名野凪咲

名野凪咲(なのなさ) ゆったりと創作世界だけ、書いていく。

名野凪咲

名野凪咲(なのなさ) ゆったりと創作世界だけ、書いていく。

マガジン

  • 365日のてのひら話

    200文字を基本に500文字までの物語。

  • 時交叉の物語

    夢のお話し中心の短編集 ダークなお話し多め。 一話千文字前後。オリジナル小説

  • 悲しみの向こう側

    詩集。

  • オリジナル詩 過去作

  • メモリードール

    自分の事は何一つ忘れてしまった。 本当は何かを知っていたはずなのに。 気が付くと、記憶のすべてを失っていた少女。 青年に助けられた少女は自分の中に響く声に導かれる。 オリジナル小説。

最近の記事

2024/06/01 岩煙草(いわたばこ)

岩に張り付くように生えてる草から、星形の花が咲いている。 「疲れた。休憩しようよ」 その花に目を奪われていると、目の前の同居人が立ち止まった事に気が付かなかった。同居人にぶつかり、さらに足元が滑って見事にすっころんだ。 「何やってんの?」 同居人が笑いをこらえて、私の手を取る。 「あれ。綺麗だなって」 「おお。涼し気だね。ここで休憩しよう」 視線だけで示した花に同居人も目を止めた。 岩にしみ出す水は涼しげだが、したたかに打ち付けた腰は痛かった。

    • 2024/05/23 「ラブレターの日」 

      『好きです。いつも応援しています。』 そこまで書いた手が止まる。他に何を書けばいいのか分からない。好きなシーンはたくさんあり過ぎる。好きなキャラも何人かいる。全部書くとうるさくなりすぎて、無駄に長くなってしまう。 『続きを楽しみに』 そう書こうとして、また手が止まる。重いだろうか。押し付けになってるかもしれない。好きだからこそ、重いことは書きたくない。けど、この気持ちは伝えたい。どうやって? どこまで書いていいの? 「なに書いてるの?」 突然、背後からのぞき込まれて

      • 2024/05/31 麦秋(ばくしゅう)

        「うわぁお。米がもうなってる……?」 同居人の感嘆の声が疑問符で終わった。よく見ると麦だとわかったようだ。 「うん。麦ね。米はまだ無理」 「麦も作るんだ。カビ無いの?」 私はない知識を頭の中から引っ張り出す。そういえば、麦はこの国の湿気ではカビやすいから広がらなかったとどこかで見たような気がする。 「現代技術の勝利?」 私の答えも疑問符だ。土地によっては乾燥していて、麦の方が適しているのだったか。ない頭で考えてもわからない。 「調べるから大丈夫」 同居人も私の足りない

        • 2024/05/22 「禁煙の日(22日)」 

          母は外や換気扇の下でタバコを吸う人だった。別に女性がタバコを吸うのは珍しくはないが、母はそんなタイプには見えなかった。大人しく静かでタバコとは無縁のような人に見える。 対して、父はタバコを吸わなかった。父は肉体労働者でタバコを吸っていてもおかしくないように見える。 「タバコやめる。おいしくないし、高いし」 母がそう言ったのは、たばこの値上げがきっかけだった。吸うと言っても数日に一本程度。それでも完全にやめるには少し時間が必要だった。 今は全く吸っていない。 やめた直後

        2024/06/01 岩煙草(いわたばこ)

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        • 365日のてのひら話
          281本
        • 時交叉の物語
          1本
        • 悲しみの向こう側
          31本
        • 34本
        • メモリードール
          28本
        • SEVEN ~7~
          51本

        記事

          2024/05/30 蕺草(どくだみ)

