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【ギャラリー探訪日記】2024.1.13 倉俣史朗のデザイン    

倉俣史朗のデザインー記憶の中の小宇宙
@世田谷美術館 開催中〜2024年1月28日まで

 アートやデザインが昔からなんとなく好きで、時々ギャラリーや美術館に行く。特に美術館は公園などの中にあることが多いので、ちょっと自然に触れたいなって気持ちの時にも、心のおやすみ場所のように展覧会を訪ねる。そして昨日ちょっと辛いことがあったので、世田谷の砧公園の中にある世田谷美術館まで出かけてみた。

世田谷区の砧公園内にある世田谷美術館

 私は'80年に社会人になったけど、最初に入社した建築系の大企業が全然肌に合わず半年で退社して以来、編集の仕事に関わるようになって、実は結構色々な編集部やプロダクションを転々とした。当時はバブルの絶頂期で、色々な場面でデザインがすごく注目を浴びている時代だった。
 当時の私は、六本木のアクシスビルのカタログとか、『家庭画報』とか、『ブルータス』とか、『ふたりの部屋』などインテリアや家具とかデザインに関わるいろんな記事を作った。元々美術関係の勉強をしていたわけではないけど、多分好きだったから、アーチストやその作品に興味を持ち、いろんなことを仕事をしながら学ばせてもらった。
 私が若い時に少しだけ関わったこのデザインの世界の中でも、倉俣史朗さんは、飛び抜けて美しい作品、ガラスの椅子とか、どう考えても実用的ではない、目が飛び出るほど高い家具なのか、芸術作品なのかわからない”家具”をデザインしていることで有名で、建築家の安藤忠雄さんとか、三宅一生さんとかと並ぶ、どこか超次元のデザイナーさんという印象を持っていた。そういえば作品は写真でしか見たことがなかった。
『ミスブランチ』(1988年)というアクリルにバラの花を散りばめた椅子は、彼の代表作と呼ばれるもので今回のポスターになっているが、これは彼が91年に急逝する少し前の作品だ。私は当時この椅子を見た時、それまでのどちらかといえば精巧でストイックな感じの創作活動に何が起きたのだろうとちょっとびっくりしたことを覚えている。でも90年代の私は2人の子どもの子育てで手一杯で、アートのことなど考える余裕はなかった。
 あれからはや30年・・・ふーっ今回展覧会が開かれることを知り、また『ミスブランチ』を実際に見られることを楽しみに出かけた。
 展覧会の冒頭メッセージは「私にとってみた夢の体験を含めて記憶は無限の宇宙を構成してくれる」からスタートした。
・重力から浮遊したい思いを空間化した硝子の椅子
・存在しながら存在していないという金網を溶接したハウ・ 
 ハイ・ムーン
・ピラミッド型の透明な引き出し
などなど空間、そして光や色を巧みに使った作品を直接見る。本当に美しい!

1965年〜69年の素材の追求と詩的表現の時代、70〜79年の哲学的な感じが強くなる時代、そして1980〜91年までの重力から解放され軽さや色彩を楽しむ作品群。その過程で生まれた美しい椅子『ミスブランチ』はやっぱり可愛くて素敵だった。
作品の知的な美しさ、繊細さ、自由な創造性にプラスして展覧会のパネルの中で紹介されている倉俣氏の語る言葉、そして数々の作品のモチーフとなった夢日記、愛読書やレコードなども展示されていた。
「夢は養分であり、現実であり、解放区であると思っています」(1991年)
解放区・・・私はすごく幸せで豊かな時間を過ごした。
 そして何より私が一番印象に残ったのは、この美術展に幼いこどもたちや、ベビーカーを押した若い夫婦がたくさん来ていたこと。きっと倉俣さんもこれからの時代を生きるこどもたちが彼の作品を見ることを喜んでいるだろうな。

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