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#20 貸した本がプレゼントで返ってきた|とべちゃんの副音声

先日、人に貸していたらしい本が返ってきた。

「返す」と言われて貸していたことがわかった。いつ貸したのか、記憶がなく、何度か繰り返した転居のどこかで失くしてしまったのだと思っていた。

前回会ったタイイミングで「もういらない。あげる」と言ったから、私の中で決着がついていた。

でも、今回の再会で改めて「返す」と言われたものだから、仕方なく受け取ることにした。

そうして相手が袋から出してきた本は、ツルツルとした綺麗な表紙だった。

「実はこれは新しく買ったやつ」とのこと。

失くしたとか、汚したとか、そんな理由なんじゃないかと思った。「新しく買ってまで返さなくていいのに」と思う私の気持ちに気づいたように、相手は続けた。

「失くしたり、汚したわけではない。いや、正直ちょっと汚れたっていうのはある。ただ、そうじゃなくて、そもそもあれは俺のものだ」

「もう、10年一緒にいたんだ。本来の持ち主より、一緒に過ごした時間が圧倒的に長い。うちの本棚にずっといたんだよ。もう定位置が決まってる。表紙の汚れもなぜついたかわかる。だから、もう俺の持ち物だ。そもそも返すという概念が存在しない。だからこれはプレゼントだ」

そう言って、私が貸した本を、買いなおした新しい本に替えて、しおりのおまけをつけてプレゼントしてくれた。

10年という時間の長さに驚いた。貸しっぱなしだったこと、借りっぱなしだったことではなく、相手との関係性が10年になっていたことに。「私、この人と10年の仲なのか…」と不思議な気持ちになった。そう思ってから、相手の展開した謎の持論が笑えてきた。

私は私の本を返してもらったはずなんだけど、それは私の本ではなくて、新しい本のプレゼントだったのだ。そんなちょっと不思議な展開が、やりとりしていた本のストーリーに重なっていることもお互いに気付いて、また笑えた。