          ちぎった草から、涼やかな匂いがした。 「ミント……だったかな」 思わずつぶやいてしまう。虫よけにもなったような気がするけど、どうだったろうか。さらに草を刈っていくと、次は独特の何とも言えない匂いがした。 『臭い』になるのだろうか。いや。そこまで嫌な香りでもないような。 ちぎった葉っぱは丸みを帯びていて縁が赤い。 「どくだみだよ」 家に持ち帰ると、同居人が一目でそう言った。 「そのお茶、不味いんだよね。おばあちゃんが好きで作ってたけど、僕は無理」 長々とした説明の後に、

          2024/05/30 蕺草(どくだみ)

          2024/05/21 「探偵の日」 

          「犯人は……」 唐突に指をさされて、思わず「待て」と言ってしまった。 「本当にそれでいいのか? わたしではなかった場合は、誹謗中傷で訴えることも出来る」 探偵はわたしに向けていた指を曲げ、眉を下げた。 「えっと。すみません。もう少し考えます」 薄っぺらい苦笑いと共に部屋の中には安堵の空気が流れる。誰も自分を指さされたくはない。けれど、犯人は見つけたい。できれば『探偵役』の手で。自分の手は汚さずに。 探偵はブツブツと何かを言いながら部屋を出ていった。推理の組み立てを

          2024/05/21 「探偵の日」 

          2024/05/29 星の国(ほしのくに)

          「すごいね。こんなに星が見える」 同居人の言葉に私は「こんなの大したことないよ」と返してしまった。 実際に大したことはないのだ。街の方を向けば、地上の光が強すぎて星は消えている。山側は山で星が隠れてる。天上は都会よりは見えるけど、ここよりも星が綺麗な場所はたくさんある。 「今、もっと山奥と比べた? 都会なんて四方八方が光だらけで、しかもそれが夜中ずっと」 私は同居人の言葉に頷きながら、空を見上げる。 「まぁ。この空は綺麗だね」 そう言うことにしておこう。

          2024/05/29 星の国(ほしのくに)

          2024/05/20 「森林の日」 

          ぼこぼことした地面と、木に付いている新しそうな傷。 森に入る小道をまだ30分も歩いてないというのに、そんなものに出会ってしまった。ざっと周囲を見回して、さらに音に耳を澄ましてみてから、ラジオを付ける。 「帰ろう」 ずんずんと先に行ってしまった同居人に声をかけると、驚いた顔で彼は叫んだ。 「なぜ?」 鳥が驚いて飛び立っていく。 「何かいる……。熊かイノシシか……運がよければ鹿かもしれないけど、でもどちらにしても会わない方が良いモノだよ。ここは私たちの領域じゃないんだから」

          2024/05/20 「森林の日」 

          2024/05/28 小判草(こばんそう)

          ゆらゆらと道端で揺れるそれは、小さな金貨のようだと同居人は言った。 「小判ね」 植物図鑑を手に説明してる同居人は顔を上げた。 「うーん。昔の金貨みたいなものだから、間違いではないけど。金貨は丸いイメージで小判は楕円のイメージ」 そう付け加えると、同居人はポンと手を叩き、何かを言った。向こうの言葉だったのはわかる。けれど、聞き取れなかった。 「こちらにも似たようなお金があるって面白いね」 同居人は面白そうに笑った。

          2024/05/28 小判草(こばんそう)

          2024/05/27 白靴(しろぐつ)

          「たたんっ。るんたったん」 ご機嫌でなにやら歌う10歳児を目の前に、私はため息をつく。 「汚さないでよ。せっかくの新しい靴なんだから。」 子供の足元は真っ白な靴。誕生日プレゼントは何がいいと聞くと、子どもはこれを選んだのだ。 「もう、汚れたよ。これがね。面白いんだよ。ほら、ここドーナッツで。ここはハートで」 嬉しそうにそういう子供の感性を姉は褒めるが、私は全く理解できない。 「ほら、みて。パンダ靴」 汚れを指さす子供に私は脱力した。

          2024/05/27 白靴(しろぐつ)

