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「反サロ運動」とはいったい何だ?(デモ参加学生に訊く)

【参考記事】反サロ論考https://note.com/gaishun/n/n8f65c44d205f?sub_rt=share_pb

 2023年4月、東大駒場キャンパスのあちこちに以下のビラが掲示され、ちょっとした波紋を呼んだ。

 これを貼った主は興梠(こおろぎ)丈夫(https://twitter.com/BeefeverNight?s=20)と名乗る東大の一年生であるという。「社会の病院化」をかねてより問題視しており、このビラにも共感した私は早速彼にコンタクトを取った。4月の終わり頃である。彼は東大モラル研究会の「コロナ感染対策の放棄」言説を去年の段階で支持していたらしく、意気投合して話は大盛り上がり。やがて彼が「反サロ運動」という新しい社会運動に参加しているということを知った私は、改めてその詳細を話してもらう約束を取りつけた。以下は、つい先日(6/12)行われたインタビューを書き起こして少しの編集を加えたものである。

※反サロとは反・老人サロン医療福祉の略である。

主宰:お久しぶりです。モラル研の主宰です。

興梠:久しぶりですね。今日は反サロについて語るということで…

主宰:そうですね。Twitterなんか見てると、いわゆる「医クラ」(医療クラスタの略。Twitterで影響力を持つ医療系インフルエンサーのうち、主として医療従事者にとって都合の良い言説ばかりを唱える集団を揶揄して言う語)のツイートにいちいち「反サロに興味ありませんか?」みたいな返信がぶらさがっていて…それを見て私は「反サロ」なるものがあると知ったわけですが…。あなたはいつ頃からそういった「反サロ」的なものに興味を?

興梠:多分高校三年生の秋、2021年だと思います。

主宰:はぁ、なるほど。早いですね。そして4月のはじめの新宿のデモに参加する、と…

興梠:はい。

主宰:では「反サロ」とはそもそも何なのか? ということから語ってもらいましょうか。

興梠:そうですね。まず、狭義の反サロ運動というのは、高齢者サブスク医療と呼ばれるところの、つまり高齢者に過度に親切な医療業界のあり方を批判する運動なんです。たとえば医療費の窓口負担というのは、現役世代だと3割ですが、70歳以上だと2割、75歳以上だとたった1割です。残りは全部行政のカネで賄われるわけです。しかも、こうも自己負担が低いと、過剰な医療需要が喚起されます。これが現役世代へ重い負担をかけているのです。これは医療だけでなく、介護にも同じことが言えます。

主宰:広義の反サロというのがあるんですか。

興梠:少なくとも私の理解ではそうです。広義の反サロは、あるいは反サロ的な運動というのは、福祉国家に対する疑問提起とか、医師会や開業医の姿勢等に対する強い批判を含みます。いずれにせよ、高齢者サブスク医療と密接に関連していることは疑いようがないんですけれども。

主宰:これはいったい誰が言い始めた…?

興梠:私の知る限りだと、勉三さんというインフルエンサー(https://twitter.com/kidasangyo?s=20)、4月の新宿のデモにいらして、私も一言二言会話を交わしたのですが、彼が言い始めたと思われます。

主宰:あぁ、あの人ですか…彼のツイートはよく流れてきますが、頷けるものも多いですね。

興梠:はい。

主宰:あなたはデモに参加するなど、積極的に運動に参加しているようですが、そのキッカケというか、背景というか…はいかがでしょう。

興梠:これちょっと言うのを躊躇うんですが、実は私、小学生の頃から左翼嫌いでして。

主宰:早いですね。

興梠:というのも、2015年頃だったか、集団的自衛権の法案の可決云々で揉めていた時期…

主宰:ありましたね。SEALDsみたいな若手活動団体も出てきたりして。

興梠:そのときの左翼の振る舞いというのがキツくてですねぇ…反戦平和を唱えるわりに言葉が汚かったり、国会の採決の場で品のないアクションをやってみたり…最近の山本太郎みたいな…

