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PUI PUI モルカー×大浦るかこ夢小説お焚き上げ

大浦女史こと大浦るかこさんのラジオ配信で、週替わりで募集されるおたよりコーナー。今週のテーマは「あにまーれの夢小説」でした。

前回配信でこのテーマが発表された際、ちょうどリアルタイムで視聴していて「モルカー×大浦るかこ 」の夢小説なら書きます、とコメントしていたので、有言実行ということで拙いながらも人生初の夢小説?として認めました。

流石にラジオの1コーナーに対して投稿するボリュームではなかったので、当然ながら配信で紹介されることもありませんでしたが、せっかく書いたので公開してみたいと思います。

夢小説の定義やカップリング表記の前後関係にこだわりのある方、バーチャルYouTuberさんとモルカーの夢小説に拒否感のない方、よろしければ暇つぶしに困ったときにでもどうぞ。

タイトル:25時の逃避行

突然ですが、私、大浦るかこと申します。趣味は読書と謎解きで、好きなものは砂肝と叙述トリック。割とどこにでもいる、比較的ありふれた成人女性です。そんな私ですが、今、深夜のハイウェイで敵に追われています。

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誰に向けられるでもないモノローグをかき消すように、つんざくような甲高い発砲音が響く。
深夜25時過ぎ、都市の中心部に蜘蛛の巣のように張り巡らされたハイウェイを、2台の車が追走している。先を行く小型車を追うように、明らかに一般車には見えない黒塗りの大型車が続く。後部座席の窓から身を乗り出すようにして向けられた自動小銃が撒き散らす銃弾の雨を、周囲の車両を避けながらひたすら勘を頼りに躱し続ける。
「もう、周りにまだ一般人もいるっていうのにお構いなしか。お願いだから、もう少しがんばってね!」
忙しなくハンドルを操作しながらそう叫んだ私に、ぷい! と、まるでこの状況に似つかわしくないほど愛らしい声で答えたのは、私が今運転している小型車ーーではなく、モルカーだった。そう、私の仕事上の唯一無二の相棒であり、最愛のパートナー。この子がいるから、私は今もこの「仕事」を続けられる。

私の仕事、一言で言えば所謂「スパイ」というやつです。

命じられれば、どんな国でもどんな環境でも任務を遂行する、組織内では「オウル」の名で呼ばれる構成員の一人。今回の任務は、とある企業の研究施設への潜入。世界的に禁止されている非人道的な実験が行われており、その研究データと実験の証拠を回収してくるというものだった。途中までは、いや、予定された行程の90%以上は上手くいっていた。必要な全てのデータを回収し、あとは研究所のネットワーク内で中核を成すサーバで組織から用意された脱出時のジャミング、証拠隠滅用のプログラムを内部から実行するだけ、そのはずだった。ところが、サーバの管理コンソールへプログラムの仕込まれたメモリを差し込んだ瞬間、けたたましい警報が研究所内に響き渡った。想定外の事態の中で僅かに逡巡しながらも、事態の把握のためコンソールに指を走らせる。事前の情報から、所内のネットワーク配下に置かれた端末は接続可能なデバイスが徹底して管理されており、許可外のアクセスに対しては瞬時に警報が鳴るようになっていた。今回用意されたメモリは、そのセキュリティに干渉しないよう組織のエンジニアが細工を施した特別製だったはず。

「それなのにどうして……」

コンソールのディスプレイに表示された、たった今自分の差し込んだメモリのデバイス名に視線が止まる。”MIA_YUME_HIMITSU”……? なんだこのふざけた名前は……。焦る気持ちを押さえつけながら、急いで中に格納されているはずのプログラムを確認しようとメモリを開いたが……。

「”イ○カ先生×わたし♡”って何なの!!!!!!」
すぐ後ろへと迫る追手の銃撃を掻い潜りながら、ハンドルを握る両手につい力が籠る。
脱出の要となるプログラムが入っているはずだったメモリには、組織の馴染みのエンジニアが自分と自分が思いを寄せる非実在男性との情愛が綴られた小説らしきデータが入っているだけだった。どうやら自分のプライベートなメモリと任務用のものを間違えて渡されたらしい。今回のはマジで自信作だから!マジで!といつもに増して自信あり気に渡されたが、その自信作のおかげで私は今こうして死にそうになっている。それも愛するモルカーも一緒に。無事に帰還できたらどうしてあげようか。

