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機動戦士ガンダム 全話レビュー第42話 「宇宙要塞ア・バオア・クー」


あらすじ

 ギレンは最終決戦に向け演説する。一方の連邦軍は、総司令であるレビル将軍と多数の艦艇を失って大混乱に陥るが、ルザルを旗艦とし、残存戦力をまとめてア・バオア・クーに進攻してゆく。シャアは、「ガンダムを倒すためにはニュータイプの可能性のあるものを一人でも多く戦場へ投入する」というキシリアの方針にしたがい、ニュータイプ用の試作機ジオングに搭乗。打倒ガンダムに向けて、最後の決戦に臨む。

脚本/星山博之 演出/藤原良二 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/中村一夫

コメント

 とうとうここまで来た、という感のあるタイトルである。41話「光る宇宙」でニュータイプとして出会った少女、ララァとの激闘と精神の交感、そしてわかり合ったと思った直後に自らの手でその相手を撃ってしまうという悲劇を見せられ、最終回を目前にしながら、なんだかもう、戦いに勝ったとしてもこの先に何か喜びや感動があるのだろうか、という気持ちになっている。ララァと、戦場で相見えたアムロが「ひょっとして彼女の方へ寝返ってしまうのでは?」とハラハラしたのが初見時だったが、思い起こせばその後の展開、「もうアムロは最後に死んじゃうのかな、ララァも死んじゃって」と、胸が焼け焦げるような悲しみを抱きながら見たことを思い出す。
 しかしこの回はまさに、宇宙要塞ア・バオア・クーで繰り広げるドラマこそが、メインである。「父殺し」というキーワードから、そのドラマを紐解いていこう。

 前回のタイトル「光る宇宙」には二つの意味があり、その一つは、アムロとララァがニュータイプの邂逅し、交感したことにより見た、「新しい人類として命を得、結び合って子孫を増やし、人々が争うことなくわかり合って生きる新しい世界」という、可能性としての宇宙であった。そして今回、現に彼らの前で切り裂くような光を放った宇宙で起こったことが語られる。

 ギレン総帥は、レビル将軍率いる連邦軍の主力艦隊が集結したところを狙い、ゲルドルバ照準で最終兵器、ソーラレイを発射する。ちょうどそこには、レビル将軍との和平交渉を目論むデギン公王が戦艦グレートデギンで接近していた。キシリアは、グレートデギンの識別信号が、ゲルドルバの線上で確認されたという部下の報告を聞き、ある疑念を抱く。

グレートデギンはレビル艦隊の戦艦とともに、ソーラレイの光の中に消えた。
グレートデギンの識別信号が、ゲルドルバの線上で確認されたという
部下の報告を聞き、キシリアは疑念を抱く。
ソーラシステムを使ったらしいな、ソロモンのとき連邦が使ったやつだ、
パワーが段違いだけどね、と分析するアムロ。

 一方のギレン総帥は、連邦軍の主力艦隊の半数以上を一瞬のうちに撃滅したことで勝利を確信し、宇宙要塞ア・バオア・クーでの最終決戦に向け、兵士らを奮い立たせる熱弁を振るった。

兵士らを前に、熱弁をふるうギレン・ザビ。
その言葉から、ジオン国民を優良種とする選民思想が伺える。

 我が忠勇なるジオン軍兵士達よ。今や地球連邦軍艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた。この輝きこそ我らジオンの正義の証である。決定的打撃を受けた地球連邦軍にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。あえて言おう、カスである、と。
 それら軟弱の集団がこのア・バオア・クーを抜くことはできないと私は断言する。人類は、我ら選ばれた優良種たるジオン国国民に管理・運営されてはじめて永久に生き延びることができる。
 これ以上戦いつづけては人類そのものの危機である。地球連邦の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん、今こそ人類は明日の未来に向かって立たねばならぬ時である、と!

ホワイトベースでは、ミライが戦力不足を嘆いていた。

 これに対し、連邦軍は旗艦ルザルを中心に残存戦力を終結させていた。まだア・バオア・クー進攻を諦めていなかったのである。とはいえ、戦力が決定的に不足している状態で、総司令官の命も失われた。こちらもソーラーシステムを使えれば、と弱気になるブライトだが、そんな空気を察してアムロが言う。

でも、大丈夫だと思います。ア・バオア・クーの狙い所は、たしかに十字砲火の一番くるところですけど、一番もろいところだとも言えます。作戦は成功します。

 この言葉にブライトは「ニュータイプの勘か?」と皮肉っぽく応答するものの、アムロは素直に一言「はい!」と肯定する。
 しかしその後、セイラ、カイとアムロがともにエレベーターで顔を合わせたとき、アムロの本音が明かされる。

