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観劇『ルードヴィヒ〜Beethoven The Piano~』感想


はじめに

10/29(土)18:30開演


初日を観てきました!

観劇した夜はあんなに身体が痛くて重くて眠りたくても脳はフル回転し続けていたのに朝起きたら身体は軽くなったけど脳の中で消化不良蓄積されたものが溜まっていて重すぎる

「疲労困憊供給過多」(声に出して読みたくなる日本語)という8文字が心の底から大好きなのだけどこの舞台はまさにそれでした....

(いつものやつ)
なんとか言語化することで気持ちを楽にしたいな〜くらいの感覚で自分用のメモとして書き始めていますので、読んでくださる方がいても細かいところはご了承ください

【配信を検討中の方へ】

これを読むかは分からないのですが、配信を買う前にどんな感じか知りたいと知り合いにも聞かれたので一応こちらに記載しておきます
(※ネタバレはないです)
大前提として劇場で観られるなら当日券もあるので浴びに行って欲しいのですが、ご時世的にもなかなかそうも言えませんし、この作品に関しては配信でも是非観て欲しいと思います
舞台上には基本的に1〜3人くらいしか役者さんがいないので比較的他の作品よりは配信でも全体的な演技を観られるのではないかな?と思います!

HPのあらすじは本当に作品の冒頭部分なのですが一応引用させていただきます

残り少ない人生を前に書かれたベートーベンの1通の手紙。そして、その手紙が一人の女性の元へ届く。聴力を失い絶望の中、青年ルードヴィヒが死と向き合っていたまさにその夜。吹きすさぶ嵐の音と共に見知らぬ女性マリーが幼い少年ウォルターを連れて現れる。

マリーは全てが終わったと思っていた彼に、また別の世界の扉を開けて去っていく。新しい世界で、新たな出会いに向き合おうとするルードヴィヒ。
しかしこの全ては、また新たな悲劇の始まりになるが…。
ミュージカル『ルードヴィヒ』公式HP


少し暗さもありますし激しさを感じる舞台ですが、その中にある希望の光に心の一部でも救われる気がします
特に現代を生きる女性には(勿論男性にも見てほしいですが)マリーの姿に勇気付けられるはずです!

おすすめポイント
・役者の熱量が凄まじい
→主演の中村さんをはじめ、これを毎日やるのか...?マチソワは大丈夫なのか?と不安になるくらいのフルパワーを体感できます
・舞台セットが面白い
→プレイハウスに5人の役者なのでセットがかなり面白く工夫されています!使われ方を見るだけでもなかなか楽しいと思います
・作品はそこまで難しくない
→アーカイブなしの配信なので作品内容の難易度を心配される方もいらっしゃるかと思いますが、役者の演じ分けも上手く、戯曲としてもそこまで複雑さは感じないです
ただかなり受け取る側もエネルギーを使うので、よく寝てご飯しっかり食べてから挑むことをおすすめします😂

配信情報やチケット購入方法などはリンク先の公式HPをご確認ください!

【備忘録】

私のメモです
「静寂に音がある」とする戯曲はもれなく全て大好き人間なので、それはそれは大好きでしたが、色々覚えておきたいことがあるので書き残し
(※この先作品内容に触れていますのでご注意いください)

・休憩なし120分

プレイハウスの広さを活かした演出とメイン5人+生演奏の狂気のようなエネルギーに圧倒されて全身で浴びて全霊で受け取る舞台“休憩なし”2時間が重要すぎた...この熱量と異常なほどの空気感はどこかで切れたら受け取り切れないと思う

これが真っ先にツイートした感想だったのだけど一晩経っても絶妙すぎるなその時間

演劇作品で一幕120分はコロナ禍特に何回かあったのだけどミュージカルでは初めて
幕間がないとその分の空気感は続くけど集中力はそうともいかないはずで、客席を掴んだまま走り切る舞台にただただ感動した
ミュージカルは歌う分台詞よりも言葉として伝えられる要素が短くなるからその時間内でどうやって話を展開させていくのだろうと始まる前は思っていたけれど、台詞から流れるように歌が始まったり、ハイライト的な脚本だったりと中身はかなり密度があった
特徴的なのは間に一度も拍手がなかったことだと思う
そこがどこか音楽劇に近いような気もしてミュージカルだけどミュージカルではない感をより強めていたな〜

