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ガラスの鍋と地下工事

春に始まった外食を控える日々は、秋になっても終わる気配がない。洋服やアクセサリーを買いたい気持ちは全く湧いて来ず、その代わりにこれまであまりこだわりの無かった食器に変化が欲しくなり、オンライン陶器市を楽しんでいる自分に少し驚いている。そのうえ、食器を調べている時に写真を見たガラスの鍋が異様に素敵に思えてしまい、つい買ってしまった。この鍋はご飯も炊けて、しかも水分の蒸発具合が目視できるため失敗がないという。鍋で炊いたご飯は美味しいと色々な人に言われても、自分でやりたいという気持ちがこれまでは一切湧いてこなかったのに、今回はやってみたくなり早速挑戦した。

説明書に書かれていた要領で、順調にご飯を炊き始めた。鍋を火にかけながら、おかずの下ごしらえにも着手。野菜を洗い終えてふと鍋に目をやると、まるで洗剤の泡のような透明の気泡がごはんの上にもくもくと出現している。その気泡を目にした途端、予想外の景色に気が動転してしまった。何で泡が立つのだろう?水と一緒に変なものを入れてしまっただろうか?などとあるはずもないことを思いめぐらせ、googleで「鍋 ご飯 気泡」と検索を始める。すぐにこの気泡はおかしな現象ではないとわかるのだけれど、それまで炊飯器でしかお米を炊いたことの無い私は、お米の炊ける姿を目の当たりにして台所でひとり心拍数がちょっと上がる位おののいていた。正気に戻ると、そんな自分が笑えてくる。

それから数日後、家からそれほど遠く無い住宅街で突然道路が陥没した。原因は地下に高速道路を通すための工事だそうだ。数年前から始まっていたという地下工事のことを私は全く知らず、その上を日々歩いていた。ある日突然道路に穴が空いて、何年も前から始まっていたもう一つの日常が時空を超えて私の日常と繋がった様な、そんな気にすらなる道路に空いた黒い空洞。

よくよく考えてみれば、ガラスの鍋から見えた気泡はコーヒーをドリップする時にできる泡とかなり似ている。毎日見ているものと、見ずにいるもの(もしくは見なくて済んでいるもの)。その均衡は、ふとした時に破られる。

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