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機動戦士ガンダム 全話レビュー第38話「再会、シャアとセイラ」

あらすじ

 マ・クベのギャンを討ち取ったアムロは、シャアの新型MSゲルググの急襲を受け格闘戦になるが、試作段階のゲルググは本調子でなく、シャアは偽の爆発を起こして戦線を離脱、脱出を図った。一方ホワイトベースはらジオンのチベと対峙していたが、ワッケイン司令の艦が砲撃戦に入ったのをうけ援護に動く。その後アムロ救出のためテキサスコロニーに進入すると、オムル、ジョブ・ジョンとセイラがバギーに乗って探索に出るが‥‥

脚本/松崎健一 演出/藤原良二 絵コンテ/    作画監督/

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 ジャブローで潜入していた兄と鉢合わせとなり、言葉を交わして以来のシャアとセイラの再会回である。実は<サイド6>の宇宙港で、ホワイトベースの隣にシャアのザンジバルが入港してきたとき(第34話「宿命の出会い」)にも再会のチャンスはあった。だが、父を訪ねて出かけたアムロを待つ間のことであり、隣り合わせたジオン艦を見てハヤトが「許せない、リュウさんを殺した敵が目の前にいるんですよ」と騒ぎ立て外へ出ようとしたため、ブライトが外出禁止令を出したこともあり、セイラはホワイトベースの外に出て、シャアの姿を見ることはなかった。あのときは、アムロとシャア(そしてララァ)の出会いが中心となっていた。今回は、シャアとセイラである。いよいよ、話が動くのである。

誰かが自分を見ているような気配を感じるアムロ。
シャアはゲルググで、マ・クベのギャンの爆発から
ララァの身を守り、彼女をザンジバルに戻らせる。
ホワイトベースでは、アムロより対峙するマ・クベ艦隊の
動きを気にするブライトにフラウが憤慨していた。

 前回、テキサスコロニー内部でのマ・クベとの死闘を制したアムロだったが、コロニーの外側では、ホワイトベースがマ・クベ艦隊と、漂流物に身を隠して互いの位置を確認できないまま対峙していた。

攻撃を仕掛けるよう進言するウラガンの進言を却下する艦長。
アムロはもう1機の敵モビルスーツを見失っていた。
が、走るバギーを見つけ、その方向へと動き出す。
バギーを追うガンダムを後ろから攻撃するシャア。
だが、その射撃はことごとく外されシャアは驚愕する。
ビームライフルのエネルギーを使い果たしたアムロは
ビームサーベルで応戦しようと、敵の次の手を読む。

 一方、アムロはもう1機の赤いモビルスーツの行方を追っていた。シャアかもしれない、と警戒していたのである。シャアもまた、ガンダムを警戒していた。ガンダムのパイロットもまた、ニュータイプだと勘づいたからである。それを確かめようと、シャアはガンダムに後ろから、横から、そして前から攻撃を仕掛ける。正確なはずだ、とシャアが自信を持っている射撃をことごとく外したことで、彼は確信を強めた。そしてアムロもまた、自分の飛躍的に向上した能力に確信を持つに至るのだった。

シャア、読めたよ。

 そう言って、彼はシャアのゲルググの右手をビームサーベルで突き刺したので、ビームライフルがゲルググの手から離れてしまい、間一髪、ビームナギナタで応戦した。

上からシャアのゲルググに襲いかかるガンダム。
そのアムロの表情はなんだか邪悪さを帯びていたりして‥‥。
右手をやられたゲルググはビームライフルが使えなくなり、格闘戦になるが‥‥
アムロはガンダムの駆動系が自分の反応速度に
追いついていないことに苛立ちながらも
シャアを追い詰め、ついにゲルググの胴体に斬りかかった。
シャアは偽の爆発を起こしてアムロの目を欺こうとする。
シャアは偽の爆発を起こしてアムロの目を欺こうとする。

もう少し、早く反応してくれー!

 とここでアムロは叫ぶ。ガンダムの機体が、アムロの反応速度についていけなくなっているのだ。その隙にかろうじて逃れたシャアは、偽の爆発を起こして、ゲルググが撃墜されたように見せかけ、アムロをだまそうとした。

 こうして、ジャブローの地下で相見えて以来の、シャアとアムロの一対一の戦いは、シャアの逃げ切りで幕を閉じる。これを見る限り、新型モビルスーツで颯爽と登場したシャアを、アムロはもはや古びた感すらあるガンダムで圧倒していた。宇宙に出て連邦軍が形成を逆転しつつあるように、アムロもまた、シャアに対して形成を逆転しつつあるのである。

ワッケインのマゼランと、バロム大佐の重巡が交戦状態に入り、
救援のため動き出したマ・クベ艦隊。
ワッケイン艦救援のためホワイトベースも動き、
セイラも出撃。あっという間に艦隊を沈める。
そしてアムロ救出のためホワイトベースはテキサスコロニー内部へ。

