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機動戦士ガンダム 全話レビュー第21話「激闘は憎しみ深く」

あらすじ

 白兵戦に敗れ、自爆して果てたランバ・ラル。残されたハモンは、タチ中尉以下数名の部下たちとともに、WBに最後の戦いを挑もうとしていた。さきの戦闘で傷ついたWBは修理を急いでいた。しかし、白兵戦でリュウが負傷、アムロもブライトの命により再び独房に入れられたため、足りない人手がますます足りなくなり、艦内の雰囲気は最悪の状態になっていた。リュウはブライトとアムロとの間を取り成そうとするが…。

脚本/荒木芳久 演出/行田進 絵コンテ/行田進 作画監督/山崎和男

コメント

 地球連邦軍は、地球で最大の鉱物資源をおさえるマ・クベ大佐の本拠地を叩く「オデッサ作戦」を決行すべく着々と準備を進めており、ホワイトベースも参戦するため西へと向かっていた。だが、ランバ・ラル隊との死闘で足止めを食らい、満足に戦える状態ではなくなっている。問題は、それだけではなかった。

 ランバ・ラル隊との白兵戦でアムロを独房から出して戦わせ、ガンダム搭乗を命じたブライトだったが、戦いが終わると再び彼を独房に入れてしまう。脱走したアムロが戻ってこなければ、ランバ・ラル隊の最初の攻撃で敗れ去っていたかもしれない、結局独房から出して戦わせたことで、再びアムロが「自分がいなければ、ブライトは勝てない」と思わせてしまったと、ブライト自身が恐れたからだろう。

 しかしホワイトベースは満身創痍、ガンタンクやガンキャノンも動員して修理の真っ最中である。武器弾薬も底をつき始めている。ハヤトは思わず「早くアムロを…」と口にする。もはや独房に入れて「休ませて」いる状況ではないのだ。なぜ、ブライトはアムロをいつまでも独房に入れているのか。おそらくブライトは、アムロ抜きでは勝てなかった、という恐れを彼に見抜かれたくなかったのだろう。アムロが反省しているかどうか、が問題ではなく、ブライト自身のプライドの問題なのだ。
 その、指揮官としてのプライドが、次の悲劇を招く。指揮官を失った敵はまだ、諦めてはいなかったのだ。

残存兵力を集めて、ランバ・ラル隊の使命であるガルマ様の
仇討ちを果たそうとするハモンとタチ中尉。
その作戦は、敵のもっとも弱い1点に攻撃を集中させることだった。
ハモンは出撃にあたって、一人ひとりと握手し激励する。
修理中のホワイトベース。
重傷を負ったリュウは、見舞いにきた
フラウ・ボゥにアムロの処遇について尋ね、
また独房に入れられたと知ると、ブリッジへ赴きブライトに話しかける。

 ハモンの指揮下、残存兵力を集めたランバ・ラル隊は、ランバ・ラルの仇を討つべく次の攻撃の作戦を練っていた。武器は使い古したザクが2機とマゼラアタックの砲塔4問、それにサムソンが2機あるだけだ。だがランバ・ラル隊に与えられた「ガルマ様の仇討ち」という任務はまだ終わっていない。ランバ・ラルの息のかかった16名の兵士を前に、その目的を語るハモンは優秀である。ただ一つの目的のために、すべてを集中させているのだ。言葉の端々から、死を覚悟した者の意思がほどばしり、この先に起こることの予兆に、私たちは心が引き寄せられてゆく。

 ホワイトベース討伐を誓いながら、それを果たせずに散った指揮官。その仇を討つために愛する女が奮い立つ、というのは11話「イセリナ、恋のあと」と同じ構図である。書いている脚本家も同じだが、11話が幕間狂言的な位置付けに終わったのに対し、ここではホワイトベース最大のピンチが描かれることになる。タイトルも「激闘は憎しみ深く」である。だが、「ガルマ様の仇!」とアムロに銃口を向けたイセリナほどに、ハモンはアムロを憎んでいただろうか。ソドンの街で顔を合わせたとき、彼女はむしろアムロに好感を抱いた。そうであっても戦わねばならないところにも、悲劇がある。