          書くことはやめない

           長い素敵なお手紙、読ませていただきました。  私も多くの物語に触れました。あなたのように自分を成長させてくれる物語にも出会いました。ですが、私の成長は架空の物語よりも現実に出会う人、現実に出会うもの、現実に起きた事によっても促されてきました。物語の成長は、時に『わかった気になるだけのもの』も多いのです。どうか、『体験』してください。触れて見て味わって感じて、それらがあなたの成長をより強く促します。  また、先生という言葉もありがとうございます。一時の『先生』になれたのだ

          書くことはやめない

          2024/05/26 萍(うきくさ)

          水に浮かぶ草を見ながら、あれは何だろうかと考える。 ここは水田で植えてあるのは、稲だ。しかし、あの丸い葉っぱは稲の苗ではない。ここに稲以外を植えたとは聞いていない。 小さな丸い葉っぱには、ちょこんとカエルが乗っている。 緑に緑なので鳥たちには見えてないらしい。私も目を凝らさなければカエルに気が付かなかった。 次の日にはその葉っぱはちぎられていた。人間は稲以外を育てるほどお人よしではない。

          2024/05/26 萍(うきくさ)

          2024/05/18 「ことばの日」 

          「なる、どういう意味?」 同居人の質問に意味が掴めず、どんな字?と私は聞き返した。 『成る』 見せられた画面のはそう出ている。 「出来上がる。完成する……かな」 「木の実が出来上がる?」 私は首を傾げる。木の実の場合はそんな字だったろうか。調べると『生る』が出てくる。 「その場合はこっち」と画面を見せる。 「同じ音なのに、意味が違うのは難しいよね。でも、この国は文字も違う」 「その場合は、ひらがなにしてしまうのがいい。漢字を平仮名にするのは『ひらく』っていうらしい

          2024/05/18 「ことばの日」 

          2024/05/16 「性交禁忌の日」 ※R15※

          ※軽い性描写があります。 「だーめ」 クスクスと笑うと男は「いいじゃん」と答える。こういうお笑いがあったような……と頭をかすめる。 「いいわけねーだろ」 先ほどと同じく軽く言ったのだが、男の顔は瞬時にひきつった。 「どうしたの? いきなり」 私は服を探して床から起き上がる。 「いきなりじゃないよ。さっきから、ダメだって言ってたでしょ。描くだけ。それ以上はない。最初からその約束で三万円でしょ」 「はあ? んなわけないだろ。脱いだらやるだろ」 「今日は禁忌日。やりたか

          2024/05/16 「性交禁忌の日」 ※R15※

          2024/05/25 薔薇(ばら)

          玄関前にはいくつかの薔薇の鉢が並んでいる。薔薇は繊細なような気がしたのは、ケースの中に入れて育てたという物語があったせいかもしれない。 「もう、あんなのぶっちぎってやる。可愛くない」 そう喚く友人は、とげぬきを手に指先と格闘している。 「玄関に置いてある枝、薔薇だったんだね。数年放置してたって聞いたような気がしたけど、薔薇ってそんなに強かった?」 私は友人にそう聞いてみた。 「あん? 薔薇は繊細だって? 私もそう思ってたわよ。でも、調べたら原種に近いほど、頑丈なの。繊

          2024/05/25 薔薇(ばら)

          2024/05/15 「ヨーグルトの日」 

          「あーーぶう」 赤ん坊の声が家の中からする。うちに赤ん坊がいた覚えはないと思って居間に入ると、友人が膝の上に赤ん坊を抱っこしていた。 テーブルには5つのヨーグルトの殻が乗っている。赤ん坊の手にも口にもヨーグルトがべったりとついている。さらに赤ん坊はまだ欲しいとばかりに6つめに手を伸ばしている。 「いつ産んだの?」 「まさか。一時間だけの約束で預かったのよ。……ヨーグルトを与えておけば大丈夫と言ってたけど……こんなに食べるなんて思わなかった」 友人は顔に着いたヨーグルト

          2024/05/15 「ヨーグルトの日」