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中学受験をふりかえる⑤

内部進学か、外部受験か。

当初はこの二択であったのに、音大を見据える、という第三の選択肢が浮かび上がってきたことで、個人塾ライフはますますハードなものとなっていった。学校は、個々の家庭でオンラインと通学、毎日どちらかを選んでいい、というスタンスのため、クラスの子どもたちが全員揃うということもあまりなく、行事はまだ再開しないまま。我が家はなるべく通学させるようにしていたが、娘はというと、帰宅すると学校に対する愚痴めいたことを漏らす日も少なくはなく、内部進学という選択肢は既に外しているように思えた。

そんな日々の中、多少ハードであっても学校以外に行く場所がある、こなすべき課題がある、というのは気分転換という意味でも大きかったように思う。

元来、真面目な性格で(私の圧力もあってか笑)勉強にしてもお稽古にしても、やらなければ、と本人が感じればコツコツとこなすタイプの娘である。塾で出される(考慮されているはずの)宿題も、日々のピアノ練習も本当によくがんばっていた。


塾のカリキュラムや進め方、宿題の内容などをざっと。

特定は避けたいので詳細は省くが、基本的には間違えた箇所は徹底的に直す、大量の暗記、なぜそうなるかをとことん考えさせ、意見としてクラス内で発言させる、といった感じ。指導の内容も方針も賛同できるし、個人塾だけあって素晴らしい手厚さではあった。

例えば、漢字学習で言えば週の範囲(テキストの第◯回1回分など)は辞書を引いて類語と意味を全て書き写す。例文をいくつか自分で考えて発表。テストをして間違えたら例文ごと10回ほど書いて、間違え箇所を潰していく・・・算数は膨大な計算と独自で定められたルールに沿って直しをしていかなければならない。社会も理科もテキストの範囲を超えた細かな知識まで全て暗記をして、間違え一箇所につき10回は書き、満点になるまで同じ内容を何度でも繰り返す。他塾と同じように、それを一週間で終わらせて次の範囲へ進む。授業は週に3回+週に1度テストというスケジュールだが16時〜22時前後と終了が遅いため、平日は0時を過ぎて寝る日もあった。これでもかなり「ピアノに配慮された」スケジュールだったとは思う。

だが、その手厚さと熱さ故、先生は生徒たちを叱責することが常となっており、娘はそこに恐怖感を覚えるようになっていた。
「忘れると怖いから」
「間違えると怖いから」
「やらなかったら怒られるから」
勉強のモチベーションが次第に変わっていくのを感じていた。

A先生はいつも精神論を生徒たちに説く。
ある意味、それが個人塾の醍醐味だとは思う。
SNSでも様々な個人塾の講師たちが独自のポリシーや精神論を説いているのはよく見かけるし、そこに共感して通えば塾全体が団結するし、目指すところへ一緒に突き進むことができるだろう。だが他面では、相手が子どもである以上、これは諸刃の剣だとも私は思っていて、時に洗脳に近い状態になってしまうことを危惧していたのは確かだ。教室に親は居ないから。

「素直な子は伸びます、お嬢さんはとても素直です」
A先生の言う、この言葉には救われるようでいて、すこし怖かった。
 ジェームズ・クラベルの『23分間の奇跡』が頭を過った。

御三家などの超難関を目指すのであれば、我が家ではこれでも足りないくらいだろう。が、私たちはそこまではまだ考えていなかったし、入塾後にA先生に「中学受験をするならここを目指したいな」程度で一応考えていた当初の志望校を伝えたところ「ここの塾からは受けさせられません。とにかく上位偏差値校を目指させます」と言われてしまった。

平日のピアノ練習と塾の宿題、そして夜まで続く授業。
何かに追い立てられるように勉強するようになったけれど、
比例して娘の持つキラキラが失われていくのを感じていた。


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