 ホワイトベースで、確執を抱えたブライトを説得しようとしたのは、先の戦いで重傷を負ったリュウだった。彼はベッドを抜け出してブリッジへ赴くと、ブライトに対してアムロとのコミュニケーション不足を指摘する。そして、彼にいまだアムロの増長を恐れる気持ちがあると悟ると、今度はアムロの独房へ出向いてゆき、扉越しに彼に話しかけるのだった。

次の戦いに備えて睡眠を取るアムロ。
独房にやってきたリュウは扉ごしにアムロに話しかけ、
ブライトにまだ腹を立てているのかどうか確認するのだった。

 ランバ・ラル特攻の際には、独房の中でファイティングポーズを取るなどやる気満々だったアムロだが、今回は呑気に寝ているところが面白い。マチルダ中尉の夢?から察するに、「寝るのもパイロットの仕事」と言われたことを忠実に守っているのだ。ふて寝ではなく、次の戦いに備えた睡眠である。
 リュウはアムロに「おまえ、ブライトがまた独房に入れたことに腹を立てていないのか?」と問いかける。それに対して、アムロは「僕が? ブライトさんの処置わかります。怒ってなんかいません」と答えた。ではアムロはブライトさんの処置が「何だと」わかったのだろうか。第一義的には、自分が命令違反を犯したことを素直に受け止められるようになったことだ。しかしもう少し広い目で見て見ると、敵の部隊とその指揮官との人間関係を垣間見たことで、自分の立場を客観的に見られるようになった、ということではないだろうか。アムロは「自分を認めさせるゲーム」から降りたのだ。
 そんなアムロに、リュウは言う。アムロ、期待しているぞ、と。

ガンダンクがカイのガンキャノンを援護するため出撃するが、
シャフトが折れて動けなくなってしまう。
ホワイトベースはエンジン不調で浮上できず、
リュウのとりなしで独房から出たアムロはコアファイターで
「アムロ、行きまーす!」
病室のモニターで皆の会話を聞いたリュウは
いてもたってもいられず、バギーで戦場へ。
ホワイトベースからようやくガンダムのパーツが射出されるが、
カーゴがホワイトベースへ向かって来ていた。

 その直後に、敵襲がはじまる。第1、2、3エンジンの出力が上がらず離陸できないホワイトベース、ハヤトとジョブ・ジョンで出撃するものの整備不良でシャフトが折れ、動けなくなってしまうガンタンク。ブライトはリュウの進言をようやく聞き入れ、アムロを独房から出すものの、ガンダムは修理中でドッキングできていなかった。やむなくコアファイターで出たが、この一悶着の間に、敵は的確にその作戦を遂行し、目的を果たそうとしていた。(ちなみに、有名なアムロのセリフ「アムロ、行きまーす!」はこのコアファイターでの出撃のとき、ただ一回だけである)
 ようやくハワドがガンダム・パーツを発射し、ドッキングしてガンダムになったときにはザクが回り込んでホワイトベースを直接攻撃している状態で、狙撃できなくなっていた。そこへ、ハモンのカーゴが突進してくる。

「ん? 待てよ?これは特攻するつもりじゃないのか?」

ホワイトベースの直前でカーゴを抑え込むガンダム、
背後から襲ってきたザクを投げ飛ばして撃破する。
「さすが私が見込んだ坊やだけのことはある」
しかしハモンは自らマゼラトップをカーゴから浮上させて
ガンダムの背後に回り込み、
アムロは窮地に陥る。

 気づいたときには、もうアムロはガンダムで抑え込むしかなかった。しかしハモンはマゼラトップを浮上させ、ホワイトベースとカーゴの間に挟まる形になったガンダムに、その砲塔を突きつけたのである。
 ガンダムの背後を取ったマゼラトップにコアファイターが体当たりしたとき、アムロは誰が乗っていたのかを知らなかった。

