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【番外編】Mさんとの対話:資本論をめぐる妄想 第1話

資本論という本を書いているMさんの家にお邪魔して、ちょっとその内容についてお伺いしてみました。
Mさんの本って、めちゃくちゃ読みにくいです。だから、内容を直接ご本人に聞いてしまおうと思ったのでした。そうしたら……。

※本稿(第1話)のやり取りを理解すれば、
資本論 第1部 第1篇 第1章
第1節 商品をめぐる2つの価値-「使用価値」と「価値」
の内容を把握することができます(おそらく)。

◇◇

1/3 商品の中に含まれる「労働」

私:こんにちは。ちょっと資本論の内容についてお聞きしたいのですが。
Mさん:なんですかあなたは。
私:Mさんの大ファンです。
Mさん:そうですか。では何でもお聞きくださいい。
私:ありがとうございますー(話が早すぎる)。
タイトルを見たのですが、一番最初に「商品」の話を持ってきたのはどうしてですか。
Mさん:資本主義社会の富は、商品の巨大な集まりとして存在しています。なので、まずは「商品の分析」から始めなければ。

私:そもそも商品って何でしょう。。
Mさん:簡単に言うと私たちの欲求を満たすものです。
人の欲求は様々で、時にそれは胃袋から湧き出たり、想像から生じたりもしますが、違いはありません。
ところであなたは、商品に対してどんなイメージを持っていますか。

私:うーん、何かしら私たちの役に立つもののような気がします。
Mさん:その通りです。さすがですね。役に立つものは使用価値となります。そして使用価値を持つものは、交換価値も持ち、商品になります。つまり、使用価値を持ったものだけが商品になりうるのです。

私:なるほど、たしかに使えないものを誰も交換しようとは思いませんね(多分)。
Mさん:使用価値は、さまざまなレートで別の使用価値と交換されます。
例えば小麦は靴墨や絹、金などの商品と交換されます。

それは、例えばこういう等式で表すことができます。
1クオーター(約290リットル)の小麦=1ゼントナー(50キログラム)の鉄

私:一つ疑問なのですが、小麦と鉄の交換レートはどうやって決められるのでしょう。鉄は食べられませんし、小麦は鉄のように固くはありません。お互いの価値を図るのは難しいですよね。
Mさん:さすがいい質問です。異なるもの同士の価値を比較できるのは、例えばこの2つのもの――1クオーターの小麦と1ゼントナーの鉄の中に、共通の何かが同じ大きさ・同量存在しているからです。

私:その共通の何かが今回の肝になるんですね。
Mさん:さすがですね(また言われました)。で、交換価値には、実は使用価値は含まれていないんです。

私:どうしてです?
Mさん:交換する際には、ものの量で価値が図られるからです。
私:そうなんですね(よくわかったようなわからないような。私が質問をはさむ前にMさんは話を次に進めました)。

Mさん:使用価値を取り除いたものには、それが労働によって生み出された、という属性だけが残ります。
私:労働ですか。なんだか資本論っぽくなってきました。

Mさん:(うなずきながら)ところで、ものから使用価値を切り離すと、ものが持っていた感性的性状もすべて切り離されてしまいます。
私:感性ですか。

Mさん:たとえば食事をするために使うテーブル、家族が住む家、服を紡ぐための絹、などといった「ものの性状」です。
私:テーブルや家や絹が、テーブルや家や絹ではなくなるんですか。
Mさん:そうです。
私:へえ。

Mさん:そしてそうなると、テーブルや家や絹を作った労働の種類(指物、建築、紡績など)も消えてしまいます。つまり、労働が抽象化されるわけです。その結果あらわれるのが、
私:もしかして…
Mさん:そう、それが共通の何かなのです。
私:やっと出てきました。

Mさん:(うなずきながら)商品に含まれる労働は、このように区別のつかないものに抽象化されます。これを抽象的人間的労働といいます。抽象化された労働が、異なるもの同士の価値を測る共通の基準となるのです。
私:なるほどそうなんですねー(わかったようなわからないような)。

2/3 ものの交換価値は労働時間で決まるんじゃ

(数日後)
私:こんにちはー、またやってきました。あれ、Mさんは?
Eさん:ちょっと用事で出かけとるわ。意外とあの人は忙しいねん。私が代わりになるんじゃけど、どうすっか?
私:あなた誰です。
Eさん:たぶん、私よりも資本論のことを知っとる人はおらんじゃろ。

私:じゃあ、抽象的人間的労働について教えてもらえますか。
Eさん:いい感じのジャブじゃな。生産物は商品となり交換される際に、使用価値が捨象されるんじゃ。使用価値がなくなるとともに、労働の感性的な部分もなくなるんよ。そして労働は抽象的人間的労働というものに還元されるんじゃ。これが労働力の抽象化じゃわ。

