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待っていたのは最高の週末だった

スタジアムが静寂に包まれる瞬間が好きだ。

この日、それが訪れたのは後半35分だった。
敵陣深く、アウェー側のゴール前で鹿児島ユナイテッドはフリーキックを獲得した。
蹴るのはベテランの木村選手。

同点に追いついたわずか4分後。
鹿児島から、各地から、駆け付けた大勢の鹿児島ユナイテッドサポーターたちは手を打ち鳴らす。

けれど、

美しく弧を描いたボールを有田選手がヘディングでたたきつけた瞬間、スタジアムは静まりかえった。

時間にするとコンマ何秒かの静寂。
一歩も動けなかったゴールキーパーの脇を抜けたボールは、ゴールラインを越えた先でワンバウンドしてゴールネットを揺らした。

静寂からの爆発。
アウェーゴール裏では大旗が夜空を彩り、歓声が上がった。

待っていたのは最高の週末だった。

明治安田生命J3リーグ 第15節
2022年7月2日 18時3分キックオフ@ミクニワールドスタジアム北九州
ギラヴァンツ北九州 VS 鹿児島ユナイテッドFC
1-2(1-0、0-2)
天気:曇り 気温:29℃
入場者数:4,352人

ホーム戦がないならアウェーに行けばいいじゃない

この日は今シーズン初めてのアウェーでの観戦だった。
鹿児島ユナイテッドが首位だからという理由ではなく、わりと早い時期からこの試合には行こうと決めていた。

2週続けてアウェーというのもあったし、専用スタジアムの雰囲気を味わってみたいという思いもあった。
昨シーズン訪れたテゲバジャーロ宮崎のホームスタジアムもJ3規格とはいえ、専用スタジアムで臨場感があった。

それに加えて、北九州のサポーターは熱いという印象があって、スタジアムがどんな雰囲気なのか、その場に身を置いてみたかった。

鹿児島を出たのは朝早いうち。
九州新幹線と特急ソニックを乗り継いで、小倉駅に降り立つと目立つ場所に試合の告知が掲げられていた。

当然ながら北九州が主語の告知に、アウェーに来たんだなと実感が湧いてきた。
試合までは松本清張記念館や漫画ミュージアムに行ったり、もちろんラーメンを食べたりして過ごしたけれど、街中のいろんなところで北九州のユニフォームを見かけた。

試合時間が近づくと、ユニフォームに身を包んだ両チームのサポーターの姿も増えてきて、いよいよ気持ちが高まる。
北九州のサポーターにはよろしくお願いします、鹿児島のサポーターには一緒に闘おうと心の中で念を送る。

いったん駅前のホテルにチェックインしたのはキックオフの2時間ちょっと前。
少し身体を休めながら、スマホでスタメンを確認するとスタジアムへと向かった。

専スタはいいぞ

ミクニワールドスタジアムは小倉駅から徒歩7分ほど。
この日は幸い雨は降らなかったけれど、駅からスタジアムに向かう通路のほとんどに屋根があって雨の日でもスムーズに移動できそうだった。

スタジアムの客席も屋根に覆われている。
われらが白波スタジアムもピッチを見渡せるという点で言うといいスタジアムだが、いかんせん屋根がないのがつらい。
わずかばかりの屋根はあるが、屋根の下でも濡れる心配がまったくないという席はごくわずかしかない。

屋根の本当の威力を知ったのは、試合が始まってからだったけれど、これは後述する。

閑話休題。

アウェーサポーターは北ゲートからの入場だった。
席を取っていたメインスタンドの上方に向かう途中でゴール裏席を通過すると、ちょうどピッチ内アップが行われていた。
ゴール真裏のあたりからシュート練習を眺めると、軌道がはっきりと見えて迫力があった。
練習なのにシュートが決まるたびにサポーターが拍手をしているのには、うなずくしかなかった。

ゴール裏からの景色も捨てがたかったけれど、それでもメインスタンドの席を選んだのは、ゴール裏の景色を見たかったから。
その選択は正解だった。

アウェーとはいえ同じ九州ということもあって、この日のアウェーゴール裏には大勢の鹿児島サポーターが詰めかけていた。
紺色で染まったゴール裏は壮観だった。

最高の週末

試合の展開は鹿児島ユナイテッドにとって苦しいものだった。
前半は後手に回るシーンが多かった。

GK白坂選手の好セーブもあって、なんとか北九州の攻撃をしのいでいたものの、前半終了間際に先制点を許してしまう。
去年はこんなふうに負けてしまうことが多かった気がするけれど、今年のチームはやっぱり違う。

後半に入り、選手を交代させつつ徐々に攻撃を活性化させると、31分に米澤選手のゴールで同点に追いついた。
先述した屋根の威力をこのとき感じた。
屋根のおかげでとにかく音が反響する。
ゴール裏の太鼓に先導される手拍子が響いて、思わず手の力が強くなる。
試合開始直後から感じていたけれど、同点ゴールでさらにその力がこもる。

それから4分後に逆転ゴールが決まったのは、もはや必然にも思える。
それほどまでに雰囲気の高まりを感じた。

ゴール裏で大旗を振ってゴールを称えるサポーターに有田選手がガッツポーズで応える。
そんな光景を見られただけで最高の週末だった。

鹿児島ユナイテッドはそのまま逃げ切って見事勝利を挙げた。
当然、首位をキープしたことになる。

シーズン折り返しまで残り2試合。
幸い、どちらもホームゲームだ。
屋根がないのはつらいけれど、スタジアムに行こう。


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