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全力☆ランナーを考える

昔、別のnoteで書いたことがあるフレーズなのですが、「複雑に絡み合っているけど、絡み合っているというより編まれているように綺麗」という言葉を我ながら気に入っています。
ちょっとバラバラすぎた感じがしたRebootのユニゾンが、中吉の音源ではまさにその言葉の通り、色も太さも異なる糸が綺麗に編まれ、一本の美しい毛糸となった歌声がイヤホンを通して鼓膜を震わせる感覚。そして、これがエビ中だという確信。

今となっては珍しい、サビが全てユニゾンの曲である「全力☆ランナー」ですが、何があってもそれは崩してほしくないと強く感じます。エビ中のユニゾンって、9人なら尚更、ひとりひとりの声が判別できるようでできなくて、でも合唱というほどの厚さ(暑苦しさ?)ではなく、もはや「エビ中」というもう1人のメンバーが歌っているような。単に声を重ねている訳ではなく、十二分に音楽として成り立たせていますよね。

ソロパートに目を(耳を)向けてみます。歌い出しの「地下鉄出口の階段を制服スカート駆け上がる」。アイドル曲としてこれ以上ない歌詞すぎて。
制服だから学生。電車通学しているのかな。スカートを履いているのに走っている(それも後ろから中が見えてしまいやすい階段を)んだからきっと大層な理由があるのでしょう。とにかく想像力を掻き立てながら、画があまりにもイメージしやすい歌詞。杉山勝彦さんなだけあって乃木坂感がありますね。
それを風見和香が歌うという、完璧すぎる歌い出し。2022年春ツアーは稲妻が走りました。

女子高生に限らず、中高生の強さと出自不明の絶対的自信って、青春においてとても大きな要素だと思うんです。「JKでいられる時間なんて少ししかないんだから!」という理由で青春を謳歌しているわけではない。たった今、自分だけが青春を感じている。根拠はないけど、なんかそんな気がする、という自信。そんな自信が、好きという気持ちを内に留めておくわけにはいかないと叫んでいる。
無理矢理ひと言にまとめてしまえば「楽しいから」なのでしょうが、それ以前に言語化すること自体に無理があるような感じがします。「ワケならあるのよ 誰にも言えないだけ 話したくないだけなの」という歌詞は、確実に胸の内には理由があるんだけれど、そもそもその正体は自分にも分からないから話せない、というイメージ。

逆に、走ることが感情表現なのかな。
言葉では表現できないけど、感情は外に出さなきゃ爆発してしまう。だから走る。誰かに見てほしいわけじゃない。

「好き!」

そう言葉にできたら、どれだけ幸せか。だけどこうやって走っている瞬間もヒロインは青春を謳歌して、幸福を感じているはずです。結ばれなくても、その心の疼きが嬉しいんです。冷たい風が当たって痛む耳も、徐々に強くなる息の音も、上がってくる心拍も、全てが幸せの鐘の音。まぁ、結ばれるに越したことはないんだけど。

暗くなっていく空。セーターを入れてパンパンになったカバンを肩にかけて、とっくに息が上がっているのに走り続けるヒロイン。たぶん、好きな子とはさっき学校で会ったんですよ?それでも走る。会いたいくて、声が聞きたくて。

とにかく真っ直ぐな歌詞が余計に刺さります。七色に編まれた美しい毛糸が、ヒロインの心の中をそっくりそのまま投げかけてきます。

ここまで読んでもらってなんですが特にオチは考えていなくて。笑
なので書いていて感じたことをひとつ。全力で走り続けるヒロインは、青春の終わりから逃げているようにも感じました。「ドキドキが作る檻の中 閉じ込められたらやーよ」という歌詞。檻に閉じ込められるということは閉じ込める人がいるはず。それが「青春の終わり」。青春が終わって、社会という檻に閉じ込められちゃったら、この幸福が感じられなくなるかもしれない。そこから逃げるちょっと悲しい歌にも聞こえた4月上旬でした。

「水鳥が2羽仲良く飛んでゆくの見てるだけで なんだか焦っちゃうよ」

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