主宰:私は山本太郎の例の行為については否定しきれませんが…当時大荒れ状態だったことは覚えています。で、嫌悪が湧いてきたと。

興梠:そうですね。それ以降右に一直線に走っていたわけです。そして第二のキッカケとしてコロナ禍、あれは私が高2のときでした。

主宰:はい。

興梠:当初は私もビビっていましたよ。ところがね、21年の夏、ワクチンを2回打ち、国民の8割が打ったというのにコロナ禍が終わらなかった。上の方では何かしらの方針変更があったのかもしれないが、僕らの生活のレベルではその時期を境に何かが劇的に変わった、ということがなかった。情勢の変化が見えてこない。

主宰:そうですね。あそこで「終了」を宣言できなかったのは、とんでもない話です。あのあたりからメディアでも政府や医師会、分科会に文句をつける人が増えた気がします。

興梠:えぇ。そうしてますます自由主義的な言説に傾倒していく…

主宰:堀江貴文的な方向ですよね。

興梠:堀江貴文的という言い方はちょっと首肯しかねますけど、まあ、だいたいそういう理解でいいです。そんな中で、大学入試が近づいてきて、共通テスト受験のために倫政(倫理、政治、経済)を学んでいたら、経済に興味を持っちゃって、というか持たざるを得ない状況に追い込まれまして(笑)。結局、社会保障費の問題というのに突き当たったわけです。

主宰:なるほど。否が応にも、という感じですね。

興梠:で、やがてTwitterに潜っているうちに、反自粛言説にも沢山触れて、反サロにも触れて…という感じですね。フリードマンを読み齧ったりもして(笑)

主宰:デモもその流れで参加したわけですね。

興梠:そうですね。あれは10人ほどでしたかね、新宿の駅前でプラカードを持って立ちっぱなしで。時折声を出して主張を届けるということをやりました。相馬さん(https://twitter.com/Tatskaia?s=20)という若い男性が中心となって。

主宰:反サロデモというのはいつ頃からやり始めたんですかね?

興梠:先ほど言った相馬さん、彼が去年の秋に開催したデモが反サロデモの最初だと言われていますね。11月とかそのあたりかな。

主宰:やはり新しい運動と言えそうですね。それでは今後の展開について思うところを…

興梠:Twitterと街頭での活動と地道なビラ撒きをして頑張っていくということになるのではないでしょうか。Twitterだと最近は東徹先生(精神科医)(https://twitter.com/higashi1979?s=20)がハッシュタグ運動をやったりして。

主宰:あれは私も見ました。「#薬剤師に処方権を」ですね。簡単に説明してもらえますか?

興梠:あの署名活動で求めていることの中心は、疑義照会の簡素化、リフィル処方箋の拡大、零売の拡大、そして一部の薬剤師に文字通り処方権を与えることです。

主宰:というと?

興梠:簡単に言うと、処方権というのは処方箋を出す権限のことです。これは日本では医師にしか認められていません。しかし、ほかの先進諸国では処方権を持つ薬剤師もたくさんいるのです。

主宰:しかし、どうもさっきのような口ぶりだと、一石を投じようとしているのは処方権にとどまらないようですね?ずいぶん込み入っているように見えます。一つずつ説明をしてもらえませんか。

興梠:疑義照会というのは、薬剤師が処方箋の内容を医師に問い合わせることです。薬剤師に処方権がない現状、処方箋に不審な点があった場合、薬剤師が彼らの裁量で処方箋の内容を変更するということはできず、いちいち医師に確認を取らなければなりません。これがいかに不毛であるかは想像に難くありませんよね?

主宰:えぇ。

興梠:そして、リフィル処方箋というのは、一定の期間内に複数回使用できる処方箋のことです。

主宰:普通処方箋を受け取るにはいちいち医師のもとに出向かねばならないですよね。そんな処方箋があるんですね。

興梠:ええ。この処方箋の利用をさらに促進しようというわけです。これは日本でもすでに導入されている制度ですが、利用があまり進んでいません。

主宰:なぜそれが重要なのですか?

興梠:まず患者の金銭的・時間的な負担軽減が促進されます。それに、開業医はリフィルにすると再診療がなくなり、金銭メリットがなくなります。現在は無診察診療で処方して再診療を行うことが多く、開業医の食いぶちの一つとなっているのですが、はっきり言って非常に問題です。

主宰:では、零売ってなんですか?

