『THE FIRST SLAM DUNK』復活上映に寄せて。

1 はじめに

2024年1月23日に、1日限りの『THE FIRST SLAM DUNK』復活上映が行われた。
全国47都道府県の107劇場で、10時の回と19時の回の2回限定。
平日ということもあり、DolbyやIMAXのスクリーンを用意してくれる劇場も少なくなかった。
私も、無事に2回鑑賞することができた。

これだけあちこちの映画館に足を運んだつもりでも、実は「ここに行ってみたかった」と思う映画館(スクリーン)が何か所か残っていたりする。

『THE FIRST SLAM DUNK』を観た映画館まとめ。|your (note.com)

自分としては、結構いろいろな映画館で『THE FIRST SLAM DUNK』を鑑賞したつもりでいたが、心残りがないわけでもないということを過去のまとめ記事にて書いた。
再上映等をすることがあれば、上映期間中に行けなかった映画館で鑑賞したいと何となく思っていたけれど、平日の上映ということで、移動時間を考えるとなかなか難しく……。
スケジュールを考慮して、結局ホームみたいに何度もお邪魔した映画館で鑑賞することにした。
10時の回は丸の内TOEIさん、19時の回は新宿バルト9さんのDolby Cinemaである。
丸の内TOEIさんでは、鑑賞後にDVD・Blu-rayや封入特典の実物が展示されていて、撮影待機列ができていたりした。
実物を見るとすごく可愛くて、届くのが楽しみになった。
バスケットボール男子日本代表ヘッドコーチのトム・ホーバス氏が丸の内TOEIさんで鑑賞されたとのことだが、10時の回だったならご一緒できたことになる(多分19時の回だとは思う)。

「スラムダンク」1日限りの復活上映、1日だけで興収1億3000万超、ホーバスHCも来た!(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース

約5か月ぶりに『THE FIRST SLAM DUNK』を観て、上映期間中にあれだけ鑑賞したにもかかわらず、新しく気づいたことがあって自分でも驚いた。
原因としては、終映後に原作の『SLAM DUNK』を通して読んだことが挙げられるだろう。
幼いころから数えきれないほど読み返している原作だが、読み返しすぎて登場人物もストーリーも試合展開も暗記している。
そのため、『SLAM DUNK』の映画化が発表されたときも、「予習しとこ」みたいな感じにはならなかった。
ここ最近……映画上映中も読み返しはしたが、試合ごとに区切って読むなどして、「1巻から31巻まで通して読む」ということをあまりしていなかった。
改めて原作に一から触れることで、また違った映画の見方ができたのだと思う。

2 90's英雄 ヒーロー・桜木花道

先日、2018年に開催されたジャンプ展VOL.2の記事をまとめたので、こんな見出しになった。
桜木は、何がどうあれやっぱり『SLAM DUNK』の主人公で、ヒーローなのだ。

宮城の過去以外で原作から付け足しされている場面や台詞は、軒並み映画でカットした場面を説明するための代替シーンだ。
試合場面冒頭の、観客席で行われる晴子や桜木軍団の自己紹介などは、まさに山王戦より前のエピソードを削除したことによる代替台詞だろう。

『THE FIRST SLAM DUNK』についての考察という名の妄想。|your (note.com)

noteで初めて書いた記事の中でこんなことを述べているが、それほど的外れな推測ではない、と思う。
そんな付け足された台詞の中で、上映期間中に気になっていたけれどあまり理由がつけられなかったものがあった。

ゴリ…
すぐ行くぞ!!
それまでゴール下頼む!!

『SLAM DUNK』#31 #211 内部崩壊

リョーちん、すぐ行くぞ!!
ゴリ、それまでゴール下頼む!!

『THE FIRST SLAM DUNK』

背中の怪我でベンチに下がった桜木が、出場を強行しようとする場面の台詞だ。
原作だと赤木剛憲に向けてかけられた台詞が、『THE FIRST SLAM DUNK』だと前半を主人公である宮城リョータに、後半を赤木にという形に振り分けられている。
どうしてこのような改変がされたんだろう? とは思っていたものの、納得のいく理由が「『THE FIRST SLAM DUNK』では宮城が主人公だから」という理屈にならない理屈しか思い浮かばなかった。
しかし、原作を一から読んだうえで鑑賞したことで、新たに感じたことがあった。

最後の四教室を桜木のためにとっておいたんですが、描いていて、その存在感の強さ、格の違いをあらためて感じました。桜木花道は背中だけで語れる男なんですよ。

『SWITCH』VOL.23 NO.2 2005年 スイッチ・パブリッシング

桜木とゴリは、背中で語れる男なんですよ。あの二人は背中だけでもつんです。今回も次から次へと黒板に描いていって、最後に花道のために三教室とっておいたんですけど、花道の話を描き始めたときに、「役者の違い」を感じましたよね。ロング・ショットで遠くに捉えて描いていたり、背中と後頭部だけだったりしても、花道はそれで充分もつんですよね。

『SWITCH』VOL.23 NO.2 2005年 スイッチ・パブリッシング

このインタビューがすごく印象的だったから、『THE FIRST SLAM DUNK』を観たときに、オフェンスリバウンドという使命を得て、ベンチの期待を背負ってコートに戻る桜木の後ろ姿が再現されていて、嬉しく思った。