アムロとホワイトベースの窮地を救ったのは、
重傷を押して戦場に出たリュウの体当たり攻撃だった。


この一言! 「人間にはな、言葉があるんだ」


11話「イセリナ、恋のあと」で描かれたのは、イセリナと父との相互不理解からはじまる「わかりあえない二人」の物語だった。ここでも、再びこのモチーフが浮上してくる。「アムロをガンダムから下ろす」というブライトの決断に端を発した確執が、とうとう、ホワイトベースの内部に悲劇を生んだのである。

 ブライトが、またアムロを独房に入れた、と聞いたリュウは、ブライトに直接話に行く。

 「出すわけにはいかんよ、俺たちが期待する態度を見せれば、あいつはまだまだ自惚れる」というのが、ブライトがリュウに話した理由だった。「野生の虎でも、檻に入れておけば自分の立場がわかってくる」というのだ。それに対して、リュウが返したのが、この一言である。

「人間にはな、言葉があるんだ…ブライトはアムロとゆっくり話し合ったことはないんだろ? それじゃあ、虎は大人しくはならん」

 人と人との相互不理解、わかりあえない二人の間にあるもの。それは相手に言葉を尽くして説明しない、そして相手の言葉に耳を貸さない、というごく単純なことから始まる。ブライトの場合、アムロをガンダムから下ろすと決めたときも、独房へ入れたときも、その理由を説明しなかった。むしろ言葉ではなく相手を懲らしめることで、気持ちを変えさせようとしていたように思える。なぜだろうか。アムロ降板のきっかけとなった命令違反によって、指揮官としてのプライドを傷つけられたからだ。そして、それを取り戻すためには、自分が指揮官であって、彼はそうでないということを「態度で」分からせる必要がある、と感じたのだろう。

 指揮官としてのプライド。それは「父の威厳」ともいうべきものである。アムロはそれを、脱走した際に出会ったランバ・ラルに感じ取ったが、ブライトには感じていなかった。仕方あるまい。ブライトとて、立場は艦長といえども、まだ19歳でしかない。アムロにとっては年上の鬱陶しい存在でしかなく、それをブライトもわかっているからこそ、なおのこと、自分の指揮官としての威厳を保つ方策を、取らざるをえなかったと思われる。

 だが、同時にブライトは、チームの声も聞かなかった。一人でも手が欲しい、という状況に追い込まれていたからである。全体を見渡す目を、彼のプライドが曇らせていたのだ。結果的に、それがリュウを「死」へと追いやることになる。

 リュウの死の衝撃が一人ひとりに伝わり、そして、そのときはじめて、ホワイトベース全員の心が、悲しみと後悔の念とでつながった。リュウが、彼らにとってなくてはならない存在だったからこそである。荒木氏の脚本回は不思議である。11話「イセリナ、恋のあと」、15話「ククルス、ドアンの島」そして今回の話と、ハモン隊の特攻以外は、本筋に絡まないエピソードではあるが、ラストに絡む、重要なテーマを示しているような気がする。リュウを失ったことで、皆がその心にあった言葉を伝えはじめ、心がつながる。本作のラストでは、このリュウの位置にアムロがいる。ガンダムが「アムロという少年が、成長していく物語」と言われる所以はここにある。

今回の戦場と戦闘記録

<今回の戦場> 
黒海沿岸のバルカン半島側
<戦闘記録>
■地球連邦軍:オデッサ作戦参戦のため西へ移動するもののエンジン不調で立ち往生、ランバ・ラル隊残党の急襲を受け窮地に陥るが、リュウの体当たり攻撃でピンチを脱する。リュウ・ホセイ戦死。
■ジオン公国軍:ハモンがランバ・ラルの意を継いで、ホワトベースに特攻を仕掛けるが、その意図を見抜いた相手の機転と命がけの防戦により失敗、全滅。

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