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早期からの緩和ケア:最近の研究から見えてきたもの

本稿は、2022年2月11日に公開された「早期からの緩和ケア外来Web」に掲載されている文章を元に一部追記・改変をしたものである。

 早期緩和ケアは2010年のTemelらの報告により、そのQOLに与える効果と、また生存期間の延長が示唆されたことで世界的に注目を集めた。
 その後、Temel自身に加えて世界中(主に欧州・豪州)から早期緩和ケアのランダム化比較試験の結果が報告されたが、その結果は様々で、効果も一定していなかった。

 しかし、2017年にコクランレビューを含む2本のシステマティックレビューが公表され、「効果としてはわずかながらもQOLを向上させることが期待できる」とされた。またASCO(米国臨床腫瘍学会)などのガイドラインにおいても、早期緩和ケアの手段としての「腫瘍内科と緩和ケアの統合」を推奨することとなり、世界的には早期緩和ケアを何らかの形で取り入れていくことは標準治療のひとつと位置づけられた。
 また2019年に報告された、腫瘍内科と緩和ケアの統合に関するメタアナリシスではQOLの改善、症状の緩和、また生存期間の延長効果があるとも報告された。

  一方で、患者本人ではなくケア提供者(家族など)に対する早期緩和ケアの効果も研究されており、こちらは抑うつや不安など心理的症状の改善があったとする複数の報告がある。

 ただし、癌種や年齢、性別などによってその効果は変わるのではないかともされており、介入するのに適切な患者像を特定する研究が進められている。その流れの中で、最近では"Trigger"という用語も文献で用いられるようになっており、どのような状況・状態をトリガーとして専門的緩和ケアに紹介されるのがベストかを探る試みもされている。ただし、どのトリガーツールを用いるのが良いのかについてはエビデンスに乏しい。実臨床においては、マンパワーや施設資源の問題、また患者の通院負担などの問題から、患者全員を診断後すぐに早期緩和ケア外来に紹介することは現実的ではない。介入必要性が高い患者を同定し、早すぎず遅すぎない適切な時期を計っていくことが求められている。

 早期緩和ケアに関するランダム化比較試験の結果は、本サマリー執筆時点で2021年まで報告があるが、近年の報告では主要評価項目であるQOLを含め、その効果に有意差がつかないものが多い。それは腫瘍内科医自身が提供する基本的緩和ケアの質が向上したことによるのかもしれないし、ベストな介入方法が未だ一定しないことに原因があるのかもしれない。

 本邦においても、がん治療医の基本的緩和ケアの技術は高まってきており、地域や施設によっては早期緩和ケア外来をしなくても、十分な緩和ケアが提供できているであろう。しかし一方で、早期からの緩和ケアが必要とされる患者がいることも事実である。どういった患者背景や状況において専門的緩和ケアにつなげるのがベストなのか、まだまだエビデンスには乏しいものの、その受け皿となる外来は確保し、関係者各位が試行錯誤していくことが必要であり、その取り組みが患者や家族の人生を支えることにつながるのではないかと考えている。

(文献検索 Last UpDate 2022/1/15)


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