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機動戦士ガンダム 全話レビュー第31話「ザンジバル、追撃!」


あらすじ

 第13独立戦隊となったホワイトベースは、ティアンム艦隊の主力戦隊の2時間前に、囮としてジャブローから宇宙に向けて発進するよう命じられた。新たに、アウトロー的雰囲気の砲手兼パイロット、スレッガー・ロウ中尉が補充要員として加わり、さっそくブライトとの間で一悶着起こす。シャアは木馬を追撃するが、途中でこれが囮であることに気付く。しかし彼はそれを見越して木馬に先制攻撃をかける。

脚本/星山博之 演出/久野弘 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/安彦良和

コメント

 サイド7から避難民としてホワイトベースで大気圏に突入した少年少女たちは、連邦軍に編入され、今度は正規軍として大気圏を突破し宇宙へ上がることになる。第5話「大気圏突入」と、ネガとポジのような関係になっていることに気づく。追いかけてくるのがシャアというのも同じである。第5話では、大気圏突入までの4分で木馬を落とそうと攻撃してくるシャアだが、今回は大気圏を脱出した後、木馬を有効射程距離内に捉えるや否や攻撃しようというのである。第5話では、結果的にシャアの攻撃は失敗するものの、攻撃を受けたホワイトベースは目標とする進路から外れ、ジオンの勢力圏である北米へ降下してしまうことになる。シャアの罠にかかったわけだが、今回はどうなるのか。少年少女たちの船に突然参入してきた「大人の男」スレッガー中尉の動向とともに、見ていこう。

 21時にジャブローを発進するティアンム艦隊の「囮」として、2時間前の発進を命じられたホワイトベース。その狙いはソロモンだった。「ソロモンが落ちれば、国力のないジオンは必ず和平交渉を持ちかけてくる」という見通しを立てているのである。そのとき提督は政府高官の娘、ミライに、戦争が終われば婿さんを紹介する、などと余計なことを言い、彼女にフィアンセがいることをバラしてしまう。
 この一言に、なぜか不機嫌になるブライトに注目である。

ホワイトベース発進から2時間後、ジャブローを発進した
ティアンム艦隊はルナツーへ。そこからソロモンを叩くという作戦。
提督はミライにフィアンセがいることを口にする。
それを聞いてなぜか不機嫌そうに立ち去るブライト。

 そしてホワイトベースに戻ったところに現れるのが、スレッガー・ロウ中尉である。これまでホワイトベースにいなかったマッチョ系軽薄男子で、年齢について言及はないがどう見てもブライト・ノアより年上、20歳以上の「大人」である。彼がホワイトベースに配属された理由は明らかにされないが、民間人あがりの少年少女ばかりが乗った囮部隊に配属されたということは、どう考えても「左遷」か「厄介払い」だろう。彼はセイラに対して「あんた、男の人のことで悩んでいる相が出てるよ」と軽口を叩など、ようやくチームとしてまとまりが出てきたホワイトベースに波風を立て始める。

さっそくミライやセイラにちょっかいを出すスレッガー中尉。
ホワイトベースはジャブローから発進、
れを追ってシャアを乗せたザンジバルも大気圏を脱出する。

 一方のシャアはジャブロー攻撃に失敗し、ほぼ単身で撤退する憂き目に遭ったが、折りよく新型モビルアーマー・ビグロのテストに来ていたトクワン大尉の部隊に拾われたらしく、乗せてもらったザンジバルで早速偉そうに木馬追撃の指揮を執り始める。「キシリア殿はお怒りだったろうな」というシャアのセリフからは、報告を受けたキシリアからの救援があったことが伺える。

そんなザンジバルの動向に気づいたホワイトベースでは、ブライトが「コースこのまま、ポイントE3で加速する」とミライに航路を指示する。受けたミライが「はい、そうすれば、ホワイトベースはいかにも月へ向かうように見えるわね」と、即座にその狙いを理解して応答するところが実にいい。チームとしての熟練度がレベルアップした感が見えるからである。
 しかし、それに水を差すかのようにセイラは言葉を発する。

 シャアが出てくるわ。必ず、来る。

 なぜわかるんだ、とブライトに問われ、「ホワイトベースはあの人と因縁あるでしょ? 怖くない人、いて?」とはぐらかすように答えるセイラだが、ここで見ている側はつい、突っ込みたくなってしまう。いやいや、ベルファストからずーっと、シャア来てたやーん! と。ついでに29話のラストでアムロが指摘もしているのだが、それをセイラが改めて口にすることで次の展開へ移っていくあたり、やはりセイラはこの物語の狂言回しの役割を担っていると感じる。この一言で、見ている者は、宇宙に出たホワイトベースの「敵」が誰かを再認識するのである。

