「ユタカに勝たれちゃしょうがない」
「先週の重賞を回顧してみた」
編集部Kによる重賞回顧。レースをあらゆる角度から読み、
独自の視点で語ってみる。次走狙いたい馬、危険な馬を指摘しつつ、
なんとなく役に立ちそうなコーナー。ときに自らの馬券の悔恨と反省も。
基本、競馬が終わった、ちょっと寂しい月曜日に掲載。
【第80回菊花賞】回顧
2019年10月20日(日)3歳、GⅠ、京都芝3000m
近所の床屋のSさんは競馬を続けて何十年という大ベテラン。馬券は単複が変わらぬスタイル。床屋なので土日は仕事が基本。なので、たまにやる3日間開催が待ち遠してく仕方ない。
「月曜もやるんだって、競馬」
先週は月曜日と火曜日に競馬が開催され、今週は先週の代替開催が月曜日になり、Sさんはとてもウキウキした様子。
「月曜日は仕事なの?かわいそうに」
なんて言うので、
「土日毎週やらせてもらってますから」
と、ちょっと皮肉っぽく返すと、
「でも明日も仕事中にやっちゃうんだろ。俺だって毎週仕事中にやってるもん」
と、図星な答えがやってきた。
話題は菊花賞になり、Sさんは「ユタカだろうな。川田をマークして、ゴール前ですっと交わすんじゃないの」とワールドプレミアが気になる様子。だけど、そのあとに、
「ヨコノリの馬も一発あるんじゃない?」と続けた。
横山典弘騎手が乗るディバインフォースは16番人気、単勝万馬券。
皐月賞に日本ダービー、セントライト記念に神戸新聞杯、どのレースの勝ち馬もいない菊花賞なんてSさんの記憶にないそうで、これなら抽選突破の強運も味方するのではと。
「勝ったときが息子で前走自分が乗って負けたんだろ、そういうときの親父は怖いよ」
と続けた。
西に武豊がいれば、東には横山典弘がいる。どちらも天才。持って生まれた勝負勘がある。ディバインフォースは北海道で2戦続けて2600mを走らせ、コーナーを何度も回る競馬で最後に上がり最速の脚を繰り出し続けた。これが菊花賞のトライアル替わりになるんじゃないかと、Sさんは話すうちにどんどんディバインフォースに寄っていく。
「これ、来たら、スゴイよ。歴史に残るよ」
なんて無責任に私がおだてるので、Sさんはますます本気になる。
結局、Sさんはディバインフォースの単複を買った。
結果はご承知の通り。Sさんの読み通り外枠から勝ちに行くヴェロックスを背後のインで終始まーくし続けたワールドプレミアが4角でヴェロックスが動いたときにひと呼吸待って空いたインから抜け出し、ヴェロックスを捕らえて、サトノルークスを抑えて快勝した。
ヨコノリのディバインフォースはスタートからあえてドン尻に下げ、前の馬が折り合いに苦労する間は人馬一体、ピタリと折り合い、ペースが落ち、負担が少ない1角手前でじわっと動き、4角手前の坂下を大外一気にスパート。溜めた脚を直線だけにフル活用させ、最後の最後、ヴェロックスに及ばず4着だった。
「惜しかったなぁ、複勝でも20倍近くあったよ」
と、私がいうと、
「まあねぇ、ヨコノリはあれしかないよね」
と残念そうに言ってから、
「ま、ユタカに勝たれちゃしょうがいない」
と笑った。
「ユタカに勝たれちゃしょうがない」
競馬歴が長い人はみんな覚えている。かつては毎週そう言いながら競馬場やWINSから家路についたものだ。
第80回菊花賞はまさに武豊ここにありという誰もが認める見事な競馬だった。
編集部K
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