 コロニーの外では、ホワイトベースと合流するはずのワッケイン司令のマゼランと、マ・クベ艦隊と合流する予定のバロム大佐の高速重巡が遭遇し、砲撃戦となる。ホワイトベース、マ・クベ艦隊がそれぞれ救援に向かい、Gファイターで単機出撃したセイラが、ここは快刀乱麻の活躍を見せ、マ・クベ艦隊はあっけなく敗れ去る。無事ワッケインの船はホワイトベースと接触を果たすが、ホワイトベースはガンダム救出のため、ワッケインのマゼランを外で待たせて、テキサスコロニー内部へ入っていくのだった。

たくましくなった、とホワイトベースを見送るワッケイン司令。
ホワイトベースからバギーで捜索隊が出た。
フラウ・ボゥに疲労の色が濃いためブライトが通信を受けることになる。

 こうして、今回はシャアとセイラが鉢合わせする状況が、徐々に作り上げられていくというわけである。タイトルにそれが予告されているだけに、否が応でもワクワクしてしまうのである。

 コロニー内に入ったホワイトベースからは、オムル、セイラ、ジョブが各自バギーで出てアムロの捜索に当たることになる。通信席にいるフラウ・ボゥが彼らの無線を受けるわけだが、疲れのせいか、うとうとと居眠りが止まらないフラウを下がらせ、艦長席でブライトが自ら無線を受けることにした。

 ここに、すべてのシチュエーションが整った。アムロを捜索するためにテキサスコロニー内を単独で行動するセイラが、そのときゲルググを降りて逃走を図っていたシャアと偶然出会い、そのときの会話(の一部)をブライトが聞いてしまう、というシチュエーションが。

 そして、ついに再会したシャアとセイラとの間で交わされた会話については、のちに詳しく見ることにして、ここでは、その後を追っておくことにしよう。

アムロを探すセイラのバギーの突然銃を突きつけ乗り込んできたシャア。
話し始めた会話をブライトは通信回線を通して聞いてしまう。
木馬を降りろ、という兄キャスバル。兄にザビ家復讐を
思いとどまらせたいが、その気持ちを受け止めてもらえないアルテイシア。
マスクをつけている理由を語り、妹を諭そうとするシャアだが、
最後に素顔を見せてくれと頼み、セイラはサンバイザーを開ける。
思い直して、というセイラの言葉に耳を貸すことなくシャアは走り去り、
セイラはその場で泣き崩れるのだった。

 別れ際、シャアはセイラにこう言い残していく。

 マスクをしているわけがわかるか。私は、過去を捨てたのだよ‥‥
 アルテイシア。その素顔をもう一度見せてくれないか。
 思い直してください。兄さん。
 きれいだよ、アルテイシア。お前に戦争は似合わん。木馬を降りろよ。
 兄さん。キャスバル兄さん‥‥、キャスバル兄さん‥‥

 「きれいだよ、アルテイシア」。その言葉こそ、兄としての精一杯の愛情をこめた一言だっただろう。自分が素顔を隠してジオンにいて感じる孤独を、セイラも木馬の中で感じているに違いないとわかるからだ。その悲しい素顔を見せられるのは、兄である自分しかいないことも。しかし彼は自分のマスクは外さないまま。背を向けて去ってゆく。そのとき、どんな思いがシャアに去来していたのか、私たちは知る縁もない。

出港時に謎の物体を回収するオムル。
ホワイトベースが港を出たとき、すでにワッケインのマゼランは撃沈されていた。
兄から送られた金塊入りのトランクに貼り付けられていた
手紙を読み、セイラはベッドに突っ伏して泣いた。

 ザンジバルがテキサスコロニーの反対側の港から出る動きをキャッチしたワッケインは、それをブライトに伝え、急いで救援に向かうため、ホワイトベースはガンペリーを出してガンダムを回収しようとしていたのを中止し、直接ガンダムとバギー隊を回収する。しかし、港を出たところで、飛んできた謎の物体の回収に手間取り、マゼラン救援に駆けつけたときには、すでにマゼランは撃沈された後だった。

 回収された物体をめぐって、ブライトはセイラから衝撃の事実を知らされ、兄の手紙を握りしめて泣き崩れるセイラの姿で、この回は幕を閉じる。しかし戦争によって引き裂かれた兄妹の悲しい別れに涙しながら、私たちの頭の中には巨大な「?」が浮かんでくるのだ。ねえ、ニュータイプって、何?

