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深津絵里 初主演ドラマ「パラダイスにっぽん」とウィシュマ・サンダマリさん死亡事件。渡瀬恒彦〜井ノ原快彦〜山田裕貴、脈々と繋がる歴史

昨日(2023/4/13)、入管法改正案が国会審議入りした。2年前、名古屋入管収容中にスリランカ🇱🇰人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が死亡した問題を受け、政府・与党が成立を断念していたものだ。彼女の入管中死亡ニュースを知ってから、33年前に撮ったデビュー作のことを時折思い出す。

パラダイスにっぽん

深津絵里、初主演ドラマ「パラダイスにっぽん」は、不法残留パキスタン人のニキ(マンジョット・ベティ)と、カメラマン見習いの早苗(深津絵里)の物語。TBSの新鋭ディレクターシリーズ’90の一本だ。

藤井早苗 / 深津絵里

ドラマ「予備校ブギ」(緒形直人、織田裕二、的場浩司、所ジョージ、渡辺満里奈ほか 遊川和彦脚本)でチーフADだった僕はオーディションで深津さんの相手役をやった時から彼女の演技センスと透明な存在感に惹かれていた。だからデビュー時は迷わず、主人公をお願いした。深津さんはまだ17歳だった。

脚本:中園美保


脚本は、当時若手の中園美保。中園さんと2人きりで新大久保界隈を歩き回り、外国人たちに片っ端から話しかけた。文字通りのシナリオハンティング=シナハン、だった。宮崎から上京して10年の僕にとって新宿の隣町、ディープな新大久保は異国情緒たっぷりでワクワクする時間だった。

吉田ルイ子 ハーレム、ハーレムの暑い日々

カメラマン 吉田ルイ子


カメラマン吉田ルイ子さんの「ハーレムの暑い日々」使用許諾を取りにルイ子さん宅に出向いて話を伺った際、トランペッター近藤等則さんを紹介されたり、刺激の多い処女作だった。

さて、

ストーリーは、バブル期日本に夢と希望を持ち入国、働いているうちにビザが切れ不法残留になったニキと仲間たちが早苗と出会う。早苗は彼らの入管を警戒しながら生きる姿や生活を撮影する。それまで見えなかったものが見えてくる…シンプルな物語だ。そして、そこには結論もない。「ひたすら生きる」姿だけは描きたかった。

ニキたちに囲まれた早苗

渡瀬恒彦さんとの約束


デビュー作には、修行時代に出会った方々が協力してくれた。「代議士の妻2」で出会った渡瀬恒彦さん(1944/7/28〜2017/3/14)出来の悪いAD時代、おっかない存在だった渡瀬さんに一度だけ褒められた。JR岐阜駅前の街頭演説シーンで、トラメガ📣で「岐阜の皆さま、突然お邪魔し、お騒がせして申し訳ございません!」と叫んでエキストラ出演のお願いをしていたら「気に入った!お前が初監督する時、ノーギャラで出てやるよ」突然、渡瀬さんに言われ耳を疑ったが即、こう言っていた。「渡瀬さん、ありがとうございます!賀来(千香子)さん、証人お願いしますね!」

数年後、デビューが決まると僕は東映のマネージャーさんに恐る恐る電話をかけた。「岐阜駅前の約束、覚えていらっしゃいますでしょうか?」何とも図々しい話だ。すると、ものの10分後、電話がかかってきた。「出演させていただきます。台本を送っていただけますか?」即答された。台本も読まずOK、更に衣装合わせも要らないと仰る。凄い。

ロケ撮影日、入り時間にカメラスタジオがある倉庫の前で待っていたら、入り時間ピッタリに黒塗りのベンツが現れた。後部座席から降りた渡瀬恒彦は、隙のないカメラマン姿…自前衣装で登場し、
「さ、撮ろうか!監督」
あまりのカッコ良さに脳天から痺れた。

カメラマン 渡瀬恒彦

渡瀬さんとは、その後、日曜劇場「ボクの就職」(緒形直人とW主演、伊東四郎、忌野清志郎、竹野内豊デビュー作)や、スペシャルドラマ「院内学級物語」などで演出させていただいた。その後、テレ朝の「特捜9」シリーズで井ノ原快彦(学校へ行こう!で長い間一緒だった)とタッグを組んだのが実に嬉しかった。だから、渡瀬恒彦さんが亡くなったとき、イノッチと共に衝撃を受けた。それが今、井ノ原主演シリーズとなり、仲間(とボクが思っている)の山田裕貴と共演しているのが、自分の中では脈々とひとつの「歴史」として繋がっている。

話がそれました🙏

他にも、小倉久寛さんや松下由樹さんがカメオ的に出演してくれた。お父さん役は、すまけいさん(1935/9/4〜
2013/12/7)にお願いした。飄々とした存在感がたまらなく好きな俳優さんだ。役名は藤井定造、僕の母方の祖父の名前にさせていただいた。3年前に、他界した際、親戚で自分だけが死に目にあえなくて引きずっていたのだ。ニキが働くラーメン屋「山ちゃん」店主には石倉三郎さん。石倉さんとは後に、ボクの人生で避けて通れない萩原健一さんとのドラマ対決「課長サンの厄年」「冠婚葬祭部長」でご一緒させてもらうことになる。

ニキは、パキスタンから日本に夢と希望を抱き、働きに来ている。だから「パラダイス」とタイトルにつけている。彼らの写真を撮るうちに父、定造も一緒に西新宿公演で飲んで、歌った夜もあった。そんな日々を早苗はカメラに収めていった。

スチール撮影 橋本田鶴子

スチール撮影:橋本田鶴子


スチール撮影をしてくれたカメラマンは橋本田鶴子さん。サバサバした魅力的な女性で、後にアントニオ猪木さんと結婚し、残念ながら2019年に他界されてしまった。人の素敵な瞬間を切り取る方でした。

当時、入国管理法が問題になっていたこともありこの題材をデビュー作に選んだ。だからウィシュマ・サンダマリさんが名古屋出入国在留管理局の施設で2021年3月に死亡したニュースが流れた時いたたまれなかった。あれから丸2年経ち、いま入管法改正案が審議されている。今後も見守っていきたい。

SOUND TRACK


ニキと早苗が、不安を胸に語り合う場面にはライ・クーダーのDark End Of The Streetを使った。このシーンを撮影した時の深津絵里の眼差しが忘れられない。ニキと早苗、2人の心が近づいたり離れたりする様子が手に取るように分かった。深津絵里は、役の気持ちを素直に伝えることが出来るステキな俳優で、最初からそうだった。

エンドタイトルにはトム・ウェイツのHang Down Your Head。前へ、前へと歩いてゆくニキの心情と、この曲が持つビートとサウンドが、僕の中ではピッタリ合っている。放送した翌日、SIONのマネージャーから電話がかかってきたのも嬉しかった。20歳の頃からずっと好きで聞いていたミュージシャンだったからだ。SIONに関しては、連ドラ「ホームワーク」の打ち上げで20歳の福山雅治と意気投合し、別れ際に交わした言葉を鮮明に覚えている。

福山「街は今日も雨さ」
戸髙「今日が昨日のくり返しでも」
福山「明日が今日のくり返しでも」

そして、ニヤッと笑って、手を振って別れた。

誰かがYouTubeにアップしていたのが残っていました👇

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