木馬追撃の作戦を伝えるシャア。
ホワイトベースでは、ブライトがミライに加速の指示をし
月へ行くように見せかける。
しかしセイラはつぶやく、シャアが出てくる、と。

 先行するホワイトベース、追うシャアのザンジバル、それぞれのブリッジでの駆け引きは今回の見所のひとつである。月に行くと見せかけた木馬の罠に気づいたシャアは、「我々が背中を見せれば、木馬が攻撃してくる。この機会に先制攻撃を仕掛けるしかない」と素早く決断を下す。

 対するホワイトベースは、アムロとセイラをGスカイ、Gブルイージーで出撃させるとともに、カイをガンキャノンで待機させる。第5話では、大気圏突入までの4分というタイムリミットの中での戦闘で、セイラから敵のザクが4機と伝えられ弱気になったところを「あなたなら、できるわ」と発破をかけられるアムロだったが、今回は逆に、宇宙での初出撃に際してセイラに「絶えず上昇するつもりで飛行してください」とアドバイスしている辺りも、成長ぶりが感じられて胸熱である。

木馬に嵌められたことを悟りつつ先制攻撃を決断するシャア。
トクワン大尉の新型モビルスーツ・ビグロが出撃
アムロはセイラに宇宙での戦い方をアドバイスする。

 しかしブリッジには今までにない緊張が漂っている。艦長であるブライトと、彼と同じ階級だが年上でヴェテランでもあるスレッガーとの間で、ある種主導権争いが起きていたのだ。主砲を任せるというブライトに対し、それならホワイトベースを180度回頭してくれ、と主張していた。このとき、後方のザンジバルからの攻撃で前のめりになったスレッガーは後ろからミライに抱きつくような形になり、それがブライトの不興を買ったのかもしれない。昭和のセクハラおじさんそのものという感じのスレッガーは、これをいいことにミライの体に触り続け、「今は無理だ」とブライトが言い放つ後ろで、ミライがその手を払いのけている演技の細かさが最高である。

ザンジバルに追撃されるホワイトベース。
主砲を任せるなら180度回頭しろ、とブリッジにまでやって来たスレッガーに、
ブライトは「指揮権は私にある」と一歩も譲らないが‥‥。

 ブライトはガンキャノンのカイをアムロとセイラの援護に出し、ガンタンクを発射口で砲台として使うよう指示すると、ミライに180度回頭を命じた。このときの「いいねえ、ブライト中尉、あんたはいい」というスレッガー中尉の反応は意味がとらえがたく、少々首を傾げたくなるところがあるが、スレッガーはこれまで、ジオン軍に背を向けたまま逃げ切ろうとする指揮官を多数見てきたということがあるのかもしれない。彼はブライトの指揮官としての資質を認め、こうして、辞令によってではなく自らの意志でその指揮下に入ったのである。

 相対することになったホワイトベースとザンジバルだが、シャアは「木馬にぶつかるつもりで突っ込め!うろうろ逃げるより当たらんものだ。私が保証する!」と無茶振りをする。
 その戦法に「シャアだ、こんな戦い方をするやつは、シャア以外にいないはずだ。セイラの言ったとおりだ、シャアが来たんだ」とブライトは驚愕する。その脳裏には、かつて北米で、ホワイトベースめがけて特攻してきたガウ攻撃空母の姿が浮かんでいたに違いない(第10話「ガルマ散る」)。もちろんあの時、シャアはガウの中にはいなかったし、ガウを特攻させたのはシャアではない。しかし思い出してほしい。ブライトが、そしてホワイトベースが明確に、敵方にシャアがいると認識した上で戦うのは、あの時以来であることを。

木馬にぶつかるつもりで突っ込め、と突撃を指示するシャア。
その戦い方にブライトは、シャアが来たんだ、と恐れ慄く。

 と同時に、こう思うのだ。最初にホワイトベースがシャアと遭遇したとき、戦いに勝って生き延びられたのは、連邦軍の最新鋭戦艦とモビルスーツの性能によるところが大きかった。しかし今回はそうではない。ホワイトベースはあのときの装備のまま、相手は最新のモビルアーマーを擁しての戦いで、彼らは敵を蹴散らしたのだ。シャアが来たのだ、とブライトが驚懼したのとは裏腹に、シャアこそが焦りを感じたのではなかったか。

 もう一つ、ここで印象的だったのは、ジャブローで期せずして再会したシャアとセイラが、敵陣に相手がいないかと互いに気にかけていることである。「この一言!」ではその部分を掘り下げてみたい。  

突っ込んでくるザンジバルを辛うじてかわし、
すれ違いざま砲撃戦を展開するホワイトベース。
アムロの助力で体勢を立て直したセイラはリックドム1機を撃墜。
アムロも失神というピンチを自力で脱してビグロを撃墜した。


この一言! アムロ、あのモビルアーマーのパイロット、どういう人だと思って?