ニュータイプの勘、を武器に作戦は成功します、と断言し仲間を励ますアムロ。
だがあれ本当か? というカイには、未来のことがわかれば
苦労はしない、と本音を吐露する。
「逆立ちしたって、人間は神様にはなれない」と神妙なカイ。

カイ:アムロ、さっきお前の言ったこと、ほんとかよ
アムロ:嘘ですよ。ニュータイプになって未来のことがわかれば、苦労しません
セイラ:アムロに、ああでも言ってもらわなければ、みんな逃げ出しているわ。怖くてね
カイ:そりゃそうだな。逆立ちしたって、人間は神様にはなれないからな


 最終決戦を前にした両軍の様子が、対照的に描かれて非常に印象深い。ジオン軍では、リーダーたるギレン総帥が先導的な演説をし、その中で、その真の野望が明らかにされた。「人類は、我ら選ばれた優良種たるジオン国国民に管理・運営されてはじめて永久に生き延びることができる」というのが、それである。選ばれた優良種、それがギレンの考えるニュータイプであり、ジオン国民こそそうなのだ、という選民思想である。そして選ばれた民であるジオン国民こそが、人類を支配すべきだという戦争目的である。自らを「神」とする、といってもいい傲慢であろう。

 それに対して、ホワイトベースでは、まさに自らをニュータイプと認めざるを得ないアムロが、ブライトのいう「ニュータイプの勘」により、作戦は成功する、と断言して怖気付く仲間らを激励しているのである。しかしカイが思わず突っ込んだように、それはアムロがニュータイプには未来のことが見える、という皆の朧げな期待を察して演じた嘘であった。セイラの「アムロに、ああでも言ってもらわなければ」という言葉からは、まるで事前にそれを示し合わせたのかとも受け取れるが、それは穿ち過ぎだろう。そしてカイは言う。「逆立ちしたって、人間は神様にはなれないからな」。
 自らを「優良種」と言って憚らない者が神のごとく高ぶる一方で、ニュータイプと自他共に認める者は、自分が神であろうはずがない、と悟っているのである。

ギレンと合流したキシリアは、兄に父デギンの船について問いただし、
兄が父をソーラレイで殺害したことを確信する。
ジオングに乗ることになったシャアは、脚がついていないことを気にするが
「あんなの飾りです、偉い人にはそれがわからんのです」と整備兵に一蹴される。

 この最終決戦を前に、シャアはキシリアと共にいて、まるで脇に追いやられた感がある。ガンダムを倒すためにはニュータイプと思える者を投入せねばならぬ、というキシリアの信念により、彼にはジオングというサイコミュ機能を搭載したモビルスーツが与えられる。80%しか完成していない、というそのモビルスーツに脚がないことは、「あんなの飾りです、偉い人にはそれがわからんのです」という名もなき整備兵の一言で強烈に印象づけられる。

圧倒的じゃないか、我が軍は

 そうほくそ笑む、ラスボス感満載なギレンを前に、しかしキシリアは先ほど感じた疑念を問いただし、ギレンが自らの野望を実現するために仕掛けた「罠」を暴いてゆく。
 そして、それはガンダムで出撃し、ア・バオア・クーの中にいる「本当の敵」に気づくアムロの意識と、まるでシンクロするように進んでゆくのだ。

「圧倒的じゃないか、我が軍は」と勝利を確信するギレン総帥。
シャアは自分にサイコミュが使えるのかと不安を抱えつつジオングに搭乗する。
ホワイトベースが艦隊とともに進撃してくる。
モビルスーツ隊を率いて出撃したシャアのジオング。
たちどころに、連邦軍の戦艦を沈め
意気の上がるシャアだったが‥‥


この一言! 本当の敵は、あの中にいる。シャアじゃない!

 シャアをジオングで出撃させた、とギレンに報告するキシリアに対して、「またシャアか」「こだわりすぎるな」と一笑に付すギレンだったが、キシリアは言う。

キシリア:グレードデギン、どこに配備されたのです。ズム・シティですか
ギレン:沈んだよ、先行しすぎてな
キシリア:デギン公王から調達なさったので?
ギレン:歯がゆいな、キシリア。父がグレートデギンを手放すと思うのか?
キシリア:思いません
ギレン:では、そういうことだ


 この、言葉少ないやりとりから、キシリアは確信する。ギレンが父・デギンを殺したのだと。ソーラレイが照射されたゲルドルバ線上に、キシリアはグレードデギンの識別信号が確認されたという報告を受けていた。そのグレードデギンが、沈んだ。あの父が、グレードデギンを手放すはずがない。それが兄妹の共通認識である。ならば、沈んだグレードデギンには、父が搭乗していたということに他ならない。