・音楽

「耳障りが良いのにひたすら不穏」と思いながらもいくつかの曲が今も流れている
ベートーヴェン自身が残した曲も効果的に使われているけれど、作品のために作られた曲がとても良くて好きでした
歌い上げる曲よりは語るような歌が多くて台詞歌みたいだなって思った
ルードヴィヒの耳が聴こえないと気づく時の叫びの後に入る音楽はテンポが一気に切り替わり突き刺すような細いピンスポが交わるようにルードヴィヒを囲い込むのすっごい良かった......めっちゃ痺れた......
中村さんの踊り始めるのかと思ってしまうような身体の切り替えが秀逸

・葛藤

中村さんの演技で特に好きだなと思ったのが切り替えの巧みさなのだけど、明るさを感じると思えば一気に闇を見せて、激しくなったかと思えば消えてしまいそうな儚さを纏って.....みたいな場面が多かった
「やめてくれ!」とかなり声を張り上げた後に溢すような「辛いんだ....」はその葛藤の深さが見えてくるし
「やりたいんだ音楽を」「僕の耳を返してくれ」も語気と表情の差異によって受け取り方が異なる気がして、こっちまで泣きそうだった

・ルードヴィヒを描く複数の役者

韓国版とはまた演出が異なっているようなのですが、ルードヴィヒという存在を描くにあたって3人の役者の演じ分けが素晴らしく良かった
メインは中村さんなのだけど福士さんや大廣さん(初日のキャストは大廣アンナさんでした)が組み合わさることで、ルードヴィヒの中での心情の変化や過去と現在の葛藤などがわかりやすかった
中村さんと福士さんの声質が似ているので同時に歌っていると混ざり合う感じがとても良くて、本当にルードヴィヒという一人の男を二人で創り上げている感が強まってた
ルードヴィヒという人物が主に描かれているけれどその演じ分けと役者の使い方が面白くて、その複雑さが世界を広げていたし、より狂気的で密度が濃いのに定まらない1人の男を作っている気がした

・神と才能

幼少期は「モーツァルト」の存在に囚われて、ずっと神を否定していたけど
耳が聴こえなくなり、マリーの言葉で、神が与えた音楽が内側に眠ると知って(神が与えた才能に見向きしないから耳を聴こえなくしてそれに気付かせたという風に解釈して)神を肯定するようになる
この場面が運命の受諾だなと思ったし希望のようでなんとも言えない怖さがあった
そこから神に依存している気がしていたのだけど、「神が与えた息子」という台詞で確信に変わりました.....1度死んだがより強く迫ってくる
“カールを第二の自分“にし、自身の運命と重ね合わせることで自分を肯定する方法を選んでいるのかなって思いながら観ていました

・繰り返して青年は

自分があれだけ嫌だと思っていたことをカールにしてしまうルードヴィヒ
父親の夢を託されるようにして「モーツァルト」と比べられ厳しいレッスンに励み、自分はモーツァルトではないと散々否定していたのに、気づけば「ウォルター(才能のある少年)」とカールを重ね合わせかつての父のようになっていた
そこにはウォルターを死なせてしまった自分の責任の免罪符にしたいという思いもあっただろうし、自分自身の運命を肯定したいという気持ちもあったと思う
だからこそ「お前は何がしたいんだ!」と問う場面はなかなか辛い

ルードヴィヒは何度もピストルを持ち上げたけど結局引き金を引くことはなかったし、カールは引いてしまった
そこに2人の差が見えたけど、才能というギフトは「音楽が好き」だから辞めることはできないという足枷でもあって
ルードヴィヒが見えない足枷に縛られて死ぬことすら許されず苦しみ続けることを思ってしまう

・表裏一体

凄く私の中でキーワードだなと思っていて、劇中で何度も対極の表現を並べたりするし、「コインの裏と表のような関係」がルードヴィヒの世界には多かったように思う
最初の方の1曲1場面にその対比ワードが多かったけど全体を通じて描かれていたように思う
「全てを賭ける 演奏に賭ける 命を賭ける 戦争のようだ〜(な〜)」(どっちか分からないや確かゲネプロに流れてた気がした)
って歌詞がリズム的にも印象に残っているのだけど、これが自分の中で勝手にリプライズされた場面があって
「音楽“なんか”をやめて、お前は何がしたいんだ?」
と問われたカールが、躊躇いながらも
「軍人....」
というところ
ルードヴィヒはこの時すでに表情と口の動きでしか言葉を理解できないから、「はっきり顔を見て言え!」と苛立ちを含みながら口角が引き攣っていて、カールは何度も軍人と繰り返し、怯えるようのそれでも次第に語気が強くなって遂には正面きって「軍人!」という
私の脳内では“音楽”に全てを捧げているルードヴィヒと“戦争”に捧げようとするカールの構図が互いが本当に対極にいる感じを引き立てていてたまらなかった
音楽と戦争は対極なようで実際はかなり密接だったしその点も
「音楽なんか」と言われて激情していたけどルードヴィヒも「よりによって軍人」と言っている点から表裏一体な考えなんだよな

