金の力は1列1枚

金は大事。おカネじゃなくて、将棋のキンのお話。

将棋の終盤では、金の役割が大きい。銀より安い駒は、全て成ると金になるのはみなさん知っているだろう。将棋では、終盤戦になると、金が増えるのだ。たくさんある駒は使う機会が多いのが道理。金の使い方を意識して押さえておくと、盤面整理の仕方がうまくなる。

基本の金の使い方を考えていこう。金の使い方の基本といえばこれが真っ先に浮かぶ。

もっとも基本的な詰み形「頭金」
▲5二金で詰み

知らないひとは普通の将棋入門書を読んでから、また来てほしい。そのくらい有名な「頭金」の図だ。
この詰み筋が何を示しているのかを考えていきたい。2つの教訓を見出せると私は考えている。

一つ目は、サポートする駒、される駒の構図があるという点。これは詰将棋の解き方でやったやつだ。飛び道具を使った特殊なパターンを除いて、相手玉を詰ます際には、最低2枚の駒が必要となる。頭金の場合でいえば、歩がサポート、金が決め手の駒になっていると分解できる。サポートの駒を代用しようとすれば、応用も利く。玉の真上に利いてさえいればほかの駒でもいい。桂から馬まで、たいていの駒がサポートに回れる。決め手の金については、代用が利きづらい。金の代わりに香がいても角がいても全然詰んでいない。あえていえば馬と竜。しかし、より強い駒を使うときには、頭金の形を作ろうという意識は働かないだろう。主に、持ち駒を使うときの話を想定している。

もう一点、金のコントロール力について。こちらが今回少し深掘りしていきたいテーマだ。重要な割には言及された言説が少ない、またはないと思う。

玉を詰ますときには、相手玉を押し込むイメージで語れると私は考えている。頭金の図でいえば、押し込む駒は金で、1段目にいる玉を、1列分押し込んでいて詰みになっているのだと見立てられる。これを、金は1列分コントロールできる力を持っていると言おう。
金1枚で1列分のコントロール力なら、金2枚で2列分。つまり、こういうことだ。

▲5三金として、△6二玉には▲6二金までで頭金に持ち込める

金2枚持っているので、2列分、押し込める。相手玉も二段目にいると2列追い込めば土俵際まで追い込めて、簡単に詰むと分かる。腑に落ちるだろうか。とりあえず、そういうものだと納得はしていただけたのでないか。

持ち駒金4枚でも同様。四段目の玉は金4枚にサポートがあれば詰み。金10枚でも100枚でも理屈は同じだ。金を10枚も持つことはないし、玉が九段目より外にはいくこともないが。


横の形に変形して考えてみるとどうだろう。

1三歩があるときは
▲2二金で詰み

詰みの図として紹介するため、1三に逃げられないようにしてある。上に逃げられると詰まない。

上に逃げられないという条件付きではあるが、それさえ問題なければ同じように金を使った1列1枚のコントロールが効いて、端まで追い詰めれば詰みとなる。将棋用語で「腹金」という。不完全なコントロール力は気になるものの、歩が邪魔をしている場合は多いため、実戦的には結構使える考え方でもある。

応用ができるようになれば、次の詰みは、簡単であると思えるようになるはずだ。

▲5二金、▲5三金から王手していけば詰み

以上、金のコントロールについてみてきた。金を使って話をしてきたが、と金も成香も成桂もコントロール力については同じである。成銀も同じだが、銀についてだけは、成らなくてもそれなりに強い。

それでは銀に同じ力があるのか考えてみよう。同じく、頭金の応用図から。

▲5二金なら詰みだが銀を打っても4二、6二に逃げられそう。

厳しい攻めに見えても、詰んではいない。この場合、頭金の応用で詰ますには、サポートが歩ではだめ。例えばこの形なら詰みだ。

5三の駒を銀に変更。これなら4二、6二に逃げられない。

つまり、サポートの駒も十分に強ければ、金と同じように1列1枚のコントロール力を発揮できるといえる。逆に、十分強いサポート駒との連係が取れないと逃がす結果に終わる。

横の攻めについても同じで、適切な連係が求められる。下図の例では、金をとどめに残せば、銀を使って、1列1枚で追っていける。

▲5三銀から追っていって詰み(ただ2一桂がいないと、詰みはない)

銀は金よりも不完全ながら、うまく引き出せれば、同じく1列1枚のコントロール力を持っているといえる。

手持ちの金銀でどこまで押せるかの感覚が体になじむと、持ち駒の量から、現在の支配力、コントロール力を計算できるようになり、長手順でも「追い詰め」が使えるようになる。追い詰めは、金銀のコントロール力を用いれば明らかに詰みである場合に使われている将棋用語だ。
もし詰みまでなくても、どこまで追えるかの目安になる。3筋に玉がいて、金が3枚あったら、端まで追えそうだなと判断できるわけだ。4回追うなら4枚。その前提を持って、逃げられる可能性をつぶしていくという思考ができる。

最後に、実戦で使う例を上げようと思っていたら、たまたま見ていた動画にいい例があった。女流棋士の西山朋佳先生がネット将棋を指す動画で、「詰みそう」と判断するシーンを紹介しよう。

【西山無双 中飛車編】西山朋佳女流二冠が将棋クエスト2分切れ負けで無双する動画
https://youtu.be/tI0V9sErnbw?t=580

おそらく、7手後の金銀3枚取れるところまでは西山先生は読んで、「おそらく詰み」と判断していると思われる。4七に銀がいて、相手玉は3段目。3、4、5段目を3列を的確に支配できれば詰みになるはずだ。持ち駒には金銀3枚あり、ちょうど足りている。先生の中では、すでに金銀のコントロール力を直感で判断して、踏み込んだわけだ。
実際詰んでいたものの、本譜は時間を使わないよう、包囲網の外に逃がさないようにする確実な勝ち方を選んでいた。おそらく途中、▲5四歩に△6四玉のところか、読みを外れたのだろう。詰み逃しをしたために西山先生は反省されていたが、アマチュア的にはああいう逆転は許さない指し方も勉強になると思う。一工夫いる20手以上の詰みは、私くらい(クエスト六段)では逃して当然の難易度である。

ちなみに詰み筋は終局後に示してくださっていて、それは金銀で押すよりも竜を生かす詰み筋だった。今回の記事で言っていきたいような、金銀で押していく詰み筋もあった。

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