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きゅーのつれづれ その1

きゅー:

初めて出会ったときにはまだ、カオリはランドセルをしょった女の子だった。
ホームセンターからぼくを買って帰ったのはカオリのお母さんだ。
お母さんはマーガレットの花壇にぼくを置いたんだけど、学校から帰ったカオリがぼくを見つけて気に入ってしまった。ぼくを欲しいとおねだりするカオリに、このアヒルは庭のオーナメントだからとお母さんは説明したけど、カオリはぼくといっしょに寝るんだと言い張った。アヒルさん雨にぬれたらかわいそう、と五七五で泣き落としてぼくを勝ち取ったんだ。

その日からぼくはカオリの話し相手になった。カオリが話して、ぼくが聞くんだ。学校での楽しかったことやいやだったこと、お父さんお母さんには言えないことも、ぼくには打ち明けてくれた。中学に上がってからはずいぶん複雑な悩みも聞いてきたものだけど、大人になってからのカオリは忙しくて部屋ですごす時間も減った。ぼくのことはもう、ただの置物だと思ってるように見えた。だからぼくを連れて行くと言われたときは嬉しかった。夜中目が覚めたときに話す相手がいないと耐えられないから、なんだって。
おしゃべりにぼくが返事をしようがしまいが、カオリは気にしない。それはぼくも同じで、カオリがぼんやり窓の外を見上げてる時は邪魔しない。ああやって黙っているのもおしゃべりなんだよ、カオリにとっては。
でもさっきからずっと、カオリの声が聞こえる。ぼくの名前を呼んでいるけど、いくら答えようとしても、ここからじゃ届かない。この段ボールの底からじゃ。もう何日も真っ暗闇のなかで逆立ちしてるんだけど。いったいいつ見つけてくれるんだろう。

カオリー。


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