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母校同窓会に見た、改革が進まない理由

1.同窓会から届いた1通のレポート

私の母校、東京都立両国高等学校は1900年開校の歴史ある高校で、来年卒業する生徒は第124回生、1978年卒の私は第75回生です。

都立高にはナンバースクールと呼ばれている、旧制中学校を前身校に持つ20校があり、旧制1中が日比谷高校、2中が立川高校、そして3中が両国高校となっています。

卒業生には著名人も多く、文化勲章受章者を5名輩出、7回生には芥川龍之介氏、60年に演説中に少年に刺殺された浅沼稲次郎氏、現役の経済人では山崎製パン社長の飯島延浩氏、変わったところでは長男が誘拐され大々的に報道されたコメディアンのトニー谷氏もそのひとりです。

両国高校には開校から間もない1905年に「淡交会」という同窓会組織が発足し、現在まで脈々と活動が受け継がれ、存命中の会員は19,000人に上るということです。

淡交会という言葉の意味は、荘子にある「君子の交わりは淡きこと水の如し」からの引用です。

その淡交会から先日、私のもとに「淡交会活動の持続的発展のために」というレポートが届きました。

なぜ私のもとにそんなレポートが届くのかというと、私がひょんなことから47名いる淡交会常任理事のひとりだからです。
常任理事と言っても全くの名ばかり理事で、常に欠席し何も貢献できていないので今年度で辞退しようと考えているところです。

淡交会の活動には参加できていませんが、同窓生仲間たちとは年に何回もゴルフに行く交流は今でも続いていて、同級生だけでなく後輩も交えて十数名の活動を活発にしています。

レポートの内容はざっくりいうと、ここ近年において会の財政が毎年赤字になっていることから、それまでも幾度となく議論してきてはいたものの抜本的な改革への議論とはなっていない重要問題について、もはやこれ以上先送りすることはできないとの会長の強い意志によって、財政・組織強化委員会で議論してきたことの中間報告という形態でした。

A4で12ページにびっしりと書かれたレポートを読んでみると、再来年には創立120年を迎える伝統ある同窓会の衰退を、このまま放置しておくことはできないという危機感がうかがえる内容でした。

でも私はそこに記載されていたある箇所を見て、この改革は基本的にかなり困難だろうということに気づきました。

それは卒業生の数の推移です。

2.大幅に減少した生徒数

私が在籍していたころはA組からI組までの9クラスで、毎年約420名の卒業生を送り出し、そのすべてが自動的に同窓会である淡交会に入ることになっていました。

そして、その中から2,000円の年会費を収めている卒業生の数はとなると極めて少数で、私たちの代で全体の15%未満だったと思います。

それでも、毎年60名くらいの会費納入者がいることになります。

この基礎的な数字に変化が起きたのは、2005年に付属中学校が併設されることになってからです。

同じ規模の校舎を高校生の3学年に加えて中学生の3学年も使うことになれば、当然各学年の人数を減らさなければならないわけで、そこから毎年の高校卒業生の数が漸減していくことになります。

そして今では、完全な中高一貫校となり、今年度の募集生徒数は男子80名・女子80名の合計160名となっています。

何の理由や背景で、伝統ある旧制ナンバー校を中高一貫校にしたのかはわかりませんが、現実問題として両国高校では現在、高校からの入学生は募集しておらず、すべて中学からの生徒で構成されることになっています。

毎年420名いた卒業生が160名になっている。

62%減です。

仮にそのうちの15%が年会費を納付するとなると、わずか24名です。

レポートをよく見るとこんな状態が2010年から続いていたらしく、高齢者がどんどん旅立っていく中で、新規入会者がこのレベルで減っていけば、財政がひっ迫していくのは火を見るよりも明らかです。

私はこれを見た時に、この問題は解決不能ではないかと感じるとともに、これは日本の縮図、つまり年金問題と同じ構造だと受け取りました。

年金は「国」というスポンサーがいて、最終的に破綻させることはないのかも知れませんが、淡交会にはそんなスポンサーはいません。

レポートは財政問題と並行して組織強化についての提言がいくつか取り上げられていました。

つまり、卒業生の人数が減少したのは仕方がない、であれば会員にとってもっと魅力的な同窓会にすべく活発に活動し、会費納付率を高めていこうという趣旨ではないかと推察します。

委員会のみなさんは概ね6カ月の期間、かなり活発に議論を重ねてこられたことがレポートに記されていて、手弁当で何度も集まり大変な思いで話し合われたことがよくわかりました。

でも、残念なことにその構図が「人生の大先輩が考える、あるべき同窓会の復活」のように見え、「未来を担うZ世代の人々にとっての理想の同窓会の創造」に適っていたかというと、首をかしげざるを得ません。

18歳から最高齢の会員では、たぶん100歳にならんとする大先輩まで在籍する同窓会という組織の成り立ち上、戦略を立てるうえで最も大切な「どこにターゲットを絞るか」、ドラッカー流に言えば「顧客は誰か」を特定しにくいことが、課題解決を難しくしていると言えます。