それはさておき、監督を務めた作者の中で、やはり桜木は「別格」なのである。
隠しても隠し切れない主人公感。
ここで、もうひとつ原作から改変されている場面が思い浮かんだ。

27巻#241『4POINTS』での、山王工業高校が湘北高校相手に最大24点差をつける場面だ。
原作だと、流川楓のシュートが外れ、野辺将広がディフェンスリバウンドを取りボールを深津一成に渡す。
そして、深津からのパスを受けた沢北栄治がダンクシュートを決め、山王が60点目を取る。
ここから安西先生が桜木にオフェンスリバウンドの重要性に気づかせる……という流れで、湘北の猛追のきっかけをつくる。

一方、『THE FIRST SLAM DUNK』では、宮城が桜木に代わって出場した木暮公延に「スクリーンアウト!」と叫び、実際に木暮はスクリーンアウトをするが身長差・体格差でまったく敵わず、不利な位置取りから野辺がリバウンドを奪取し、そのままシュートを決める……というふうに、得点者そのものが変わっている。
その後、内心で宮城が「高さがキツイ」とこぼすシーンも追加されている。

湘北-山王で、ゴール下での河田兄弟や野辺の高さやパワーに直接対抗してきたのは桜木や赤木である。
試合の最終盤での桜木不在が1番直接的にのしかかるのは、赤木だったのは言うまでもない。

スラムダンクにはいろいろなポイントガードが出てきますが、描ききれなかった思いが強いです。当時の自分の中ではバスケットの理解がそこまでではなかった。そこが少し心残りですね。

週刊朝日 MOOK『B' 2018-19 B. LEAGUE×井上雄彦』2018年 朝日新聞出版

現在の作者があの場面を描くとすると、赤木同様に、彼らにパスを供給して指示を出す立場の宮城も同様に、ゴール下での河田兄弟や野辺の高さやパワーの壁を感じていた……ということになる。
そこの理解が深まったことで、映画で宮城は対深津のマッチアップ以外の場面で「高さがキツイ」と苦しい思いを吐露したし、だからこそ桜木は1番しんどい思いをしているであろう赤木と、そして宮城に声をかけたのだろう。
桜木、あまりにも、ヒーローすぎる……主人公すぎる……。

この時点でコート上の湘北メンバーの心の中は
すでに「負け」の2文字に侵されていたかも知れない
ベンチの最後の望みは この男の手にたくされた

『SLAM DUNK』#27 #242 切り札参上

映画ではカットされたナレーションなのだが、桜木は圧倒的な光であり希望なのだ。
やっぱり、桜木が、好き……。

3 色褪せた場面

もう1点、新たに気づいたことがある。
『THE FIRST SLAM DUNK』にて、ベンチに下がった桜木の脳裏に、これまでのことが浮かぶ場面だ。
最初の、不良たちに囲まれた桜木が、彼らを返り討ちにしにしている場面では、回想場面ということを差し引いても、全体の色味がくすんでいる。
しかし、その次の、晴子から「バスケットは…お好きですか?」と声をかけられた場面から、回想シーンが色鮮やかに変わる。
この時点では、桜木はバスケットボールには興味がなく、単に好みの可愛い女子から声をかけられたのが嬉しかっただけではあるが、その後続いていくバスケットの試合や練習場面の回想でも明るい色味のままなので、晴子とバスケットの存在が彼にとってどれだけ大きかったか、というのを改めて感じてとてもエモーショナルな気持ちになった。

色褪せた場面で印象的なのは、以前も書いたのだが、試合の最終盤だ。

また、最後のオフェンスの場面は恐らく流川視点だと思うのだが、音だけでなくすべての色が消えていき、湘北の赤いユニフォームさえ色褪せていく中、右45度に立っている桜木だけが色鮮やかに浮き上がって見える……というのが、とてもエモーショナルな表現だ。

『THE FIRST SLAM DUNK』の好きなところ(追記:3月5日)|your (note.com)

どちらの場面も、桜木が赤髪だからこそより色鮮やかに引き立つというか……言葉で語るわけでもないのに直感に訴えかけてくる、とても胸に響くシーンだと思う。

4 おわりに

約5か月ぶりに、映画館で『THE FIRST SLAM DUNK』を観て、本当に楽しかった。
私の鑑賞した会場では2回ともチケットが完売していて、満席のシアター内で、再びあの試合の観客の一員となったような気持ちを味わえた。
チケット販売が通常よりもだいぶ早かったこともあり、今回チケットを購入したのは熱心に情報を追いかけているファンが大半を占めていただろう。
みんな見方をわかっている感じで、特にラストの無音の場面では全員固唾を呑んで試合の行く先を見守っている、あの緊張感が懐かしかった。
円盤ももちろん予約しているし、届くのが楽しみだが、「満員の観客席の一員になる」というのは映画館での上映でないと難しいと思うので、参加できて良かったと思う。

新宿バルト9さんの19時のDolby Cinemaでは、チケット販売時から「販売対象外」の席が複数あった。
数が多かったので「関係者席かな?」と思ったら、実際に関係者の方が座っていたらしく、退出の際に目撃して納得した(全員ではないけれどスタッフ配信などに参加していた方もいて、気づけた)。
ファンはもちろんだけれど、携わったスタッフの皆さん含めてお祭りのように集まれる機会があるっていいなーと感じた。
簡単なことではないとは思うけれど、またみんなで試合を観られるような機会があったら嬉しい。

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