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(超リアル体験談)MBAで得られたもの

こんにちは。今日はMBAで何が得られたのかについて、執筆陣から集めた超リアルな体験談をできるだけ体系化してご紹介したいと思います。

1. 授業

よく言われる話ですが、授業の質は日本の大学に比べてとても高いです。しかしながら、この点についてはトリックというかトラップのようなものが潜んでいます。
大前提として、日本の学部課程、海外の学部課程、日本の専門職大学院、海外の専門職大学院、では、それぞれにあまりに大きな違いがあり過ぎます。

学部課程について

日本の学部課程については、「入学するのは簡単だが卒業するのは難しい」といった完全なデマが流布しています。日本は、ペーパーテストの難易度について言えば、ハーバードやオックスフォードと比較にならないほど難しいです。一例ですが、数学なんかは日本の高校1年生レベルでこれらの大学に入学できる場合が大半です。もちろん、海外の学部課程への出願時にはペーパーテスト以外のマテリアル、たとえばエッセイや推薦状、課外活動などが総合的に必要とされるので、単純な比較はできません。
しかしながら、単純な比較ができないことを前提にすると、海外学部課程の入学審査がより総合的・包括的に評価を行うという理由だけで、日本のペーパーテスト偏重の大学入試より難易度が高い、と評価するのは論理的に誤りです。あくまで求められるものの違いであって、総合的な難易度は、繰り返しですが、単純には比較できません。少なくとも傍目には日本の受験戦争の方がハーバードやオックスブリッジといった海外最難関校の出願プロセスよりも遥かにストレスフルであるように見受けられます。これが難易度に直結していると判断するかは別問題ですし、このストレスが健全かどうかは要議論なのですが…
さて、日本の学部課程については、単位認定が海外大学に比べて甘い傾向があることは事実かと思われます。しかしながら、東大をはじめとする日本のトップ大学では、文系は国家試験(司法試験、国家公務員試験、公認会計士試験など)の対策で、学部在学中から実務家としての基礎能力を徹底的に鍛えることを余儀なくされます。つまり、研究者養成を目標に置いた大学の講義はほどほどに手を抜いて、ハーバードやオックスブリッジの学生に全く引けを取らないほど勉強しているのです。
東大法学部の学生は1/3が法曹、1/3が国家公務員、1/3が民間就職と言われますが、前二者は大東大受験時より遥かに勉強せざるを得ません(東大本郷の総合図書館では六法全書に齧り付く法学部生が毎日何百人といます)。
契約社会たる米国では訴訟の数が日本の比ではないため、弁護士の数も日本の比ではなく、Bar Exam(日本でいう司法試験)の難易度も相当低く設定されています(東大法学部生が英語ネイティブならば2ヶ月あればほぼ確実に受かる程度の難易度です)。また、米国の政策立案は民間シンクタンクの存在感が大きく、リボルビングドアと呼ばれる大学や民間企業と政府の人材環流も極めて一般的なので、官僚にも日本ほどの裁量も社会的地位もありません。
すなわち国家試験の性質や位置付けが日米でかけ離れており、したがって学部の間の勉強のあり方がまるで異なってしまうのです。
日本の学部課程の理系は、概ね修士課程に進むので、少なくとも3,4年生の間は海外大と同様に勉強しないと卒業や院進学が本当にできません。民間企業になんとなく入る人は世界どこの大学でも当然にいますし本稿の主眼ではないので割愛します。
ともかく、日本の学部課程というのは研究者の卵になり得る人にガイダンスを行うものでしかなく、国家資格受験生への指導やサポートを予備校等が行なったり、あるいは学生が自分で勉強したりという流れが一般化しているため、性質的に「講義が面白くない」ことが発生しやすいのです。

専門職大学院について

その上でMBAなどの専門職大学院について考えると、当然ながら専門職すなわちプロの実務家のスキルを伸ばすことが主眼にあります。すなわち、日本の学部課程とまったく趣が異なるのは当然の話なのです。言ってみれば、アメリカのコンビニで売られているカリフォルニアロールと銀座の名店の寿司ぐらい異なります。
MBAなどの専門職大学院は、すでに実務経験を有する実務家がそのスキルを伸ばしたり広げたりするために進学するものです。当然ですが講義は実践的かつ実務的になります。高校を卒業したての右も左も分からない18, 19歳に高校の延長のような基礎理論や基礎知識を教える学部の講義に比べて、ある程度の実体験やリテラシーが育まれた状態で自分が専門としてきた分野の実例や先端の理論に触れられると、当然に面白く感じられます。これは国内外を問わず同様です。
しかしながら、実際としては「あっ、これMBAで習ったやつだ!」といった場面にMBA修了後に出会うことは極めて稀で、あっても数年に一度、かつ大して重要な案件や意思決定ではありません。マーケティング理論の大家にマイケル・ポーターという人がいますが、職場で彼が立案したフレームワークを実際のプロダクトやサービスのマーケティング戦略立案に用いようとすると、間違いなく嘲笑されるか無言でバカにされます(職場がまともであれば、の話ですが)。スタンフォードのd. schoolでデザインシンキングなどの方法論を学んだところで、このような方法論を呑気に当てはめて何かイノベーションが起こるほど実社会は平和でも容易でもありません。
では、ポーターの理論やデザインシンキングについて知っていることのメリットはなんでしょうか。ずばり、飲み会でドヤ顔や相槌ができることぐらいです。特にお偉いさんにはそこそこに有効なのでバカにできませんが、言うまでもなくバカげています。
イチローの本を読んで野球が上手くなるでしょうか。本田圭佑の講演動画を観てサッカーが上手くなるでしょうか。そのようなものにモチベーションをもらうのはせいぜい数ヶ月に数日でいいはずで、練習や試合といった実体験が数百倍重要でしょう。MBAの講義も、所詮はその程度のものです。会社や政府の金を何千万も使って「リーダーは自己開示をしよう!」といったような言葉に踊らされて涙を流して悦に浸っても、実務能力は全く伸びないのです。そして実際のビジネスの世界はこのような人材を無残に切り捨てます。「MBAで遊んできたのね」と思われることも頻繁に発生します。
執筆陣とは全く関係がないのですが、スタンフォードMBAを経て起業された方の下記の動画も参考になるかと思います。会計を英語で勉強することの無意味さのくだりなどは本当におっしゃる通りだと思います。
https://youtu.be/V7_ABjHW14o?t=123

