見出し画像

レポ72:伊王島灯台(2021/3/24)

長崎県長崎市にある伊王島(いおうじま)。鎖国時代より外交の中心であった長崎の中で最初に設置された灯台を訪れました。

=================================

年々その数を減らしている灯台を護るため、灯台病の記者が灯台訪問の魅力などをお伝えする『全国の灯台巡礼レポ』。灯台マニアの方のみならず、灯台のある風景を通じて地域の魅力を再発掘したり、自身の原風景を護りたいと願う地元の方々にも参考にして頂ければ幸いです。

※今後も不定期で灯台情報を更新していきます(無料)。ご興味のある方は『全国の灯台巡礼レポ』をフォローお願いします

◼️レポ72:伊王島灯台(2021/3/24)

今回、長崎県の伊王島(いおうじま)へはJR長崎駅から自動車で向かいます。ただ駅からほど近い長崎港から渡船と市バスで乗り継いでも行けます。

画像1

長崎港は長崎駅から徒歩10分ほどです。
鎖国時代から唯一の国際貿易港とされ、重要港湾に指定されています。上海航路、五島航路、軍艦島クルーズなど様々な地域への船が発着しています。

 野母商船 > 長崎港〜伊王島航路 時刻表

画像2

少し寄り道しますが、長崎港には大きな錨があります。この錨は実は灯台の台座で、一番上にちょこんと灯器が設置されています。さり気なく対岸に長崎港旭町防波堤灯台(白塔)も見えています。

画像3

自動車で向かう場合、伊王島には伊王島大橋で渡ることができます。ただ厳密にはこの橋は本土の香焼(こうやぎ)町と沖ノ島を結ぶものです。伊王島と沖ノ島は数十mしか離れていないため、両島を合わせて伊王島と呼ぶこともあるそうです。

画像4

橋を渡る途中、右手(北)に目を向けると大中瀬戸北灯台(赤塔)が長く伸びた岩場の先端に見えます。灯台の足下までは道が繋がっていないので到達は難しそうです。

画像5

長崎港から車で約30分。島の北端部にある伊王島灯台公園に到着しました。駐車場もあり、近くには家族で遊べる芝生スペースもあり家族連れでも楽しめます。既に葉桜気味でしたがとても爽やかな風景。

公共バスもここまで来るので、渡船で向かう方は「ターミナル前」乗車、「伊王島灯台」下車で良いと思います(乗車1回100円※記事執筆当時)。

 長崎市コミュニティバス 伊王島線

画像6

『i +Land nagasaki 岬カフェ』は灯台公園の一画で営業しており、日陰でゆっくりと過ごせます。目の前には白亜の灯台と絶景のパノラマを楽しめるブランコもあり、SNS等でも人気の撮影スポットになっています。

画像7

灯台に至る道は緩やかな階段になっており、高齢の方々でも安心して灯台を訪ねることができます。道中は桜をはじめとした自然が彩っています。映画俳優である高倉健さんの遺作『あなたへ』の撮影でも使用されたロケ地とのこと。

画像8

画像9

元々長崎の出島(でじま)は鎖国中にもオランダなどの諸外国と交易があったことは有名ですが、明治維新とともに開国する際に、日本が諸外国と結んだ「江戸条約(改税約書)」に灯台設置に関する条項も盛り込まれました。

江戸条約で設置を約束した灯台は全8基で神奈川県の観音埼灯台をはじめ関東・近畿地方の灯台が中心でしたが、唯一、伊王島灯台だけが九州地方の灯台です。

これは鎖国中から交易のあったオランダの強い要請によるものとされており、元々出島に入港する外国船の遠見番が置かれた伊王島に九州最初の灯台が設置されました。

画像10

初点灯は明治4年7月(西暦1871年9月)。つまり、2021年である今年は初点灯から150周年の記念となる年です。そのためか、今年の2月からは伊王島灯台の外観改修工事が行われ、真っ白にお色直しした姿は白日の下で光輝いています。

画像12

伊王島灯台は「日本の灯台の父」R.H.ブラントン氏の設計による日本で初めての鉄造灯台(当時は石造やレンガ造が主であった)とされていますが、近年ブラントンの手記などから「灯台建設前から既に鉄造りの頑丈な灯明台(※詳細後述)が建っていた」ということが判明しています。