私:おお、確かにわかってらっしゃるようですね。
Eさん:抽象的人間的労働って、まぼろしのようなもんじゃ。じゃけん、それが商品の価値になるんよ。
私:まぼろし…いいこと言いますね。
Eさん:使い道のあるもんには、交換する価値があるわ。まったく違うもの同士を交換するときに、共通した基準となるものとして、抽象的人間的労働があるんじゃわ。それで、商品の価値が決まるんよ。

私:商品が交換されるときの価値は、使用価値とはまったく独立したものとして表れるわけですね。じゃあ、価値の大きさはどのように測るのですか。
Eさん:なかなかいいとこ突いてきたな。それは、そのものの中の労働の量で決まるんよ。そして労働の量は、かかる時間ではかるんじゃわ。
私:労働時間ですか?
Eさん:そうじゃわ。

私:え? それじゃあ、労働者が怠け者で未熟であればあるほど、生産には多くの時間がかかりますよね。それでその商品の価値が高くなるなんて、おかしくないですか。
Eさん:実際にはそうならんわ。
私:え?

Eさん:社会で必要とされるより多くの時間をかけても、価値は上がらんのじゃ。
私:どうしてですか?

Eさん:この社会の無数の個人的労働力は、社会的平均労働力という均質な塊となってしまうんじゃ。
私:(また難しい言葉が出てきました)

Eさん:例えば、イギリスでは、布を織るのに必要な時間が30分やったとしよう。
手作りだったら、1時間かかったんじゃけど、機械(蒸気織機)が入ってきて、半分の時間でできるようになった。だから、価値も半分になったんじゃ。
私:なるほど。

ところが手作りでやってる人は、まだ1時間かかる。でも、社会的には30分の労働しか認められんのよ。
私:1時間働いて布を織ってもも30分の値しか稼げなくなったということですね。

Eさん:そう、これが個人の労働時間と社会的な労働時間の関係じゃ。ものの価値は、社会で必要とされる労働時間で決まるんじゃわ。同じ時間でできる商品は、同じ価値になる。
私:なんか、労働者がかわいそうじゃ…。(広島弁、うつってしまったわ)

3/3 商品とは、他人に交換を通して渡されるものや

(数日後)
私:こんにちは。
Mさん:お、こんにちは。
私:今日もよろしくお願いします。
Mさん:がんばる生徒やな。ほんま、ええことやわ。
私:?? なんかイントネーションが前と変わっていませんか。
Mさん:そうかな? たぶん西に行ってたせいちゃうかな。
私:西に何を?
Mさん:それは言えへんわ。前はEさんが、労働時間の話してたやろ。
私:そうです。
Mさん:じゃ、そのつづきからやな。 

社会的労働時間ちゅうもんは、生産力が変わると、それに合わせて変わるんや。
畑で同じくらい働いても、豊作のときは、小麦8 ブッシェル出来上がり、凶作のときは4 ブッシェルやけんな。それに、ええ鉱山は、あかん鉱山よりもっと金属を供給できるんや。 
私:たしかにそうですね。
Mさん:例えばダイヤモンド。 ダイヤモンドはめっちゃ珍しいから、見つけるのにたくさんの時間かかる。だからダイヤモンドは小さいのに、その中に労働がめっちゃ含まれとるんや。
でも、もっといい鉱山があったらどないなると思う?
私:多分、少ない労働で採掘できるので、価値は下がるのでは。
Mさん:そのとおりや。労働の能力が上がれば上がるほど、物を作るのに要る時間は短くなり、その物の価値は下がるんや。

私:ところで、商品以外のものには有用性(使用価値)はないんでしょうか。
Mさん:おっ、ええとこ気づいたな。もちろん、商品と関係なくても価値あるもんはいっぱいあるで。たとえば空気とか。 
それから、自分のためだけにもの作る人は、使用価値は作るけど、商品は作らへん。
商品作るためには、自分のためだけやなくて、他人のためにつくることも必要や。それが社会的使用価値ってやつやな。
私:(また「社会なんとか」という言葉が出てきました)他者が肝心なのですね。

Mさん:ただ他人のためだと言ってもダメや。昔の農民は、領主や教会のために年貢の穀物を作ったりしてたで。 
でも、年貢や税は、商品にはならへんかった。
私:なぜですか。
Mさん:商品になるためには、ものは他人に交換を通して渡されなあかんから。それが、社会的な使用価値や。
私:どっちにしても働く人は昔から楽じゃなかったんですね。
Mさん:(うなずきながら)まあどんなものも、有用性がなかったら、価値はないんやけどな。
ものが役立たずやったら、そこに入ってる労働も役立たずや、だから、価値は生まれへんで。 
私:あ、最初の方で言ってた役に立つものだけが価値を生むという話ですか。
Mさん:まあそうや。時間ないから、今日はこれで終わりや。

第1話おわり
つづく?

参考図書等:「資本論」社会科学研究所監修・資本論翻訳委員会訳(新日本出版社)/ Capital: A Critique of Political Economy V. 1 (Illustrated and Bundled with The Communist Manifesto) (English Edition) Karl Marx, Timeless Books / 
https://www.marxists.org/nihon/marx-engels/capital/chapter01/index.htm


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