、「室内でつながれないなら野外でつながればいいじゃないか」との発想で、森林や山でのトレッキングやキャンプ、また海や川での水遊びや釣りなどを通じて、「人と人」だけではなく「人と自然」のつながりを通じて、特にメンタル面での健康効果を高めよう、とする取り組みです。

 さらにGSP/BSPの興味深いところは、単に健康改善の効果を期待するだけではなく、「森林/水辺の環境の保全」についても期待されているところにあります。人間が快適に過ごそうと試みて土地を「都市化」していくプロセスは、森林や水辺といった自然環境を搾取し汚染する側面を少なからず抱えています。GSP/BSPによって、人が定期的に自然環境の中に介入していくことで改めて「人と自然との関係をつなぎなおす」効果・・・つまり、GSP/BSPは人に対する社会的処方のみならず環境保護に対する処方箋として機能することも期待されているのです。

コンサルテーションの実際

 そんなことから、
「キャンプ場で何をどのようにするのが良いか」
「集客やお金の流れについて」
「どういったことを発信していくべきか」
 などを伺いたいと、今回僕たちへコンサルテーションをご依頼いただきました。

 オンラインでの1時間の面談で様々なことをお話ししましたが、この記事ではその中から2点ご紹介します。

①Webサイトなどでの発信にストーリーを乗せた方がいい

 まず、この記事の前半でも書いてきたような、これまで西田さんがこのキャンプ場に関わってきた幼少期からの体験や、出会った方々とのエピソードたちが本当に素晴らしいのに、それがWebサイトに表現されていないのがもったいない!と僕は思いました。

 例えば「コンセプト」のタブを開くと、「自然と共存し地域とのつながりを重視」とありますが、ここについてもよくよく話を伺うと、この地域で子どものころから過ごされてきた西田さんのエピソードにつながったり、この地域で暮らし、材木置き場を貸してくれた地元の方々との交流の話につながっていったり、ワクワクするような話が盛りだくさん出てくるのです!

「人は、ストーリーでなければ物事を理解することが難しい」と、よく言われます。単に、情報だけが羅列されているのではなく、そこにどのようなキャラクターが関わっていて、どんなエピソードがあって、そしてこんな未来を語り合っているんだ・・・っていうストーリーがあるから「なるほど」って思うし、人の心も動かすのです。
 先ほどの、「キャンプ場に関わってうつが良くなっていった」方の話だって、本人の許可が得られるなら書いてほしい。そういった個々のエピソードがあるから「私も、あそこに関わってみたい」「私にもできることがあるかもしれない」と思ってもらえるようになるのではないか、と思います。

 僕は、そういったストーリーで活動をうまく見せているWebサイトとして「Naminications」をご紹介しました。

 Naminicationsは、認知症や脊髄損傷、脳性まひなどがある方であってもみんなでサーフィンを楽しみましょう!っていう活動なのですが、この説明だけを読んでも「ふーん」としか思わないかもしれません。
 しかし、このWebサイトを開いたら「Live a happy life」の文字とともに、Naminicationsを1枚で表現できる写真がドン!と示され、すぐに「わたしたちについて」のページへ案内されるようにUIが工夫されています。
 そしてその「わたしたちについて」のページではヴィジョンとミッションが短い言葉で語られ、その後にNaminicationsが生まれるまでのストーリーが続きます。その内容をみて感動した方々が、今では全国から湘南の海に集まってきているといいます。

 西田さんの取り組みにもせっかく感動するストーリーがたくさんあるのだから、それを表現しないのはもったいない!ってことです。

②地域活動への入口デザインはバランスが重要

 そしてもうひとつは、「地域活動への入口デザイン」の話です。
 西田さんのキャンプ場はコンセプトで「地域社会の絆を深めるキャンプ場」という文言を用いていますが、こちらもよくよく話を伺うと、例えばキャンプサイトの造成を地元の方と一緒に手伝ったり、キャンプ場周囲の整備を行ったりする中で近隣の方と交流したり、という内容があるのだといいます。そのお礼に、地元の方が「バーベキューで食べなさい」と、抱えきれないほどの野菜やキノコを持ってきてくれることもあるとか。
 これもまた、掘り下げていくと面白いエピソードがたくさんありそうなのですが、ここでは「どうやってその活動に参加してもらうか」を考えましょう。

 なぜ、地域活動に参加してもらうかが大切かといえば、それがGSP/BSPのひとつの形となりえるから。それはキャンプに訪れた方にも、地域に暮らす方々にとっても、キャンプ場のスタッフにとっても。自分たちにとって、この森、この川が「自分たちのもの」と思えるようなつながりができれば、それを通じて精神面でのウェルビーイングに良い効果をもたらすことが期待できます。でも、普通なら「わざわざキャンプに来てまで、何でボランティア活動に参加しないとならないんだよ」って思いますよね。キャンプサイトの受付で「地域の方と交流しませんか」と言われても陰キャの僕なんかは「いや、別にいいです」って反射的に断ってしまいそうです。つまり、GSP/BSPの入口に立つまでのハードルが高いのです。

 そこで僕からは「活動に参加すると、キャンプ場の利用料が100円割引になりますよ、とキャンペーンするのはどうでしょう」と提案してみました。例えば、キャンプ場の利用料が4100円なら4000円になるということです。

 では、なぜ100円か?
 500円とか1000円でも良いのではないか?
 ここにもちゃんと理由があります。

 それは
「100円が、このキャンプ場を利用する人たちにとって一番心地よいバランス感だから」

 100円割引だったら、「ヒマだしちょっと面白そうだし参加してみようかな」って、興味を引かれて参加する人が増える一方で、最初から完全に興味がない人なら心が動かない価格でしょう。
 一方で、これが500円とか1000円とかの割引だとしたら、「お金のために」参加する人たちが出てきます。そうなると、「地域社会へ参加してもらい、ウェルビーイングを高める」という目的からどんどん遠ざかっていくおそれがあります。
 それに、純粋に釣りやトレッキングを楽しみに来たお客さんにとっては、自分たちが地域活動に参加できないことでの不公平感があり、「あのキャンプ場に行くとボランティアさせられる」「ボランティアしないと割高」とかのレビューで荒れる原因にもなるでしょう。
 100円っていう少額で、ちょっと得したなってくらいで気軽に参加でき、キャンプ場の造営や地域交流を「意外と楽しいじゃん」って思ってもらえることが大事、ということです。

 こんな感じで、今回のコンサルテーションでは他にも、社会的処方を森や水辺で運用する上で大切なことをいくつかお伝えしました(そのさらに一部はマガジン購読者限定部分で)。
 社会的処方の運用や実践、また国内外の事例からの引用といった面において、僕ら一般社団法人プラスケアは日本最先端の知見量をもっていると自負しています。
 もし、皆さんの地域でも僕らにコンサルテーションをお願いしたいという方々がいらっしゃいましたら、お気軽にお声掛けください。
 今後ともよろしくお願いいたします。

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