・マリーと現代の女性

この作品は勿論ルードヴィヒが主演でそこを中心に描かれているのだけど、1番共感できるのはマリーだった
「女の服を脱いで生きる」ことの難しさや現代でも変わっていないところが浮き彫りになっていて、鎮魂歌のようなマリーの歌声に涙したけど
どこか私もまだ願うだけの時代を生きてはいないか?と思わされる
何度考えても今は令和で私は女性で......と悔しさに近い感情を抱いてしまう
だからこそ、彼女が託してくれた未来を生きる人間としてこれから生きていきたい
諦めることの強さも彼女からもらった
本当に素敵な女性
最後が彼女のセリフで終わるのも好きだった
壮大なラストではないけれどこれが真に伝えたかったことなのだなと思えたしリアルに受け取れる

【感想】

・演出・セット

キャスト5人+生演奏2人と少数精鋭にも関わらずプレイハウスという舞台なのが、まずすごいなと
演出もシンプルで脚本も120分に無駄なく収まっている(少し長いって思ったシーンもなくはないけどそこまで気にならない)セットもほとんど転換なく大掛かりなものも少ないが、それがまた良かった

階段が五線譜になっていて、ルードヴィヒの楽曲が披露されるたびにそのイメージの色で光るのが遊び心もあって面白い

ほとんど常にセットは固定で置いてあるけど盤が回ることとか上下を使うことで場面転換もスムーズに感じたし、あまり暗転がないのも好きだった
その分役者さんは着替えも含めるとかなり出ずっぱりな120分だと思うけど途中で液体を実際に飲んでいたので少し水分は取れているのかな....と思えた

劇場に入るとまず目に入るのが中央に置かれたピアノなのだけど、実際の演奏は下手で行われており、木暮さんすごすぎる......
最初は見えなかった2人の演奏者もセットの壁が移動することで現れて、その後ろのステンドグラスのような窓も素敵な色合いだった

なんと言っても薔薇の花弁凄い!ってなったのだけど、あれはルードヴィヒの感情の爆発でもあったしカールの血潮でもあったのだろうな

座席がかなり前方だったので見上げる形で目に入るのが、吊るされたピアノの階段
いつか降りてくるのだろうかとか考えていたらまさか崩れるなんて.....調律されたピアノを吊るしていたあまりにも細い紐が弱く脆く儚かった

終演後、規制退場を待っている間に放心状態で舞台を眺めていると残された薔薇の赤さが目に入る
それが残されたルードヴィヒの“曲”にも“想い”にも感じられる
また、ピアノのカバー覆っているのは黒で内側が赤いのも良いなって思っていて、ルードヴィヒの内側には常にローズガーデンがあったのだなとも思える
舞台上部のスクリーンにも赤いローズが映されていたのを思い出しながら彼のバックボーンを思ってまた泣きそうになった

・キャスト

中村倫也さん
舞台は新感線の2作でしか拝見していないので、ミュージカルの中村さんは初めてでした
絶叫が凄すぎる
毎日やっていて声は大丈夫なのだろうかと思うほどの叫びだけど喉の使い方が上手いんだろうなちゃんと言葉が聞き取れる
歌が上手いというより芝居歌が素晴らしく上手い人なんだなと思って、アラジンとかで聴いていたものとは全く異なるから、歌っている場面によって声質から変えてくるのめちゃくちゃ良かった
演技は、ルードヴィヒの表裏一体な感情や現状をただ叫ぶだけじゃなくて、絶望を静寂に変え、その中に音を見つけて内側に激ってるものを吐き出すのが素晴らしすぎた
歌がただ上手い人じゃなくて芝居が上手くて歌も歌える人がやる方が良い役に思えた役柄だったから中村さんハマり役だなって