2. ネットワーク

人的ネットワークはたしかに広がります。しかしながら、同級生とはせいぜい2-3年に1度何かのタイミングで連絡する程度で、自分の仕事やライフミッションに大きなポジティブ・インパクトはありません。世界中でいろいろなことをしている友人を得られるといった程度に終始すると考えておく方がよいでしょう。
「Alumniネットワークが強い」みたいな話もたまに耳にしますが、これは、「高度経済成長期やその直後に日本から大量にMBA留学した世代の日本Alumniコミュニティ」の話です。考えてみてください、たとえば東南アジアやアフリカといったいわゆる開発途上国から東大や慶應に留学し、学位を取得したのちに自国に帰国した人材がいるとして、この人材が東大や慶應の同窓会組織をどれほど使いこなせるでしょうか。
日本から欧米のMBAに留学しても、現地人やネイティブのコミュニティの上澄みには99.9%入れません。真逆に、ハーバードやスタンフォードでさえも、表面上は柔和ですが、本当に根深い差別意識がそこら中に蔓延しています。コロナ流行中はアジア人というだけで街を歩いていても白い目て見られていることが日常茶飯事でした(これはカリフォルニア、ニューヨーク、ボストン、ロンドンほか都市を問わず全員が感じたことです)。
日本からの海外MBA留学で得られるのは「日本人Alumniのネットワーク」であって、グローバルのネットワークにはまず入れませんので、これを使いこなすことはできません。もしあなたがここに入り込める&使いこなせるスーパー人材なら、MBAなどで時間とお金を無駄にすることなくアフリカで起業するか日本で選挙に出る方がよいでしょう。
ちなみに、MPPやMPAについてはお互いが国境を越えて外交として仲良くしようという姿勢が共有されているので、グローバルネットワークを大いに活用できるようです。ただ、これは基本的には行政官、研究者(シンクタンク勤務)、政治家、国際機関勤務者に限られるもので、JICAやJBICといった半民半官の組織に戻る予定ならまず使いこなせないでしょう。JICAやJBICの理事長になるなら別なのですが、これらは省庁の天下り先です。頑張って省庁に転職して、外務省や総理官邸の一員になりましょう。

3. 肩書き・印象

日本ではある程度通用しますが、これは日本が非英語圏だからです。つまり、「海外留学」ということ自体のハードルが高いと社会的に認知されているという背景ありきです。
MARCHの学部を卒業して、社会人経験を積んで、早慶のMBAに入った友人がいるとしましょう。どういった印象でしょうか。割とよくある話で、特別な感情や印象を抱かない方が多いのではないでしょうか。本人のコンプレックスやプライドは別問題なのですが。
海外トップスクールに受かる英語ネイティブは、当然ですが大半が学部課程もトップスクール卒です。「学部はハーバードだったけど雪ひどいし子どももいるから過ごしやすいスタンフォードにしておくか」「もうアメリカ国内のネットワークは持ってるから、オックスブリッジのコミュニティにも入れるよう英国留学するか」といった本当に軽いノリです。残念ながら我々は出願以前の段階で大きなビハインドを背負っています。
つまり、海外MBAは、日本の高齢者やJTCの人事を相手に胸を張る分には有効だと思われます。また、2.で書いたように、MPPやMPAを取ったあとに国際機関などで活躍したいのであれば、これはもう必須条件というか持ってないとお話にならない世界です。
なお、人材マーケット構造から海外MBAに絶対に行くべきではない隠された理由が書かれているのが下記記事です。ご参照ください。
https://note.com/todai_daisuki/n/n65b4b966717a

4. キャリアプラン再考(結びに代えて)

これは疑いなく有効だという声が大多数でした。日々の業務に追われることなく自分の今後の人生をじっくり考えることができる上に、教授、Alumni、同級生といった様々な刺激・材料も得られます。
また、出願にあたって一応はライフゴールを語る必要があるのですが、これは虚飾が含まれるとエッセイに締まりがなくなるので、トップ校を目指すのであれば極限まで考え抜くことが必須で、留学中のキャリアプラン再考のいい土台にもなります。
本稿で記したような事柄を慎重かつシビアに咀嚼いただいた上で、キャリアプランを再考した末に、やっぱりMBAなんて不要だったと気づいてくださることが理想だと感じております。どうかお金も時間も無駄になさりませぬように。

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