中年のおっちゃんは美意識が高まっているのか?そして、なぜ受付の女性は無愛想なのか?疑問が駆け巡る皮膚科受診。『デタラメだもの』

何やら足裏の皮膚が妙な具合になっていて、薄皮がめくれるというか、気になって薄皮をめくるというか、とにかく正常な状態でないのは間違いなく、珍しく病院に行くことを決意した。だって、もしかして水虫だった場合、すごく長いお付き合いになりそうだし、その戦いに苦戦を強いられている人のエピソードしか届いてこないんだもの。ということで仕事の合間を縫って皮膚科へ。

人生のうちで決定的に皮膚の症状がおかしくなった過去2回お世話になっている皮膚科。お陰様でなかなか暇を持て余す時間がない身分なので、どう考えても混雑していなさそうな午後3時頃を狙って受診する。予想通り、診察中の患者さん一人と待ち合いには中年のおっちゃんが一人という状況。これはササッと診察を終えて帰れそうだ。

とその前に、これは僕だけが感じていることなのかわからないけれど、すごく丁寧で信頼のおけるお医者さんがおられる病院ほど、受付の女性って無愛想じゃない? その皮膚科も例に漏れず、先生はとても感じが良く紳士的な方なのだけれども、受付の女性がいつ何時でも無愛想。過去2回お世話になったときも今回も、もちろん無愛想。

前回受診したのがかなり前だったもんで診察券はもはや財布にはなく、なので健康保険証だけを差し出しながら、「すみません、前回がずいぶん前だったもので、診察券がないんです──」と言い終わるや終わらんやのタイミングで、「はい」と目も合わせずしかも小声で且つ事務的な口調で僕の健康保険証を人差し指と中指で挟み取る始末。呆気に取られるというのは、まさにこういうこと。

ただ、過去2回もそうだったし、他の病院でも同様、良い先生がいらっしゃる病院には無愛想な受付の女性というのがワンセットであるという教訓も叩き込まれているため、それほど心に傷を負わずに済んだ。

で、中年のおっちゃんと横並びで診察を待っていると、先客の方が診察を終え待合室に。スーツを着込んだサラリーマンの男性。そうかそうか、もしかしたら君も水虫疑惑だったのかもしれないね。疑惑は晴れたかい? そんなことを考えながら時間を潰す。

そうこうしているうちに、隣に座る中年のおっちゃんの名前が呼ばれ、おっちゃんは診察室へ。スポーツ系のキャップを被り、若干メタボ気味のお腹とクロックスのサンダルを履いた足元がちょっとダラシない風情の50代前半と思しきおっちゃん。診察室へ入って数分後、先生の大きな声が待合室に漏れてきた。「えっ? じゃあ僕がやりましょうか……?」という台詞を先生はおっしゃっておられた模様。なになに、どういうこと? 何があったの?

しばらくして、おっちゃんが診察室から待ち合いを抜け、病院の地下へと下りて行った。この皮膚科、夫婦で経営されており、ご主人は大阪で、奥さんは兵庫で患者の診察に当たっている。奥さんは美容関係の施術もやられているそうで、この病院の地下にも美容関係の施術スペースがあるのだと思う。火曜日だけは奥さんが大阪を担当し、ご主人は兵庫で。そのため女性の患者さんの多くが大阪に通院し、地下のスペースで美容関係の施術を受ける、というようなスキームになっているっぽい。

ただ、その日は水曜日。奥さんは兵庫。ここ大阪にはご主人。だからきっと、水曜日の大阪では美容関係の施術の希望は受けていないはず。ということは……?

地下に下りていったおっちゃんを追いかけるように診察室から出てくる先生。待合室を抜け地下へと下りて行く。そう。これはあくまでも想像の域を出ないが、「えっ? じゃあ僕がやりましょうか……?」と先生が驚嘆しながら漏らしていたということは、男性である先生が男性、しかも中年のおっちゃんに対し、美容関係の施術を行うということ? え? 何やんの? どこの部分をどうするの? どこかを擦ったり揉んだりするの?