演出的にも見せ場が多いし、照明や音楽との相乗効果でとても美しいシーンもあるのだけど(「運命!」ってところも好きだけど背中が特に好きだった)
個人的には激情や見せ場だけじゃなくて、銃を持つ方の手が小刻みに震えている仕草とか、視線だけじゃなくて眼球全部使った演技とか、場面に合わせた髪の毛の乱し方とか細かい役作りとかちょっとした動きが刺さったな
髪の毛本当にすごいなと思って、かなり出ずっぱりなので、カツラとかに頼らずその乱し方で年齢や状態を表現しているのすごいわ....演出としても役者さんとしても

こんなにエネルギー放出して絶叫しまくる役者さんなのにカテコではまた違ってて、全体の雰囲気が良いので素敵な座長さんなんだろうなって思って見てました😌

木下晴香さん
あなたに出会えた人生で本当に幸せです
生きてて良かった
以上

と言いたいくらい本当好きなんです
一声惚れしているのでそりゃあ歌はもう大好きなんですけど演技もストプレや音楽劇を経て一段と深みが出ているし、紅一点の存在感と説得力
こんな晴香さん観たことない!って姿から大好きな姿まで盛りだくさんで.....男装が見られる日が来るなんて手足長いしお顔小さいからめちゃくちゃ似合う
マリーだけは、マリーという女性をずっと演じているのだけど、あまり彼女の辿ってきた道は語られないのに、夢と希望だけではない「諦めの先の光」を与える人物としての説得力が強い

ウォルターが亡くなった知らせを読んでいる時の回っていく盤の上で啜り泣くのが聴こえて、この演技.....めちゃくちゃ好きなやつ.....やばい......とわりと冒頭から泣いていた
特に印象に残っているのが「私は戦う準備ができているのに馬鹿な男達が私と戦う準備ができていない」(ニュアンス)という台詞
どのシーンでも意志が強く現代にも繋がっている女性の状況だとか葛藤を表現しているけど、この台詞が吐き出された瞬間、一気に涙が溢れた
それまでも彼女の強さが眩しくて涙腺緩んでいたけれど、そこで一気に腑に落ちたというか心臓ギュッと掴まれた

福士誠治さん
今回1番大活躍なのではないか!?ってくらい役幅と説得力がある
福士さんの演技力と歌唱力があってこその舞台だったなとこうして感想を書きながらもずっと思っている
晩年ルードヴィヒ、ルードヴィヒ父、貴族
、カールと年齢も立場も異なるのに多少の衣装の違うだけでまるで別人
最初に晩年のルードヴィヒとして語るときの声が福士さん!?となるほど、年老いていて驚かされるし、父と貴族でもまた違う声なんですよやばくないですか??って言って回りたいくらいすごいんですよね
特にカールは、中村さんの甥っ子にちゃんと見えるのだからどちらの役作りも凄いし、改めて役を生きる人を尊敬した

一部ストーリーテラーでもあるし、全体の調和を取るような存在に見えて、破滅の存在でもある立ち位置を生きていて、観客としてただただ唸るしか無かった
歌の安定感もそうなのだけど、場面を作る安定感もあって、韓ミュの不穏さを生み出してる.....と思ってた
スリルミーでもそうだったけど相手から向けられる巨大感情に対する演技が秀逸すぎて大好き......でも本当に辛そうだし1番息が苦しくなってくる演技だった

大廣アンナさん
観劇後のツイートでこの役作りで髪を切られたと知り、子役さんまでプロすぎる......と思っていたのだけど演技は大人顔負けだった
髪型めちゃくちゃ似合ってますし可愛い...!!
想像以上に出番が多いし、役が変わるので衣装替えもあるし、役的にかなり動きかなり怒鳴られる
客席で観ていても辛いのに真横であんなに怒鳴られて、ピアノ叩かれて、メンタルは大丈夫なのだろうかと少し心配してしまうくらいなのだけど、怒鳴られているところから怒鳴る側に回る瞬間とかの憑依の仕方が素晴らしすぎて余計な心配なのかもしれないと思った
なんと言っても声がめちゃくちゃ綺麗でよく通るし台詞も聞き取りやすい
台詞のない場面でも存在感があって印象に残る役者さんだなと思った

終わりに

初見の感想をとにかくまとめてからじゃないと他人の感想読みたくない人間なのだけど、自分自身の次回観劇が迫っていて駆け足で書いてしまいましたが、また最後の観劇の時にも改めて書きたいな

読んでくださった方へ
他人の目を通じて観えた世界とか解釈を知るのが大好きなので、良ければ感想送ってください!!!

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