画像21

伊王島灯台のすぐ下には吏員退息所跡があり、建物は長崎県有形文化財に指定されています。明治10年(1877年)にブラントン氏により設計・建設された当時の姿そのままで残っており、壁などは日本最古の無筋コンクリート造とされています。

画像13

施設の中は灯台関連展示が無料公開されています。建物の中央には1918年にフランスで製造され、二神島灯台(長崎県北松浦郡)で使用された第4等閃光レンズが置かれています。

画像14

施設に展示されていた当初の伊王島灯台初点灯記念プレート。何故「明治3年6月16日(1870年7月14日)」になっているかというと、この日が「仮点灯」記念日だからです。

伊王島灯台の灯器を積んだ「エルノー号」がイギリスから日本に向かう途中に東シナ海で沈没してしまい、仕方なく反射鏡7個で仮点灯したのがこの日です。その後、20個のレンズで本点灯したのが明治4(1871年)7月となります。

画像15

伊王島灯台のサンプルモデル。左は初代建設の前にあったという灯明台を再現したもので慶応4年(1868年)6月に完成しました※県立図書館所蔵の古文書『灯明台一件』より

右側の初代灯台は先述のとおり明治4年(1871年)に鉄造六角形で初点灯するも長崎原子爆弾の爆風で破損したので昭和29年(1954年)9月に鉄筋コンクリート造四角形の2代目に建て替えされ、2003年に地元の要望もあり現在の3代目の姿(初代を模した)になったとのこと。灯頂部は初代のものを使用続けているそうです。

画像16

現在の伊王島灯台の目の前にある台座は初代の時のものだとか。

画像11

夕暮れ刻の仕事始めには煌々と緑色に光り輝く伊王島灯台を鑑賞しました。見惚れるほどに美しい光です。

画像17

灯質は「群閃白光 毎30秒に4閃光」です。4閃光が等間隔ではなく、前半20秒で4閃光(5秒間隔)となっており後半10秒は点灯しません。
それがまた独特の光り方となっており、まるで踊るようにくるくると表情を変えていきます。

画像18

動画でも是非ご確認ください。

灯室内の天井にも照明が当たり、それがまた不思議な風合いを醸し出しています。

画像20

西日に沈む夕陽を静かに見守る姿は150年以上変わらず、いまでは島民に愛される島のシンボルとなっている伊王島灯台。いつまでも愛くるしい姿を残して頂きたいですね。

画像19

最後に本文中でも一部触れた伊王島灯台の歴史を簡単にまとめておきます。

【伊王島灯台の歴史】※資料館史料より
旧暦:慶応4年6月 伊王島灯明台完成
(西暦:1868年7月)

 ※鉄造六角形
旧暦:明治3年6月16日 仮点灯
(西暦:1870年7月14日)

 ※灯明機械の輸送船「エルノー号」沈没による
旧暦:明治4年7月30日 本点灯
(西暦:1871年9月14日)

 ※日本最古の鉄造(素材は欧州から仕入)
 ※R.H.ブラントン設計 灯塔約8.7m(2丈3尺)
 ※反射鏡20個による第一等白色不動灯
旧暦:明治10年7月30日 吏員退息所竣工
(西暦:1877年9月14日)

 ※日本最古のコンクリート造建築物
 ※ R.H.ブラントン設計
大正3年(1914年)11月14日 レンズ変更
 ※第四等回転式閃光レンズ(フランス製)
 →現在まで使用
昭和20年(1945年)8月9日 
 長崎原子爆弾降下の爆風により灯塔破損
昭和29年(1954年)9月18日 改築
 ※鉄筋コンクリート造四角形
昭和46年(1971年)4月1日 灯台自動化
 ※退息所は無人となる
平成15年(2003年)9月 改築(現在)
 ※鉄筋コンクリート造六角形

村上 記

年々その数を減らしている灯台を護るため、灯台を訪れる魅力などをお伝えするプロジェクト。灯台マニアの方のみならず、灯台のある風景を通じて地域の魅力を再発掘したり、地元の原風景を護りたいと願う方々の想いを大事にしていきたいです。