 このやりとりがあった後、ア・バオア・クーのSフィールドに、新たな連邦の艦隊が出現する。これが、ホワイトベースを含む、連邦軍残存戦力の主力ともいえる艦隊であることは言うまでもない。シャアがジオングで出撃し、アムロもまたガンダムでア・バオア・クーを目指す。そのとき、キシリアは内心つぶやく。父殺しの男が‥‥、と。
 このときのキシリアの様子の変化が、実に興味深い。連邦軍の新部隊が出現に驚く声は妙に弾んでいるし、それをギレンに報告するときには「連邦もよくやります」などと付け加える。まるで、友軍が現れたかのようなはしゃぎようにさえ思える。恐らく、父であるデギン公王を、和平交渉に出かけたと知りながらレビル艦隊とともにソーラレイで焼き滅ぼしたギレンを、このとき連邦軍以上の「敵」と捉えたのだろう。

二丁拳銃ならぬ二丁バズーカで荒ぶるガンダム。
シャアはガンダムに圧倒されるが、
アムロは「本当の敵はあの中にいる、シャアじゃない」と、
ジオングを振り切りア・バオア・クーへ向かってゆく。

 このとき、シャアが出てきたことを認識したアムロも、また言う。

大物だ、シャアか?
しかし、今はア・バオア・クーに取りつくのが先だ!
本当の敵は、あの中にいる。シャアじゃない!


 このときアムロが言った「本当の敵」とは、誰なのか。アムロのような一介の兵士が、敵軍のトップの名を知る由もないだろうが、シャアではなく、その背後にいて軍を戦わせている何者か、を彼は感じていただろう。アムロが「あれは、憎しみの光だ」と表現した、ソーラレイの発する光の束で、父をも焼き殺し野望を実現しようとする者の存在を。

 そして、キシリアは立ち上がる。

キシリア:グレートデギンには父が乗っていた。その上で連邦軍とともに。なぜです?
ギレン:やむを得んだろう。タイミングずれの和平工作が何になるか
キシリア:死なすことはありませんでしたな、総帥
ギレン:冗談はよせ
キシリア:意外と、兄上も甘いようで


 そしてキシリアは兄であるギレン総帥を射殺した。

 では、アムロのいう「本当の敵」は、アムロがようやくア・バオア・クーにとりついたそのとき、もうすでに倒されていたのだろうか? 彼は、もういない敵を追いかけている、ということになりはしないか? 「シャアか、こちらを見つけたな」と、そのときアムロはその目をシャアに向ける。

見えるぞ、私にも敵が見える!

 と、シャアは言う。その敵とはすなわちガンダムに他ならないのだが、それは「本当の敵は、‥‥シャアじゃない!」と言い切ったアムロとは悲しいほどに食い違っていた。

「あのガンダムのパイロットは、今、確実に自分を追い込んでいる」
と焦るシャア。「本当の敵は、あの中にいる!」と、ア・バオア・クーへ進入していこうとするアムロ。しかし、憎しみの光を放った「敵」は父殺しの罪で、すでに射殺されている。

 対決の構図は、その中心軸に虚を抱えたまま、最終回へと雪崩れ込んでゆくのだ。

 ところで、キリシアは「父殺しの罪」でギレンを射殺したが、そのギレンは父デギンを殺し、デギンはシャア・アズナブル=キャスバルの父、ジオン・ダイクンを殺した。アムロもまた、殺されたわけではないが父を喪失している。この、失われた「父」は、何を象徴しているのだろうか。
 ここで、すぐに自分なりの答えを出すことはしないが、それもまた、本作が語りかける問いの一つではないだろうか。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
宇宙要塞ア・バオア・クーの周辺空域
<戦闘記録>
■地球連邦軍:ソーラレイの攻撃によりレビル将軍以下の主力部隊を失うが、残存戦力を終結してア・バオア・クーへ進攻。Sフィールドを突破し、アムロらモビルスーツ隊がへ取り付く。
■ジオン公国軍:宇宙要塞ア・バオア・クーで指揮をとるギレン総帥は最終決戦を前にアジ演説を行う。空母ドロスを突出させて防御する作戦は成功したかに見えたが、キシリアに父殺しの罪を問われ射殺されると、代わってキシリアが総指揮をとる。ジオングで出撃したシャアはガンダムを追うが、ジオングのパワーを発揮できないまま、徐々に追い詰められつつあった。





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