興梠:零売というのは、「医療用医薬品」を薬局で直接販売することです。「医療用医薬品」というのは、使用や販売にあたって医師や歯科医師の指導を仰がねばならない医薬品のことです。このうち医師の処方箋なしに使用することのできない「処方箋医薬品」に属さない種族の医療用医薬品、これがだいたい7000品目ほどありますが、これらについては処方箋がいらず、患者が直接買い求めることができ、零売が認められています。

主宰:具体的には零売を促進するというのはどういうことなのでしょうか?

興梠:まず大前提として、目下この零売が窮地に立たされているんです。簡単に言うと、法律上は何ら問題ない零売に、医師会がちゃちゃを入れてきたわけです。そのせいで現在零売の是非が厚生労働省の正式な部会で議論の俎上に上がっているのです。

主宰:なるほど。そうした動きに対抗する狙いもある?

興梠:そうだと思います。

主宰:しかし、なんでそんなに零売が重要なのですか?

興梠:零売で医療用医薬品を買った場合、保険適用はされませんので、全額自費で支払うことになりますが、同じ医薬品を処方箋付きで買い求めた場合、医師の診察を経由しなければならないので、社会にも患者自身にも余計なコストをかけてしまいます。しかも、実は零売薬局で医療用医薬品を買った場合も、処方箋付きの医薬品を買い求めた場合も、患者の自己負担額は大して変わらないことも多いんです。それで、零売の促進というのは、零売薬局の数を増やすとか、全国どの薬局でも零売を利用できるようにするというようなものだと僕は理解しています。

主宰:なるほど。そうすると全体的に医療の効率化や患者の負担軽減などが促進されるわけですね。

興梠:そういうことです。これは反サロ的主張の中ではマイルドな提案のように私には見えました。先ほども言ったように海外では取り入れられているし、日本でも昔から議論されているようなことです。

主宰:重要な論点となりそうですね。反サロというのは、別に高齢者医療にのみ焦点を当てているということでもない…?

興梠:少なくとも私は、高齢者と戦っているつもりはないですよ。主たる敵が「高齢者福祉」であることは疑いようがないですが。

主宰:そこはちょっと私と違うところですね。私はどうしても「若者が人口の力で高齢者に負けてしまう」という現状に苛立ちがあるので、子供へのサポートはむしろ応援したくなる。

興梠:まぁ、感情としては分かりますが、福祉国家路線からサッチャー的路線、つまり過剰な福祉を抑制する方向だったり、社会主義的傾向を是正して市場重視に舵を切れば、どうせ世代間格差なんか解消するだろうというのが僕の意見なんですよ。

主宰:その路線転換に際して、頼りになるものが、先ほども言っていましたがTwitter、街頭活動、ビラだと…。政治家はどうですか?

興梠:反サロを支援してくれそうな政治家というのは、色んな政党にちらほら潜んでいると思われますが、どうでしょうかね。反サロに好意的だった某地方議員はTwitterでの発信を取りやめさせられたと聞きますから。長い戦いになりそうです。

主宰:少し話を戻しますが、興梠さんは左翼の「活動家的」な側面を見て彼らを嫌悪したと言います。ところがあなたのやるデモ、街頭活動というのもこれも「活動家的」でしょう。そこについて気持ちの整理はついているんでしょうか。個人的に気になったもので。

興梠:そこは複雑なところですが…かつての自分が彼らに向けていたような白い目を、今度は自分が浴びる…甘んじて受け入れるしかありません。しかし声をかけてくれる人もいましてね。それは励みになるんです。先日も、土木作業員らしき人がやってきて応援してくれました。「社会保険料の事業者負担分がなくなってくれれば、もう一人雇えるのに…」と。ありがたいものです。

主宰:なるほど。今度のデモはいつになりますか?

興梠:今度は7/2(日)、場所は新宿ですね。朝の10時から13時くらいまで。僕も参加しますよ。

主宰:そうですか。応援しております。

興梠:ありがとうございます。頑張りますよ。東大にも賛同者というか、僕のもとに話を聞きに来る人も数人いるので、彼らにも参加してほしいんですが…まぁ期待だけしておく、という感じですかね。

主宰:それでは、お時間が来たようなので、これくらいで。本日はありがとうございました。

興梠:お疲れさまでした。


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