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湯宿温泉 男二人旅②〈終〉【ひなびた温泉~湯本館と金田屋旅館】

<前回はこちら>

私 「『好きな温泉地は?』って聞かれると『湯宿ゆじゅく』って答えちゃうんですよね。自炊出来るところがあれば週単位で湯治したいくらいです」
K 「私もです。住みたいくらいです。宿だと中生館(四万温泉)なんですけど、温泉街を問われると湯宿になります」
私 「Kさんに勧められて中生館行きました。最高でしたよ。内湯も離れの露天も」「湯だけなら金湯館(霧積温泉)とか松渓館(松の湯温泉)の方が好きかもしれません。でも温泉街となると湯宿なんです」

 投宿はKさんの定宿であり、湯宿温泉の本家である「湯本館」。私は分家にあたる「金田屋かねたや」を定期的に湯治で利用していた。両宿の源泉は別、私たちは『街』としての湯宿に惹かれていたようだ。

 チェックインを済ませ、部屋の縁側のテーブルに着座をすると温泉話は尽きない。

湯宿温泉の本家 「湯本館」
私の湯治の拠点 「金田屋」

K 「何が好きかって言われると答えられないんですけどね。今回も誰ともすれ違わないでしょう」
私 「ですね。毎回一緒なんですよ。風呂入って、やまいち屋でそば食って、石畳散歩して、大滝屋のダブル看板の写真撮って、金田屋の親父さんと喋って帰る。何も起こりません」

 私は毎年3~4回金田屋で湯治をしている。病が悪化すればするほど湯宿が恋しくなり、ただでさえ孤独なのに、更なる孤独を求めこの寂し気な温泉街を訪れるのだった。それはまるで、宿業しゅくごうと向き合うかのように・・・

K 「それじゃあ私、散歩に出てきます」
私 「撮影会ですね」
K 「何枚撮っても同じなんですが、毎回同じ画角で温泉街の写真を撮ります」
私 「高尚なご趣味で。行ってらっしゃい」

つげ義春氏『ゲンセンカン主人』の舞台となった大滝屋
温泉マニアの聖地

 何もない温泉街。5分もすれば一周できてしまうが、Kさんは30分して戻ってきた。ベタベタするのが嫌いな二人、互いに心緒を見透かしたように一人の時間を作る。ノンストレスの旅が心地よい。体が冷えたところで、湯本館大浴場へ向かった。私は実に5年振りの入浴だった。

私 「あれっ、そんなに熱くないです。加水したかな」
K 「外気かも知れませんよ。誰もいませんし」
私 「相変わらず美しい析出物。これずっと窪湯源泉だと思っていました」
K 「ここは洗湯源泉です。湯宿でここだけですね」
私 「香りも湯触りも窪湯と微妙に違いますね。素晴らしい湯で」

 湯宿温泉の源泉は60度近い。全身を紅潮させ、修行の如く激湯を耐えるのが通例だ。だがこの日は予想に反し適温であった。

湯本館の大浴場 激熱で知られる
芸術的な析出物

 国道17号沿いにある湯宿温泉だが、法定速度で走っていても見落としてしまうほどその存在は陰に隠れている。現に私は温泉にハマり始めた頃、この温泉街に気付かず何度も素通りしているのであった。

私 「10年前はミーハー丸出しで、この先の法師や川古に行ってました。泊りは猿ヶ京の樋口とかにして。でも混浴で〇×に遭遇してしまってからあの辺りは行くのをやめました」
K 「私もほとんど行きません。行くならぬる湯の旅館メメですね」
私 「あー、あそこですか。対岸のメメメメ温泉がやっている」
K 「あそこならほぼ貸切ですからね。招かざる客もいない」
私 「今は雪で無理ですかね。アイスバーンしてたら坂登れません」

私 「群馬の泊りはほぼ金田屋さんになりました、あとは沢渡龍鳴館、たまに老神の楽善荘。あそこは湯というより、女将さんと舞茸ご飯という感じですが」
K 「老神は亀鶴旅館と東秀館が湯使いが良いです。ほら、Nさんも行ってますよね」
私 「あの方も外さないですね」
K 「総本家(赤城温泉)もボロくていいですよ。食事も素晴らしいです。環湖荘(丸沼温泉)の湯もお好きだと思います」
私 「なんでも知ってますな」

私 「四万ははつしろ旅館さんには随分お世話になりました。あそこは平日4千円(別)だから、御夢想~河原~上之湯と回ってからインしていました。もう湯巡りはしないので、あまり行かなくなりましたが」
K 「竹葉館、やめちゃったっぽいです。協会のHPから消えていました」
私 「あーあ、いつか自炊湯治しようと思ってたのに・・・」

知らなければ見落としてしまう湯宿温泉
夜の街を歩くと心と体が分離していくような感覚に陥ります

K 「お身体大丈夫なんですか?」
私 「もうスクラップですよ。薬が強くなって、行くところまで行って、それでも効かなくて。痛くて痺れてどうしようもないです」
K 「私も不眠症です。薬持ってますよ。温泉に来ている時だけは大丈夫なんですよ。今日は眠れそうです」
私 「相身互い。何とか体を治したくて湯治を始めて、最初が湯宿でした。金田屋のご主人は碩学で愛想が良いから、何でも教えてくれるんですよね。湯治のことは洋一さん(館主)から教わりました」


 結局Kさんと私は一泊二日の間に8度も風呂も入り、ろくに観光らしきこともせずこの旅を終えるのであった。ストレスフリーの旅、別れ際もあっさりしたものだ。

K 「結局誰ともすれ違わなかったですね」
私 「おかしいですね。湯本館と金田屋の駐車場満車だったのに」
K 「湯宿はもっと人気が出ても良いと思っています」

私 「共同浴場が復活すれば、、(※湯宿温泉の4つの共同浴場はコロナ以降地元民のみ入浴可)」
K 「ウェイが来ても困りますが」
私 「まあ、女子4人組がジャンプする日は来ないでしょうね」

共同浴場 「窪湯」
共同浴場 「松の湯」 ここだけ南京錠

私 「また今度。沢渡さわたりでも良いですし、みよしの(片品温泉)も良かったです。食事はプラスチックの容器で給食みたいでしたが」
K 「釈迦源泉、湯は最高ですからね。あそこなら加羅倉館からくらかん(白根温泉)も行けますね」
私 「一番泊まりたいのは常盤屋旅館(※湯宿温泉、つげ義春先生の定宿)なのですが、」
K 「もう一見は入れてくれませんね」

K 「中之条に強烈な焼肉屋があるんですよ。私も入ったことないのですが、結構激しい感じです」
私 「おっ、よろしいですな。鳩の湯温泉の三鳩樓さんきゅうろう(浅間隠温泉郷)まだやってますかね?10年近く行ってないですが、あの時点でかなりハードでした」
K 「まだやってますよ。中之条から行けますね。冬場は寒くて風呂入れませぬ」

私 「また変な店見つけたら教えてください」
K 「それじゃまた」

                              おしまい

金田屋旅館前 若山牧水歌碑
湯本館中庭 洗湯源泉
開湯1,200年 真田信之も愛した名湯
定期的にこの街へ

<金田屋旅館紹介記事>

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