シャアとセイラの隠された過去。暴露された秘密とは‥‥

 ではここで、再会したシャアとセイラとの間で交わされた会話から明かされた、二人の過去、そして謎のワード「ニュータイプ」について、紐解いてみよう。

(1)互いに、思いが通じ合わない兄妹
 前回、ジャブローで顔を合わせたとき、シャアは妹アルテイシアに「軍を抜けろ」と言っていたのに、まだ軍にいるどころか軍曹になっていることにシャアは驚き、セイラはジオン軍に入ってまでザビ家に復讐するとは、やることが筋違いだと非難する。互いに、思いがすれ違っている二人である。

(2)父、ジオン・ダイクンの建国の意図と死の真相

 ジンバ・ラルという二人の世話係の言葉で、二人の父ジオンの秘密が語られる。まず、なぜジオン共和国を作ったか。それは「ニュータイプとして再生する人類全体の未来を考えてのこと」だという。次に、父の死の真相について。急な病に倒れ、臨終を迎えた際にデギン公を指差し、それをデギンは「時期首相に指名された」というが、真の意味は「彼が暗殺者だ」と知らせるためだった、という。

(3)二人が偽名で生きてきたわけ

 父ジオンは実は病死でなく暗殺されたのだ。だから、父の味方が次々に倒され、身の安全を図るため、その子であるキャスバルとアルテイシアは嘘の名前を名乗り、地球に隠れ住んだのだという。ちなみに、その「嘘の名前」がセイラ・マスであるが、キャスバルの偽名(エドワウ・マス)はテレビ版では明らかにされていない。

(4)現時点でのシャアの考え
 シャアがジオンに入国し、士官学校に進んだのはザビ家に近づきたかったからだ、という。開戦前の話だから、士官学校に入ればザビ家に近づける、というのは三男ガルマがそうだったからであろう。そして、それはとりもなおさず、すでに<サイド3>で軍部独裁が始まっていたことを示している。しかし、シャアは「ザビ家が連邦を倒すだけでは、人類の真の平和は得られないと悟った」という。その理由が、ニュータイプだった。

(5)ニュータイプとは?
 セイラは、アムロがニュータイプだから?と兄に問いかける。彼女によれば、「ニュータイプは人類全体が変わるべき理想のタイプ」だというのだが、アムロがニュータイプだというなら、「アムロが理想のタイプ」というのだろうか? 確かにアムロは、なんか異常に強くなって先が読めたりしてるみたいだが、それが人類の理想のタイプとは思えないのだが‥‥

 そして、会話は振り出しに戻る。シャアはセイラに、再び木馬を降りるように告げ、そのために金塊まで用意してくれるという。しかしセイラは、それに対して何の応答もしなかった。

 これらの会話と暴露された秘密を踏まえて、「この一言!」へと進んでいきたい。

この一言! ララァ、私にも悲しいことはあるのだよ。聞かないでくれるか。

 泣き崩れるセイラを後に、ザンジバルの待つ港へ戻ってきたシャア。そのただならぬ様子を感じ取ったララァはいう。

 大佐、テキサスで何があったのです。
 ララァ、私にも悲しいことはあるのだよ。
 聞かないでくれるか。
 わかります。

 この会話の「私にも悲しいことはあるのだよ」という一言が、とても印象的なのである。シャアがはじめて、仮面の下に隠された素顔と本音を見せた気がするからである。
 では、シャアにとって一体何が「悲しいこと」だったのだろうか。それは、ララァが「わかります」と応えたようには、血を分けた妹アルテイシアは応えてくれなかった、ということに尽きるのではないか。自分の成そうとしていることを、一番理解してほしいと願う妹に。

 まず第一に、前に軍を抜けろと言ったのに、そうしてくれていなかった、ということがある。次に、ザビ家への復讐だけが目的ではない、ニュータイプの発生が現実となったから、と言ったときのセイラの反応である。彼女は「アムロがニュータイプだから?」と即座に返した。この時点で、シャアはアムロとは面識があるが、彼がガンダムのパイロットだとは知らないはずだ。だが、セイラの言葉で、ガンダムに乗っているのがアムロだと分かっただろう。そしてアムロがニュータイプだという見方だけは、兄妹で一致しているのだが、そのことも、シャアにとっては悲しかったかもしれない。ニュータイプが敵にいるのであり、そのことを妹もわかっている、ということが。セイラの「ニュータイプを敵にする必要はないはず」という言葉にある説得力を、シャアは受け入れることができないのだから。なぜなら、ニュータイプであるアムロを敵にする必要がなかった、ということは、偽名を使ってジオンに入国し、ここまで歩んできた彼の生き方そのものが否定されていることになってしまうからである。

 しかし、それにも増して悲しかったのは、そんな妹が美しい女性に成長し、なおかつ自分の意志で自分に敵対し続けている、ということだろう。本当は、唯一の肉親で、心に抱いた憎しみを一番よく理解してくれるはずの妹が、自分のしていることを何一つ認めていない、ということなのだから。そうであるなら、こう言うしかない。「私は、過去を捨てたのだよ」と。父の語った理想の「ニュータイプ」を知りながら、互いは心を頑なにしてわかり合おうとしない。それほど悲しいことが、あるだろうか。

 シャアは約束通り、セイラに金塊を送り、約束を果たすようにと念を押す。それは危険な戦場にいてほしくない、という兄としての愛情の証なのだろうが、セイラにとっては、過去を捨てた、という兄からの手切れ金のように感じただろう。戦場から遠ざかってほしい、というのが兄の愛ならば、そこから立ち去らずにいるのが、妹の愛なのだ。そこにあるのは、本作でたびたび描かれるモチーフの一つである「わかりあえない2人」であり、悲しいまでの相互不理解であった。


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