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ピコピコ中年「音楽夜話」~サニーデイ・サービス、はっぴいえんど、四畳半だヨ!現実世界

寝起きにシャワーを浴びたけれど、ゲームで夜更かししたせいだろうか、何だかぼんやりした頭のまま部屋を見回す。

熱い濃いインスタントコーヒーを飲み、そして、改めて思う。

嗚呼…、ここは自分の城なんだな、と。

1浪の末、志望大学の志望学科に何とか合格。人生初めての一人暮らしは、六畳一間のオンボロアパートの1階からスタートした。

父と共に訪れた大学付近の不動産屋が、家賃・風呂トイレ別・通学にかかる時間等々の要望を手慣れたスピードで解釈した末に「オススメです!(死んだ魚の目の営業スマイル)」と言い切ったそのアパート。海が近いこともあり、目の前でスイカの砂地栽培をしている畑があるような、学生アパート群からは少し離れたエリアに建っていた。

もちろん学生アパートであるからして、防音に関しては某レ〇パレス並み。入居した翌日に隣人から壁ドンを喰らうレベルである。

そして、きっとお世辞にも綺麗好きとは言えないような学生達が日々の生活を過ごしていたのだろう。入居してから数日後にあの「Gを冠する黒いヤツ」とキッチン付近で遭遇し、Gから部屋をレコンキスタするため涙目でホームセンターに駆け込んだ。ガンダム「Gのレコンギスタ」公開の19年前の春の出来事。

イメージ的には森見登美彦さんの「四畳半神話大系」にでも出てきそう、そんなアパートが私の城だった。

いそいそと何も塗っていないバターロールを口に詰め込み、飲み込むやいなや煙草に火を灯し、CDプレイヤーの電源をオンにして、通学の準備をし始めた。

部屋に響き渡る、サニーデイ・サービス「青春狂走曲」。

今朝の風はなんだかちょっと 冷たく肌に吹いてくるんだ
ぼんやりした頭がすこししゃんとするんだ
憶えてない夢のせいで心が 何メートルか沈み込むんだ
熱い濃いコーヒーを飲みたいんだ
そっちはどうだい うまくやってるかい
こっちはこうさ どうにもならんよ
今んとこはまあ そんな感じなんだ

「青春狂走曲」1番の歌詞

壁も薄く、Gも出るオンボロアパートで流れる曲にこれ以上ピッタリの曲があるだろうか。しばし私は通学準備の手を休め、熱い濃いコーヒーを飲みながら煙草をふかす。

大学生にはなったが、相変わらず音楽の嗜好的にはロッキンオン、ロッキンオンJAPAN、Quick Japan、Relax等々の雑誌で紹介されるようなバンドやグループ、ソロアーティストを聴いていた。

となれば、もちろん時代的にも所謂オサレな「渋谷系」真っ只中。オザケン、コーネリアス、カヒミカリィ、ピチカートファイヴ、カジ君からカジ君のバンドブリッジ、カーディガンズなどなど、記憶を軽く手繰っただけでもボロボロと名前が出てくるようなアーティスト達。

そんな彼らのオサレな音楽が詰まったCDを買い漁る中でサニーデイ・サービスと出会った。

小さい頃耳にしていた「神田川」や「なごり雪」などの四畳半フォークを思わせ、「ネオフォーク」などと当時雑誌で表現されていた彼らの音楽は、「オサレな一人暮らしのシティ派大学生生活」を思い描いていたけれど、実際に蓋を開けてみれば「オンボロアパートで壁ドンとGに怯えるローカル貧乏学生」だった私に驚くほどフィットしてくれたのだった。

♪そっちはどうだい うまくやってるかい♪

進学で北海道の大学へと行ってしまった予備校仲間のK君。あっという間に解散したバンド仲間のM君。そして、未だナヨナヨと未練を断ち切れていない高校時代の彼女Yさん、初恋相手のTさんに問いかけているような気持ちで曲を口ずさむ。

♪こっちはこうさ どうにもならんよ♪
♪今んとこはまあ そんな感じなんだ♪

オサレでハッピーでグルーヴィーな大学生活とは程遠く、さりとて何をどうすれば、何をどうしたいのかも分からず、ココロに巣食う「何かしたいぜ!」という熱量だけが日々熱くなっていくばかりだったが、どうにもならない現状。

本当に「今んとこ」は、まぁそんな感じだよ。みんなどうだい?うまくやってるかい?とりあえず今日も大学に行ってくるよ。教養科目として受講している宗教学の授業があるんだ。ゲーム「女神転生」に出てくるキャラクター達の背景を知ることができて面白いんだ…。ねえ、聞こえるかい?

アパートの入口を出ると、目の前には砂に埋もれながら大きくなりつつあるスイカ。砂を力強く踏みしめながら、私は「青春狂走曲」を口ずさみつつ大学を目指して歩き出したのだった…。


☆サニーデイ・サービス、そしてはっぴいえんど

私の大学生活は、「青春狂走曲」という1995年初夏に発売されたサニーデイ・サービスの曲から本格的に動き出したように思う。

その前に発売されていた

アルバム「若者たち」も聴いていたが、何と言っても「青春狂走曲」。この曲が刺さった。曽我部氏の甘い響きの歌声。賑やかでアップテンポな曲に乗る、諦観を感じるどこか冷めたような歌詞。

新潟という土地と一人暮らしに馴染み始め、支給される奨学金の額から「嗚呼、やはり長谷川家の財政事情は苦しかったのだなぁ。それなのに予備校まで通わせてもらってしまった…」とオサレとは縁遠い現実を痛感していた頃である。刺さらないわけがなかったのだ。

ちなみに

「青春狂走曲」を含むこちらの「東京」も紛れもない名盤です。

さらにちなみに、初期メンバーである丸山晴茂さんは2018年に47歳というワタクシと同い年のタイミングで若くして他界…。

涙なくしては観ることのできない、こちらの動画もご紹介しておきたいと思います。

涙を拭って話を戻すと、サニーデイ・サービスで火をつけられた「フォーク的」なカルチャーに対する興味は、その後も興味あるジャンルの1つとして掘り下げ続け樹状的に広がっていった。

やがてオンボロアパートには、つげ義春先生や貸本時代の水木しげる先生の作品が本棚に並び、松本零士先生の「男おいどん」をバイブルのように何度も何度も読み、トキワ荘の漫画人達を思いながらラーメンライスを食べる。

そしてオンボロアパートに響き渡る、はっぴいえんど。

もんもんもこもこの入道雲です。ぎんぎんぎらぎらの夏なんです。それで僕は風をあつめて、風をあつめて。青空を駆けたいんです。青空を。

今更こんな東北おじさんが語るまでもない伝説の「日本語」ロックバンドもまた、「六畳間に住む四畳半フォーク気取りの貧乏学生」の風街ろまん溢れる新潟生活を彩ってくれたのだった…。

…。

はい、以上、今回の「音楽夜話」で御座いました。

本当は「はっぴいえんど」も1ネタどころか、松本隆さんと細野晴臣さんのこと書き出したら、シリーズ化しなきゃいけないぐらいの量が書けそうなぐらい「想い」が溢れてくるアーティストではあるんですが、フォーク的なジャンルとしてサニーデイと共に語らせていただきました。

どっぷりとモラトリアム(執行猶予)の沼にハマっていた大学時代。まだまだ音楽ネタは尽きません。次はどのシーンを、何の曲を、どのココロ震わせたタイミングを書こうかしらん。

それでは皆さん、また次の「音楽夜話」でお逢いしましょう。

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