がん治療で抗がん剤を使うと免疫力が下がるのは、よくある副作用です。人の多いところに行かないとか、怪我をしないように生活をするとか、ナマモノを食べてはいけないとか生活の様々な場面で気をつけるように主治医からも注意されました。

しかし、食べ物に鍵って言うなら抗がん剤を使っている時には、味覚障害と吐き気があるので食べられないものばかりになっていました。一時期は、具の入っていないサッポロ一番塩ラーメンを毎日食べていましたし、一時期はカップ焼きそばUFOの日々もありました。
ですから、ナマモノを食べてはいけないどころの話ではなかったのです。

抗がん剤治療が終わり手術をし、放射線治療と同時にホルモン療法レトロゾールと分子標的薬ベージニオによる再発予防が始まりました。
抗がん剤による手足の痺れもだいぶ薄くなり、杖も使わなくなり、1人で外出できるようになり、吐き気や味覚障害も減って・・・と、明らかに体も動くようになり食欲も戻ってきました。

抗がん剤治療を開始した10月から我慢していたものがたくさんあり、抗がん剤治療が終わったら「あれも食べたい、これも食べたい」と食いしん坊な私の頭の中は食べ物のことでいっぱいになっていました。
特に刺身やお寿司などのナマモノとか、肉汁滴るステーキとか、焼肉とか、憧れになっていました。

それなのに！！😱

スーパーマーケットの売り場に行くと、魚を見ても気持ち悪い、生肉見ても気持ち悪い。全然、美味しそうと思えないのです。
元々、胃腸の丈夫な私。好き嫌いもなく、何でも食べる自信があったのに。まさか、私がこんな繊細さを持ち合わせるとは！

驚きと同時に、肉や魚の好き嫌いの多い姉の気持ちが少しわかるようになったのです。本当に自分が身をもって体験して初めて、好き嫌いや何でもは食べられない人の気持ちや言葉の奥で起こる体の反応を知ることができました。

これは本当に、嬉しくも有難い体験でした。いつも近くにいて、一緒に旅行に行ったりしていた姉のことを多少は理解できたのですから。この治療を体験して良かった。そう思いました。

そして、そんな日々が続くこと10日。
乳腺外科の診察の日になりました。診察の前に血液検査をして、白血球の値を確認します。すると、数値の隣にLが２つついていて、「ちょっと下がり過ぎている」と主治医から言われました。

「免疫力が落ちているから、人混みとかはできるだけ行かない方がいいでしょう。ナマモノは食べても大丈夫。そこまでではないです」
私の主治医は、いつも具体的で私の頭で理解できるお話をしてくれます。
「ああ、免疫力が落ちているから、ナマモノを見ても美味しそうって思えなかったんですね」
そう呟くと「そういうこともあるかもしれないね」。主治医が頷いてくれました。

休薬2週間と、緊急で注射を１本。
注射は即効性がある薬だと説明してくださったのですが、その日からもまだまだナマモノを見たくない日々は続きました。