ここから忍耐を伴う戦いが始まる。美容関係の施術を受けるであろうおっちゃんと、美容関係の施術を行うであろう先生が地下に下りてからというもの、30分以上経っても二人は地上に姿を見せない。せっかく患者の数が少なそうな時間を見計らい受診した当初の計画。あろうことか、美容関係の施術のために大幅な時間を奪われてしまっている。なんか、めちゃくちゃ阿呆くさい。

おっちゃんをひと目見たときから、「もう、診察はええんですわ。前回と同じ薬だけ出してもろたらそれで結構ですねん。あっ、半年分くらい薬出しといてもらえまっしゃろか?」とコテコテの関西弁でまくし立て、秒速で診察室から出てくるタイプの患者さんと思っていた。それが現実はどうだ? 今、病院の地下室で美容関係の施術を受けているんだぜ。信じられるかい?

それからさらに10分ほどが経ち、ようやく先生が地上に舞い戻ってきた。待合室を抜ける瞬間、こちらにチラッと視線を送り、「遅くなって、すみません」と会釈する。とても感じの良い先生だ。きっとあなたが悪いんじゃないよ。だってあなたは、「えっ? じゃあ僕がやりましょうか……?」と、尻込みし、できれば対応したくないという人間らしい拒否感を匂わせておられたじゃあないの。悪いのはおっちゃんのほうだよきっと。火曜日と水曜日を間違えて、ご主人の日に受診しちゃったんだよ。僕はあなたを責めやしない。

その後、おっちゃんも地上に姿を現し、そのまま診察室へ入ることなく、受付で診察料、もしくは施術料を支払い病院を後にした。ただ、地下に下りる前と後で、どこかがスリムになった様子もツルスベになった様子もない。どこをどのように施術されたのかは謎である。

いろいろあったが、個人的にはここからが本番。僕の右足裏が水虫かどうかの戦い。診察室に入り症状を伝えると、中年の美容関係の施術を終えた先生は真剣な眼差しで僕の足裏の薄皮を切り取り顕微鏡へ。プレパラートの底面をライターで炙り、顕微鏡のレンズを熟視する。

「水虫じゃないですね。菌は全くおりません。ちょっと皮膚が群れちゃったのかもしれませんね。全く心配いりませんので」

俺は勝った。やはり俺は水虫じゃあなかった。勝利は確信していたものの、念のために来てやったのだ。ぐははあ。心が晴れた。もう何の不安も抱えずに毎日を生きて行ける。晴天晴天。

予想の何倍も待ち時間を喰らい、少しく仕事が押している状況ではあるものの、水虫の疑惑が晴れて本当に良かった。やっぱり白か黒かをハッキリさせるというのは気持ちの良いものだ。そう思いながら待合室に座っていると、受付から俺の名前を呼ぶ声。受付スタッフの女性は、安定の無愛想な対応。もちろん、その対応に心が痛む。皮膚科とかの受付スタッフも面接して入ったりするものなの? じゃあ、あの良心的で紳士的な先生がこのスタッフを「よし! 君に決めた!」って感じで採用しているの? そういうもんなの? なに、この人間性の違いは。どういうスキーム? どういうスキーム?

ともかく、右足裏の悩みから解放されて良かった。心なしか皮膚科に入る前よりも空が爽やかになっている気がした。「よし! 心配と不安のない平常な日々が戻ってきた!」と喜ぶ僕を数日後にアクシデントが襲う。少しく重い機材を撤収する作業時、階段で足を踏み外しそのまま数段落下。右足の甲を捻挫するというハプニングに見舞われるという悲しき未来を、皮膚科前で爽やかな青空を眺めるその日の僕は知る由がなかった。

デタラメだもの。

▼こんな活動をしています、まとめ。

▼過去のアーカイブはこちらです。

▼ショートストーリー作家のページはこちらです。

▼よければfacebookページをフォローください。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

今後も良記事でご返報いたしますので、もしよろしければ!サポートは、もっと楽しいエンタメへの活動資金にさせていただきます!

(๑ ́ᄇ`๑) ←こんな感じで喜んでいます、ありがとうございます!
1

エッセイ『デタラメだもの』

デタラメに生きる。デタラメに暮らす。薄暗い世の中をデタラメに生きるための処世術、バイブル。エッセイです。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。