でも残念なことに、どんな戦略でもここが明確にならない限り成果が上がらないのは、先達の教えのとおりです。

3.時代の変化に適応できない

実は私は、高校時代の同窓会の他に、大学時代の同窓会(交流会)にも加入し年会費を納めています。

こちらは主に卒業生の中で経済界で活躍中の方々を中心に構成されていて、私が現役の社長時代に取引先メーカーの社長がたまたま同じ大学の同じ学部学科の出身だったことから意気投合し、その方から入会を勧められ、会社を引退し自営業フリーランスとなった今も経費を収め続けています。

年会費は30,000円(別途入会金20,000円)で淡交会の2,000円とは一桁違うのですが、会社経費として認められて支払っている人が多くいるのではないかと思います。

この会は会員が約950名、上場企業の名だたる会長・社長さん達が役員や顧問を務めておられ、財政面では問題ないのでしょう。

でも、両方加入して会員となっている私には、同窓会の抱える共通の課題のようなものを感じることがあります。

それは圧倒的な「デジタル化・IT化の遅れ」です。

淡交会から送られてきたレポートからして、受け取った私は「なぜ、紙なんだろう」とすぐに思ったし、会費の納付は両会とも郵便振り込みで、振込用紙が送られてきます。

今どきお金を支払うために、平日の昼間の時間帯しか空いていない郵便局に行くなどということが合理的なのだろうか?

クレジットカード払いもPayPayで支払うこともできません。

両会ともに、定期的に会報誌を発刊していて、当然、丁寧に作られた「紙」の会報誌が年に何度か郵送で送られてきます。

何でメールニュースではないのだろう、その方が費用が格段に抑えられるし、紙の会報誌はざっと見たらすぐに捨てられてしまいます。

卒業時にメルアドを登録してもらい、メールニュースとして情報提供しながら、会費納入のアイコンや、特別イベント(例えば創立130周年記念募金)のためのクラファンを立ち上げたり、方法はいくらでもあります。

少なくとも紙媒体を今どきの若者が手にするはずはありません。

最近になって淡交会では常任理事会の出欠をとるにあたって、ようやくGoogleフォームを使うようになりましたが、その案内のメールにGoogleフォームのURLの他に、こちらからもアクセスできますとQRコードが添付されているのです。

つまりPCのディスプレイに表示されたQRコードをスマホで撮って・・・

そんなバカな!

でももしかしたら、PCを扱えないお年寄り会員のために、周辺の誰かがプリントアウトして渡してあげて、それをスマホで撮ってアクセスしているのかもしれないと思い、これもデジタル難民対策としてはあながちおかしなことではないのかと納得したりもしています。

とにかく、新しく会員になる人たちや全体的に若い世代の人たちが、参加していて楽しくなるような会の運営にしない限り、会費納付率を上げることは困難でしょうが、はたして若い世代の人たちが「参加していて楽しくなる会」とは・・・

でも、同窓会のみならず、多くの既存の組織改革において、こうしたデジタル化を推進していくときに、必ず出てくる最大の障害となるセリフがこれです。

「紙の会報誌を楽しみに待っている会員がいる」

「デジタル化に対応できない人を切り捨てるわけにはいかない」

私は過去に何度か会社以外のコミュニティ組織のデジタル化を進めていくときにこのセリフを投げつけられ、やる気をそがれ傷ついた経験があったので、今回も遠くから傍観しているだけにしています。

元々財政的に苦しいわけですから、アナログとデジタルのハイブリッド運営は余計手間とお金がかかるので、どうしても二者択一にならざるを得ません。

アナログのままでいけばお金がかかるし、若い人たちには全く受け入れられない。

一方でデジタルに振り切ると、既存高齢者層の反発を招きかねない。

そうこうしているうちに、戦略的ターゲットが決まらないまま議論だけが進んで行く。

外野から批判したいのではなく、日本の人口構造に立ち向かう課題の解決は、総じて三方良しの解決策が見出しにくく、特に年齢層の幅が極端に広い同窓会という組織の改革は自ずと困難なものになるということです。

4.結論

以上のことから結論として、人口減少社会における同窓会組織のほとんどは消滅していく運命にあると考えます。

特に歴史ある同窓会の場合はかなり確実に。

残念ではありますが仕方ありません。

ただし、高齢者とZ世代の世代間ギャップを埋めることができるのは、唯一、IT活用で、高齢会員がデジタル化について来れず、会としても見捨てるわけにいかないというのであれば、会としての存続は難しいことだと思います。

Windows95が発売になって、間もなく30年が経過します。

30年たってもITやSNSとは全く無縁だという人たちを基準に社会を運営していくことはできないはずです。

これはビジネスの世界でも、政治の世界でも同じです。

だから切り捨てろ、ではなく、彼らにも覚えてもらう活動をしながら、改革していくほかはないのだと思います。

ところで、今年の夏の高校野球で母校はどこまで活躍したのだろうかと、東東京大会の試合結果を検索していたら、「国際・両国高校」という高校がありました。

調べてみると、同じ都立高で目黒区にある都立国際高校と両国高校の混成チームだということがわかりました。

1つの学年に男子生徒が80人しかいなければ、硬式野球チームを作るのは確かに困難なことで、同じように部員の少ない高校と混成チームを結成して大会に臨むというのは大いに結構なことだと思いました。

若い層では人口が減少している中でも、対策を立てて実行できている部分もあります。

改革が進まないのは、高齢者の構成比率が圧倒的に勝っている分野です。

これ以上言うと、どこかから怒られそうなのでここで止めておきます。

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