 今回は、追ってくる敵が、あのシャアであるということをブライト以下ホワイトベースのクルーらが認識して恐れ慄く、というのがメインテーマになっている。もっとも、敵がシャアだと認識させるなら、シャアが赤いモビルスーツで出撃し、通常の3倍の速さで接近すればいい話なのだが、そういう安直さに向かわないところに、本作の味がある。今回はむしろ、そうした明確な根拠がないにもかかわらず、相手はシャアなんだ、とわかってしまうというところに、主眼があるように思われる。そこで重要な役割を果たしているのが、セイラという存在である。  

 アムロとともにGブルイージーで出撃したセイラだが、敵の巨大モビルアーマー・ビグロの爪に引っ掛けられてしまう。その体勢でも使えるビーム砲で撃破しようとするが、その瞬間「ま、まさかこのモビルアーマー、兄さんがパイロットだなんて・・・?」と躊躇し発砲できなかった。そして爪から放り出されてしまう。  

 パワーが上がらず落下を止められたいセイラ機に対して、スレスレでミサイルを発射して体勢を立て直させたアムロは、カイのガンキャノンが援護に出た隙に、ビグロを仕留めるためガンダムに換装しようとするが、そのときセイラはアムロに問いかけた。  

「アムロ、あのモビルアーマーのパイロット、どういう人だと思って?」
 
「え、なぜですか?」と唐突な質問に戸惑うアムロに、セイラは「ううん、いいのよ」 とだけ答えてその会話は終わる。
 だが、アムロには何か引っかかるものがあったはずだ。ホワイトベースに着艦したあと、そのことを問いただしたからだ。

「セイラさん、どうしてあんなことを‥‥さっき、モビルアーマーに誰が乗っているかって聞いたでしょ?」

セイラさん、どうしてあんなことを
セイラに質問の意味を問いただすアムロ。

 それに対してセイラは、「何か、手強い相手だったでしょう? それだけのことよ」とはぐらかすが、恐らくセイラがアムロにパイロットのことを聞いたのは、ジャブローで「シャアが帰ってきました」と報告したのが彼だったからで(第29話「ジャブローに散る」)、戦い方で相手がシャアかどうかを判別できるアムロになら、あのモビルアーマーに乗っているのがシャアかどうかもわかるに違いない、と思ったからにほかならない。

 一方のシャアも、ザンジバルでホワイトベースへ突っ込むよう命令を下したとき、敵艦に妹アルテイシア(=セイラ)が乗っていないかどうかを気にかけていた。セイラが、もしパイロットが兄さんだったら?と躊躇して撃てなかったように、シャアも、もしアルテイシアが乗っていたら、突っ込むことはしなかったかもしれない。実際に彼女はホワイトベースには乗っていなかったのだが、それはもちろん、軍を離れたことを意味しない。しかしそこで「聡明で、戦争を人一倍嫌っていたはずのアルテイシアが。再び宇宙戦艦に乗り込むなど、ありえんな」と正常化バイアスを働かせてしまうところに、シャアのある種の鈍感さが表現されている。

 ところで、本作の狂言回し(進行役的な役割のキャラクター)であるセイラが、「パイロットは誰なのか?」と敵である人物に目を向けさせようとしていることは、今回で描かれた一つのターニングポイントになるのではないかと思う。シャアとセイラが、互いを相手に戦いたくないと思っている。そして戦争終結という目的のためには、ジャブローの見立てではソロモン陥落とあるように、もやはシャアと戦って勝利することに大きな意味があるわけではないからだ。

 囮部隊として、シャアのザンジバルの目をくらませることに成功したホワイトベース。シャアが立ちはだかる壁ではないとすると、次に向かう壁は一体何なのだろうか? 

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
地球の上空、ソロモンへ向かう人工衛星軌道上周辺
<戦闘記録>
■地球連邦軍:ジャブローからティアンム艦隊を発進させるにあたって、2時間前にホワイトベースを囮として発進させ、月に向かうと見せかけてシャアのザンジバル部隊を引きつける。モビルアーマービグロ、リックドム1機撃墜。
■ジオン公国軍:ジャブローから撤退したシャアはザンジバルで木馬を追撃。実戦テスト中の新型モビルアーマー・ビグロでトクワン大尉が出撃、宇宙用にバーニアを強化したリックドム2機も出撃するが、ビグロとリックドム1機が撃墜される。シャアは木馬に特攻とも取れる攻撃を仕掛けるが、結果的に木馬の動きに目をくらまされ、本隊のティアンム艦隊の動向を見逃すことになる。


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