「ぷいぷい!!」
「……っ!!」
脱線しかけた意識を現実に向け直し、瞬時に周囲の状況を確認する。気が付くと、さっきまでうるさいほどだった銃撃音もいつの間にか止んでいる。ミラー越しに後方を走る追手に目をやる。追跡をやめた様子はないが、明らかにこちらとの距離を取っている。このタイミングで相手が手を緩めるなんて、どう考えてもおかしい。嫌な予感がする。
「ぷい!ぷい!!」
「!! あれは、ちょっとマズいね……」
走行を続ける追手の車両から乗り出した敵が、先ほどまでとは明らかにサイズも威力も込められた殺意も段違いな「それ」を構えはじめた姿が見える。対戦車擲弾(てきだん)発射器、映画やゲームでもおなじみの「RPG」というやつだ。あんなものを向けられたら、モルカーなんてひとたまりもない。戦闘を念頭に置いた任務ならまだしも、潜入調査がメインの今回の装備では対処しようがない……!
「組織に指定された回収ポイントまでは、このままのスピードじゃまだ数分かかるけど、そんなに待ってはくれないみたい。……最期までこんな仕事に付き合わせちゃって、ごめんね」
「ぷぃぃ…………。!!ぷい!ぷい!」
半ば諦めかけようとしていた私に示すように、モルカーが車内のディスプレイに周辺地図を表示させる。ちょうど都市部と郊外の境界となるように流れる大きな川をまたぐようにハイウェイが続いている。地図と現在地を示すマーカーから、もう間も無く川の真上を通過するのが見て取れる。
「この川……、もしかして、”飛べ”っていうこと?」
「ぷいぷい!」
確かに、今取れる選択肢はもうそれしか残されていないかもしれないし、他に考えている時間もない。ただ、このハイウェイは地上からゆうに50mはある高さに建設されている。仮に追手の砲撃を躱せたとしても、この高さから落ちて私もモルカーも無事でいられるかどうか……。でも、
「それでも、やるしかないんだね」
「ぷい!!」
覚悟は決まった。他に道がないなら、残された可能性に全てを賭けるしかない。それに……。
「あなたと一緒なら、死んでもいいよ」
どんな時も、いつだって傍にいてくれたモルカー。この子がいなかったら、この過酷な仕事の中で私の心はとっくに磨耗していただろう。
最後に一度、背後の追手に目をやる。あの様子ならもう10秒とかからず、こちらを焼き鳥と焼きモルカーにする準備ができるだろう。
チャンスは一度しかない。
ナビのマーカーを見る。今のスピードと川の幅を考えると、確実に川の中心に着水するためには、あと5秒。
冷静に、慎重に。
「3、2……!!」
一度大きく中央分離帯側へハンドルを切る。ターゲットの急な進路変更に追手が狙いを定め直すのが視界の隅に見える。
「1…………!!!」
再びハンドルを切り直し、ハイウェイの柵へ突っ込むように乗り上げる。
衝撃に続いて一瞬浮遊感を感じた直後、さっきまで自分たちが走っていた路面から爆風が上がる。その熱と風圧に押し出されるようにして、虚空へ投げ出される私たち。

「きゃああああああ!!!」

回転する視界の中で、加速度的に夜の暗い水面が近づいてくる。


水面に衝突する寸前、意識の外側で、ぷい、と鳴く声が聞こえたような気がした。

******

微睡の中から意識が戻ると、見慣れた風景が広がっていた。
PCとオタマトーンしかないデスク、今年買ったばかりの新しい椅子、本棚のない部屋。研究所もモルカーもハイウェイもない、私の部屋だ。
PCの画面には、YouTubeのモルカーチャンネルが表示されたままになっている。どうやら久しぶりに動画を見ている間に寝てしまっていたらしい。それであんな夢を見るなんて、我ながら脳の構造が単純だな。
時刻表示を見ると、午前3時過ぎ。いつもならまだ少し作業をしている時間ではあるけど、中途半端だし、今日は寝てしまおう。もしかしたら、今度は穏やかなモルカーの夢が見られるかもしれない。モルカー、どんな匂いなのかな。夢でもどうせなら猫吸いならぬモル吸いでもしてみればよかった。モルカー、可愛かったな。モルカー、モルカー……
「モルカー、好きだ〜〜〜〜」

fin.

あとがき

はじめに書いていたものが気付いたらそれなりの文字数になってしまったので、可能な限り枝葉を落としてオチの方向性を変えて再編集したものがこちらの裏ラジ投稿版。おたより締め切り当日の夜に一気に書き上げ修正したものなので、細かな荒さはご容赦くださいませ。

モルカー、いいですよね。私も大好きです。

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